第5話 パンケーキと奴隷
「う~~~ん、アマ~~~~~い!!!!!!!」
もにゅもにゅとパンケーキを頬張るソエルはとろけるような笑顔を浮かべている。
お洒落な店の外に設置されたお洒落なテラス、周りのカップル客はイチャつく手を止めて俺達のテーブルを凝視している。
「お姉さんおかわり!!」
魔イチゴと血イチゴと処女イチゴの三種ソースが大量にかかった『五段パンケーキ鮮血スペシャル』がものの数分で消え失せる。
「おいおい何者なんだあの娘」
「もう十皿は食ってるぞ」
「信じられない食欲だわ」
「アンビリーバボー」
周りの客が口々に騒ぎたてる中、ソエルは一心不乱にパンケーキを口に運んでいく。
普通の女の子なら一枚でも十分といったサイズのパンケーキが五段に積み重ねられ、さらにそれを覆い尽くす程の真っ赤なソース。
まるで吸血鬼のおやつといった感じのそれを嬉しそうに貪る様はとても美少女が見せていい類いの物では無かった。
もはや大食い選手にしか見えない。
普段ならお財布事情的にこんなに大量に食べられたら軽く死ねるが、今は隣にいる
この人に借りを作るのは嫌だが仕方ない、依頼をこなしてさっさと返そう。
大食いマシーンと化したソエルをぼんやり眺めながら考えていると、変態が話かけてきた。
年は分からないが見た目も雰囲気も俺より大分年上だと思われる。
何故かいつも土で汚れた執事服を着たイケメンが、
「ふふふ、いい食べっぷりですねぇ。ライトさんも遠慮しなくていいんですよ?」
「いえ、結構です」
「相変わらず律儀な方だ。義姉の
「ちょっと人前で叫ばないで下さいよ!あとその
「あぁ、その蔑むような瞳、ハァハァ、素晴らしい。ユリウス様に勝るとも劣らない胸の高まりを感じます。ハァハァ」
「……。」
やっぱり無視すれば良かったな。
この変態に会ったのはつい一時間程前。
病院を出たところでバッタリとエンカウントしてしまった。
まぁ、最初は無視しようとしたんだがどうもソエルと知り合い、というか昨日俺と姉さんを運ぶのを手伝ってくれた上に着る服を用意してくれたらしい。
考えてみれば昨日人の体に成ったんだから服なんて着てる訳無いんだよな。
つまり昨日は全裸だった訳で……。
「うっ!?」
「おっと大丈夫ですか?」
思わず鼻血が出てしまった俺にすかさずハンカチを差し出してくる変態。
いや変態は俺の方かも知れない……。
「ライトさん?」
「え?あぁ大丈夫です。大丈夫です。それより時間いいんですか?姉さんのお見舞いに行くところだったんですよね?」
気合いで血を止めつつ、さりげない帰りたいアピールを開始。
「あぁそれなら大丈夫ですよ。そもそも僕は病院に入れないんで」
「は?入れないって何でですか?」
ドMの変態だからか?
「つい昨日なんですが、あの天使様いるじゃないですか?」
「フクエルさんの事ですか?」
「えぇ、そうですそうです。噂通りの美人だったので思わず踏まれたくなっちゃいまして、ハァハァ」
「……」
駄目だこの人。
「それで取り敢えず土下座したんですけど、何て言われたと思います?」
「え?……っと、気持ち悪いです……とか?」
「ノンノンノン、それなら良かったんですが……あの天使は僕の手を取って、『大丈夫ですよ。他の誰が何と言っても私はあなたの味方です。だからさぁ、顔をあげて下さい』と」
「あ~、なるほど。」
イジメられてるとでも思われたんだろう。
「何とも期待外れ、
「うふふ、
恍惚とした表情の変態。
その前に三時間罵倒ってこいつドSの間違いじゃないのか?
取り敢えず
「あべしっ!?」
「相変わらず意味不明な悲鳴ですね」
「ありがとうございますっっ!!!」
「……。」
っていつの間にか話が刷り変わっているぞ、変態に構ってる暇は無いってのに。
「ふぅ~お腹いっぱい~」
と気づいたらいつの間にかテーブルの上に皿の壁が出来ていた。
一体何皿食べたのか、軽く五十は越えていそうだが……。
「いや~凄い食べっぷりでしたね。美味しかったですか?」
「うん!ありがとうカマセさん!」
壁の向こうから弾んだ声が聞こえる。相当ご機嫌らしいな。
「では帰るとしますか。」
「ですね。すみませんご馳走になってしまってお金は後で返すので」
「いえいえ、気にしないで下さい。そもそも僕のお金では無くてユリウス様の物ですから」
「何言ってるんですか、カマセさんはちゃんと仕事してるじゃないですか」
「仕事と言ってもただ血を提供してるだけですから、それに本業は奴隷ですし、ハァハァ」
「奴隷って貴方のお姉さん何者なの?」
「……よし、帰りましょう」
「ちょっと無視!?」
「あぁそうだライトさん。良かったらこれをユリウス様に渡しておいて貰ってもよろしいですか?」
そう言って変態こと『無限のカマセ』は一本の小ビンを手渡してきた。中には当然のように真っ赤な血がなみなみ入っている。
―――――――――――――――――――――
「何それ血?」
カマセのお願いで再び病院に戻る道すがら手渡された小ビンを覗いてソエルが聞いてくる。
「うん。カマセさんの血だよ」
「……貴方のお姉さんってやっぱり変態?」
「いや違うよ、これは魔力補給用の血なんだ」
「魔力……補給……?」
ソエルは小首を傾げる。
「特質魔力は分かる?」
「えぇ勿論、『火』『水』『風』『地』の基本四属性以外の魔力でしょ?」
「そう、であの変態……じゃなくてカマセさんの魔力も特質なんだ」
「はえ~何の魔力なの?」
「無限」
「は?」
「無限の魔力」
「いやいや無限の魔力って……本気で言ってるの?神や魔王にだって限界はあるのよ?」
信じられないといった感じだ。
無理も無いと思う。ソエルの言う通り魔界最強の魔王にも限界はある、でもそれを補って余りある欠点があるんだよな……。
「残念ながら本当だよ。でもあの人はその力が使えない。というか魔法が使えないんだ」
「??何で?」
「才能が無いから……落ちこぼれだから」
「……それは、凄いわね。そんな力がありながら才能が無いだなんて……」
本当に勿体ないよ。まぁ、本人はまったく気にして無いみたいだけど……。
「俺とは大違いだよ。俺なんて才能も魔力も何も無いくせに夢を諦められなかったのに、カマセさんは魔力があって才能は無い、そんな状況で冷静に自分の出来る事を見つけられるんだから」
自嘲気味な俺に対してソエルは違うと叫んだ、
「違うよ。『諦められなかった』じゃなくて『諦めなかった』んでしょ?誰に強制された訳でも無いのに頑張れるのは貴方の強さよ。」
それに、と続けて、
「昨日、話の途中だったけど貴方も特質魔力を持っているわよ。」
「いやいやだって実際俺の魔力は0だよ?それにソエルだって言ってたじゃないか、魔力を持ってる人に精霊は認識出来ないって」
「確かに言ったわ。でも、どんな物事には例外はつきものよ。昨日は私もあり得ないと思ったけど、冷静に考えてそれ以外あり得ない。」
「貴方は特質魔力『精霊王の加護』を持っている」
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