第7話 ソエルとユリウス

真っ白い扉の横にあるネームプレートには『ユリウス・ブラック』の名前一つだけが書かれいる。


 四人部屋なのに姉さん一人しかいないのは部屋が余っているからで、魔王の娘だから特別扱いとか、姉さんの性格が協調性0とか、キレると魔法をブッ放すから、とかそんな理由では無い。

 …………筈だ。


「何を固まってるのよ?」


「いやちょっと考え事をね」


「そんなの後にしなさいよ、ほら、先に」

「うわぁ!!ちょっと待った!!!」


 扉に手を掛けたソエルを慌てて止める。


「な、何よ?」


「あ~……その、ソエルは外で待っててくれないかな?」


「?? 何で?」


「それは……」

 姉さんは俺が女の子と一緒にいると何故かブチキレるから……。


「ほらカマセさんの血を渡すだけだからさ」


「ふ~ん……まぁ確かにそうね。」


「でしょ!だからここで待っててよ、すぐ済ませてくるから!」


「ん、分かった」


 よしO.K.、さっさと終わらせよう。

 振り返り扉を開ける。


 四つ置かれたカーテン付きのベッドは三つが綺麗に整頓されていて、入り口から見て右側の奥、窓際の一つだけカーテンが閉じられている。


 日の光で照らされた影から察するに、姉さんはベッドの縁に腰掛けて本を読んでいるみたいだ。


「姉さん、今ちょっといいかな?」


 近づき声をかけると、

「おぉ、ライトか。おはよう」


 シャッとカーテンが開けられて、目が合うと姉さんはにこやかに笑ってみせた。


「うん、おはよう。体はもう大丈夫?」


「あぁ、さすがは天使の治癒魔法と言ったところだな。後は魔力が回復すれば出て行っていいそうだ」


 その台詞は強がりでは無く実際に、あれだけ酷い火傷を負ったにも関わらず姉さんの顔は元通りに戻っている。いや顔だけでなく体全体にもう傷痕は残っていないだろう。


「……良かった」


「そ、そんなにまじまじ見つめるな……て、照れるだろ……」


 何故か姉さんの顔が急激に赤くなった、元通りの顔なのに何が恥ずかしいのか?


 本来なら照れるのは俺の方だと思う。

 人型の魔族は美形が多いと言われる通り、姉さんもかなりの美少女………じゃなくて美女だ(年齢不詳)。


 二つ名の『黒天のユリウス』も全力で戦う時に黒い翼を背負うから、と言うのは半分の理由で、もう半分は単純に天使のように美しいと言われるから。


 ちなみに名付け親は魔王父さん

 多少…………かなりの親バカだがその二つ名が浸透したのは実際姉さんが綺麗だからだ。


 幼い頃から一緒にいる俺が見ても……、

「魔族の象徴たる黒い角、派手な金色の髪は気品すら感じさせ、整ったその顔はまさに男を魅了する魔族のソレ、豪華でありながら動きやすそうな黒いドレスに包まれた体は…………うん、ペッタンコな胸を除けば完璧……いや、スレンダーって言えばいいのか?」


「悪かったな!まな板で!!」


 ギロリ、と凄まじい眼力を飛ばす姉さん。


「い、いやいやまな板なんて思ってな…………姉さんいつの間に心が読めるようになったの!?!?」


 本気で驚く俺だったが姉さんは嘆息して、

「はぁ……ライト、口に出てたぞ?」


「え"、マジで?」


「まじで」


 マジなのか……。恥ずかすぃ。


「いや、ごめん姉さん。悪口言いたかった訳じゃなくて、なんか姉さんの前だと安心するからつい口が軽くなっちゃって、それに姉さん綺麗だから胸なんて誰も、って何でニヤニヤしてるの??」


「な、何でも無いから気にするな」


 ? よく分からないがとりあえず怒りは収まったようだ。

 体は全然大丈夫なようだしカマセさんの血を渡してさっさと戻ろう。


 と思ったのだが、

「なぁ、ライト」


「何?姉さん?」


「アレは何だ?」


 アレ?姉さんの視線の先を追うとそこには、

 半開きの扉に隠れてソエルがこちらを覗いていた。


 俺と姉さんの視線に気付いたソエルはシュバッ!と身を隠したが、残念、

「貴様何者だ!正体を見せろ!」


 姉さんの叫びに合わせて、

「クックックッ、ハーーーハハッハッハッハッハ!!!」

 ノリノリの高笑いが聞こえてくる。


「!?この声は、まさか!」

 いやいや、テンション高くないか姉さん?


 カツン、

 と床を踏み鳴らしソエルが部屋の中に入ってくる。

「完全に気配を消していた筈だが、我に気付くとはさすがに魔王の娘と言ったところか」


 いや、バレバレだったよ?てか我て、誰の真似だよ。


「貴様、貴様は!?」





「誰だ??」


 ズコーーーーーーー!!!!


「何してるの?ライト」「どうしたんだ?ライト」


「「む?」」

 まさかのボケにずっこけた俺に二人が同時に声を掛け、何故か睨みあう。


「おい貴様、私の義弟を馴れ馴れしく呼び捨てにするとはいい度胸だな」


「貴方こそ弟と一つになった人に対して失礼じゃない?」


「「一つになった(だと)!?!?」」


 いきなりの大胆発言に声を上げる俺と姉さん。

 いや間違っては無いけどその言い方だと100%誤解されるんですが……。


「何故お前まで驚く!ひ、一つになったってどうゆう意味だ!説明しろ!!」


「ちょっ!姉さん落ち着いて!!」

 姉さんがガシガシと揺さぶってくる。


「一つになったって別に姉さんが思ってるような」

「フフン、合体(意味深)、と言った方が分かりやすいかしら?」


「がががが、合体(意味深)だと!?!?!?」

 叫んだ姉さんは腕にますます力を込め、グワングワンと頭が揺れる。

 気持ち悪くなってきた……。


「どうゆう事だ!?おいライト!?」


「うぅ……姉さん……気持ち悪い……」


「!?わ、私が……気持ち悪い……だと?……」


 違うそうじゃない。

 愕然とした姉さんの手が止まり、揺れも収まる。


「フ、フフフフ、アハハハハ」


「姉さん?」

「自分の立場が分かったみたいね?」

 壊れたような姉さんの笑いに対してソエルが勝ち誇った顔で言う。


「ああ、よく分かった。」

 姉さんはユラリと立ちあがり、


「貴様、ライトの偽物だな!!」

 ビシッと指を突きつけてよく分からない事を言った。


「「は?」」


「私の、私のライトが、あんな頭の軽そうな女と合体(意味深)などするものか!」


 叫びと同時、

 スパン!と剣が振り下ろされる。


「うおっ!?」


 かろうじて避けると固い床に綺麗な切断面が描かれる。


「姉さん俺だよ、俺、ライトだよ、ってうわぁ!」


「黙れ偽物めぇ!」


 スパンと横に一閃。

 後ろから襟首を引っ張られたお陰でなんとか避けられた。


「あ、ありがとうソエむぐぅっ!??!」


 振り返りお礼を言おうとしたところ、いきなり唇を塞がれた。


 ソエルの体が溶けるように消えていき、同時に俺の体が燃えるように熱くなり、実際燃えていた。


 合体(意味深)……じゃなくて憑依だ。


「何何?何なのいきなり!?」


『落ち着いてライト、とりあえず私達、死にそうよ』


 は?死にそうって何が。


「貴様ら……」


 絞り出したような低い声と同時にとんでもなく重い魔力がのし掛かってきた。


 あぁ、これ、死ねるやつだ……。


「その体で私にそんな物見せるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 ドッ!

 と魔力が吹き出して姉さんの背中に黒翼が現れる。

 いやいやガチじゃないですかお姉様。


『やるわよ』


「やるってアレに反撃する気!?無理だよ、」

『逃げないんじゃなかったの?』


「う"、それは……」


『まぁ、私は別にいいけど、この位置で避けたら下の変人集団に直撃するでしょうね?』


 うぅ、そうか……そうだったよ。

「O.K.やりましょう」

『えぇ!(実はまた必殺技とか叫びたかったのよね)』


「え?何か言いました?」

『何でも無いわ』


「死ぬ前の祈りは終わったか?私の前で義弟を侮辱した事、後悔しながら消え失せろ!」

 侮辱て、本人だって言ってるのに……。


「闇纏剣奥義!!!黒天断空斬!!!!」


 ズドン!!!

 と闇を纏った剣から文字通り空間を断つ程鋭い斬撃が飛び出した。


 てか斬撃なんて燃やせるの!?

『いいから早く!死にたいの!?』


 迫る斬撃。


 迷っている暇は無い、ああ!もう!


『「必殺!!爆裂精霊拳!!!!!!」』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る