第6話 精霊王の加護と特質魔力について

「確かに言ったわ。でも、どんな物事には例外はつきものよ。昨日は私もあり得ないと思ったけど、冷静に考えてそれ以外あり得ない。」


「貴方は特質魔力『精霊王の加護』を持っている」


 精霊王の……加護??

「何それ??精霊王ってアルテミシアの事?」


「そうよ、って言うか私の名前は知らなかったのに精霊王の名前は分かるのね」

 若干目を吊り上げて言うソエル。


「だって精霊王アルテミシアって言ったら魔界の住人で知らない人はいない位有名だし」


「む、何でよ?」

 更に不機嫌オーラが倍増するソエル。


「何でって、だって今全魔界中で最も最強に近い魔王って言われてるゴルドノアが、その精霊王の契約者って話なんだけど?」


 確か父さんに憧れて魔王について調べ始めたのが五年前だったかな。その時から全魔界最強と言えばゴルドノアって言われていた筈だ。

 だからこそ精霊についても少し調べていたのだ。

 まぁ、実際に自分が精霊の契約者になれるとは思ってもみなかったが……。


「ふ~ん、精霊王が契約ね……」


「ソエルは知り合いなの?その精霊王と」


「まぁ、知らない仲では無いわね……。けど、今はそれよりも貴方の話よ、そもそも捨て子って言ってたわよね?最初の親は本当に貴方の産みの親だったのかしら?」


「……さぁ?分からないけど、産みの親じゃなかったとしたらあの扱いにも納得出来るね……。どうして?」


「例えばの話だけど……その魔王ゴルドノアが貴方の実の……」

 そこまで言ったところでソエルは口を閉ざしてしまう。


 何を聞こうとしているかは分かる。

 でも、それがとても酷い質問だと思って聞けないんだろう。


 気にする必要無いんだけどな、だって実際どう考えても、

「あり得ないよ」

 と笑いながら言う。


「ゴルドノアの住む魔界は第999魔界、このセレンディアは第7魔界。捨てるにしてもわざわざこんな遠くに来ないだろうし、そもそもゴルドノアには子供も妻もいない」


「でも……ううん、何でも無いわ、変な事聞いてごめんね」

 何か言いたそうだったがそれを飲み込んで作り笑いを浮かべるソエル。


「いや気にしないでよ、それよりその『精霊王の加護』ってどんな力なの?」

 仰々しい名前からしてかなり強い魔力だと思うけど。


「魔力増幅と複数憑依、それから精霊以外の生物と契約して魔力を引き出せる、こんなところかしら?」


「ずいぶんお得な力だね……。魔力増幅と複数憑依は何となく分かるけど、最後の精霊以外と契約って何?」


「分かりやす言えば『精霊以外の生物と契約して魔力を引き出せる』って事よ」


 いやドヤ顔で言われても、

「さっきと変わってないんですが……」


「うるさいわねぇ。じゃあ……例えばさっきの奴隷」

「ストップ奴隷って言うの止めようか」


 この精霊意外にチョロそうだからな、パンケーキ一つでついて行きそうだし、その結果あの変態をイジメてドSに目覚めたら大変だ。(俺が)


 アイツが喜びそうなワードは口に出させてはいけない。


「じゃあご飯のおじさん」

「それもアウト」


「じゃあ財布」

「悪化してるよ」


「飯!」

「さっき食べたでしょ?」


 む~、と頬を膨らませるソエル。

「あれね、好きな子をイジメたくなるのは分かるけど、それ逆効果よ?」


「は?好きって、誰が誰を??」


「あ¨ぁん?」


「ひぇっ!?」

 睨まれた、しゅごく怖いこの子。


「か、可愛い顔がヤバい事になってるから一旦落ち着こうか。

 代わりに俺が考えるから、エ~ット」


「可愛!?フ、フフン、いいわ許してあげる」

 むふー、とニヤけるソエル。


 とニヤニヤしてる内に考えねば、変態が喜ばないワードでなおかつソエルが嫌われるような呼び名は……。


 閃いた、

「イケメンだ!」


「え?」


「イケメン!」


 俺のナイスなアイデアに何故か驚いた表現のソエル。

「……貴方……もしかして男色……」


「違うから!?」


 と下らない話をしているうちに病院に到着した。


 魔力の無い人間界では『科学』と呼ばれる力で人を癒すそうだが、ここ魔界では怪我も病も魔法で治癒している。


 ただ治癒魔法が使える者は魔界全体でも一割に満たないと言われている。

 その理由は先程の話で上がった『特質魔力』だ。

 魔力は基本的に母親、父親のどちらかを引き継ぐ訳だが、ごく稀にその二つが混同、または別の魔力に変化する事がある。


 そうして基本の四属性から離れた物が『特質魔力』と呼ばれる。


 例をあげるなら姉さんの闇属性の魔力は四属性全ての『混同系魔力』、まあ混同系の中でもかなり特殊な部類に入るが……。


 そしてこの後で会いに行く氷の精霊の魔力は、恐らく基本の水属性が変化した『変化系魔力』だろう。


 そしてもう一つ、まったく別のを持って生まれてくる事がある。

 魔力であって魔力で無い力、その力こそがイレギュラーの代表『特質系魔力』。


『治癒の魔力』しかり、カマセさんの『魔力無限』しかり、四天王カグツチの火属性無効……いや吸収?……とにかくこういった物が特質系にあたる。


 それなら治癒の魔力を持った者同士で子供を作ればその数を増やせるのでは?

 と思うかも知れないがそれは出来ないのだ。

 この特質系、遺伝する物と、遺伝しない完全なる偶然でしか身に宿らない物とに分かれる。


 だからこそ遺伝しない『治癒の魔力』を持つ者は魔界で重宝される。


 そう、丁度今のように、

「「「「「「「「「フクエル様!!!!!我々のような愚民に力を使って頂き、どうもありがとう御座いました!!!!!!!!!」」」」」」」」」


 病院の中に入ると玄関の先のロビーでざっと数十人単位の人間が土下座をしていた。


「いえ、そんな、私は天使として当然の事をしただけですので、どうか顔を上げて下さい」

 ワタワタと手を降って慌てるフクエル様。


 恐らく院内の病人全員の治癒を終えて魔王城に戻るところなのだろう。


 この人数を一人で、それもたったの一日で癒すとはさすが次期『神に最も近い天使』と呼ばれるだけはある。


「ちょっと何ボケッとしてるのよ!お姉さんのところに行くんでしょ!」


 天使の神々しい後ろ姿ハイパー悩殺ボディに見蕩れていた俺にソエルが機嫌悪そうに言ってくる。


 俺もフクエルさんに挨拶しておきたかったけど取り込み中みたいだし、仕方ない。


「ごめん、ごめん」

 とお別れイベントの一団を横切ると

 それに気付いたフクエルさんがにこやかに手を振ってくれた。


「フクエルさん……」

 やっぱり俺も信者として土下座集団に、


「ホラ、早く行くわよ!」

 加わろうとしたところで耳を引っ捕まれて、


「痛っ!痛い痛い痛い!!ちょっソエルさん!?何を怒ってるんでしょうか!?」


「うるさい!変態!」


 耳がちぎれそうな程の力で俺を引きながら、何故かイライラした感じで階段に向かうソエル。


 あぁ、フクエルさん……。

 仕方なく引き摺られたまま手を振り返す。


 フクエルさんは子供を見るような優しい目で微笑んだ。


「ったく、他の女の子にデレデレしないでよね!」


「だって天使」


「あ¨ぁん?」


「ひぃっ!?何でも無いです。ごめんなさいでした」

 やっぱり怖いわ。


「まったく、ほらちゃんと自分で歩いてよね」


 耳を解放された俺はツカツカと階段を昇るソエルを追って姉の病室に向かうのであった。


「あの、ソエル?」


「何よ?」


「姉さんの病室、この階なんですけど……」


「っ!?分、分かってるわよそんな事。貴方を試したのよ!」


 何を試したのかしらないが、スゲー顔赤いよ、とは口が裂けても言わない方がいいだろう。


「ちなみに左側そっちじゃなくて右側こっちなんだけど……」


 照れ隠しとばかりに俺と反対方向の廊下に向かうソエルに告げると、


「うるさい!バカァ!」


 と何故か涙目で殴られた。

 泣きたいのはこっちなんだが……。

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