第3話 初めての必殺技

熱い、体中の血が沸騰したみたいに尋常じゃ無く熱い。


 叫ばずにはいられない程に、

「ウオォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!」


 カグツチの攻撃で点滅しかけていた意識は今や完全に熱に支配されていた。


 しかし、

『落ち着きなさい』


 涼やかな少女の声が頭に響いた途端、身を焼くような灼熱は柔らかい包容を思わせる暖かさへと変化した。


「ソエル?ってうわぁ!?燃え、燃えてる!?」


『落ち着きなさい』


「うわぁぁぁぁ!!!死、死んじゃうよ!」


『ああもう!落ち着きなさいったら!熱くないでしょ!!?』


「え?……言われてみれば、」


 とてつもない炎に包まれているにも関わらずまったく熱さは感じない。


『まったく、しっかりしてよね?私の契約者なんだから』


 契約者……そうか、俺はソエルと……って、

「そういえばさっきのあれは何?何かとんでもない美少女に化けたように見えたけど」


『化けたって、失礼ね。あれが私の本当の姿よ。契約したから見えるようになったんでしょ』


「あ、そうなんだ、ごめん」


『まぁいいわ許してあげる。ふふん、とんでもない美少女だなんて、惚れちゃったかしらん?』


「いやいや、それはないけど」


『……(イラッ)』


「!?熱っ、熱熱熱熱いいいいいィィィィィィィィ!!!???」


 いきなり頭に焼石を押し当てられるような激痛と熱が襲いかかってきた。


 頭を抑えてうずくまると何故か怒ったような声が聞こえてきた。


『何とも思って無いなら不用意に褒めない事!分かった!?』


「うぐうっ、分、分かりました」


『ふぅ、まったく調子に乗らないでよね』


 スッ、と溶けるように痛みが消えた。

 何?今調子に乗ってた?

 ……何が気に食わなかったか知りたいところだけど、聞いたらまたさっきみたいになりそうだな。


 と、それよりも、

「今どこにいるの?」


 ソエルの姿が見当たらなかった。

 火の玉の状態なら炎に紛れて気づかないかも知れないが、少女の姿になった今見当たらないのはおかしい。


 隠れられる場所としては後ろの岩くらいの物だが、そんな様子も無い。


 キョロキョロと周りを見回していると再び頭に声が響く。


『そんな事してても見えないわよ、私は今貴方の中にいるんだから』


「は?俺の中に??」


『正確には魂の中ね。契約については説明したでしょ?』


「確か……精霊との契約は魂の契約。魔力の塊たる精霊の命とも言える核と人間の魂の一部を入れ換える事。……だっけ?」


『そういう事。で、今やっているのが憑依よ』


「憑依?」


『そう、契約でお互いの魂を交換した私達はその割合は違えど同じ魂を持っているの。それを再び元に戻す事、それが憑依よ』


「……えっと、分かりやすく言うと?」


『はぁ……つまり、目の前のあのトカゲ男をぶっ飛ばせる、って訳よ』


 トカゲ男……。

 そうだ、不思議体験に驚いてる場合じゃなかった。

 燃える体から目線を上げてカグツチを見る。


「ヒッヒッヒ、どうした?小僧?」


 余裕たっぷりの悪役といった感じだが、今の会話を見て待っててくれたと思うとコイツ実は良い奴なんじゃ……?


 ん?会話?

「ねぇソエル」


『何?』


「その声って周りに聞こえてるの?」


『まさか、憑依してる時は貴方にしか聞こえないわよ』


 するとアイツからは独り言に見えていた訳か……。

 いや違う!奴は街を襲いに来て姉さんを傷つけた……許す訳にはいかない。


「どうすればいい?どうすれば魔法が出せる?」


『イメージしなさい』


 イメージ……。


『そうよ、私は火の精霊。荒ぶる火炎を、爆発する豪炎を、燃え盛る炎の渦を、何でもいいからとにかくイメージするの、そうすれば私が全部再現してあげるわ』


 うぅ、すごいけどなんかおんぶに抱っこ見たいで嫌だなぁ。


『そんなのはいいから早くしなさいよ、ほら早く早く!!早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く』


「あ"ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁ!!!!!!!!!分かった分かった分かったから!!」


 イメージ、イメージ、……って、ここから撃ったら姉さんも巻き込んじゃうじゃん!


『だったら当たらないようにすればいいだけよ、』


「そんなのどうすれば?」


『魔法、魔法って難しく考えすぎなのよ、貴方話してくれたじゃない、何も出来ない落ちこぼれだって、で何で戦ってたんだっけ?』


「それは、素手……だけど、」

 魔法どころか剣も槍も盾も鞭も杖も、何もかも使いこなせない落ちこぼれには自分の体しか武器が無い。


 武器と呼ぶにはあまりに脆い身体ぶき

 勿論それを鍛え上げて己の体のみで戦う冒険者もいる。

 しかし、それだって魔法強化込みの話だ。魔力0の俺は、


『だから』

 精霊は遮るように

『貴方はもう魔力0じゃないのよ?』


「……出来るの?強化魔法」


『言ったでしょ、私が全部再現してあげるって。むしろ炎を撃ち出すような魔法より身体を包む強化魔法の方が得意よ。元々全身が魔力だった訳だし、今だって無意識で燃えてるでしょ?』


 体を包む炎を見る。

 無意識だったのか、コレ。


「じゃあ」

『えぇ』


 イメージ、イメージ、強い体、カグツチアイツを倒せる強い体、姉さんを守れる強い体を!!


「行くよソエル」

『えぇ!』


 拳を引き絞る、

「行くぞ!カグツチ!!」


「来い小僧!!」


 ドンッ!!!


「!?」

 まず距離を詰めようと踏みこんだ足が爆発する。


 いや、足じゃない地面だ。


 五メートルはあった距離がたったの一歩で詰まる。


 飛び上がった体は姉さんの上を越えてカグツチの目前に迫る。


 そのまま引き絞った拳を!!!

「ウオォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!」

 顔面にぶち当てる!!!!


「ぐっ、おおおおおお!?!?」

 ゴギン!!!

 と凄まじい音を立てカグツチが頭から後ろへと飛んでいく。


『さぁ!イメージしなさい』

 イメージ、爆発するイメージ!!


 そう、これは、

『「必殺!!爆裂精霊拳!!!!!!」』


 叫びに呼応するように、

 拳を喰らったカグツチとその周りに待機していたドラゴンをとてつもない爆発が包んだ。


「「「「グギャアオオオオオオォォォォ!!!!!!!!!!!!!」」」」


 十メートルを越える巨体は一瞬で塵と化した。

 この爆発ならいくら四天王とはいえ、


「うあっ」


『ライト!?』


 敵を倒した安心感と恐らく初めて魔力を使ったからか、全身から力が抜ける感覚がしてそのまま地面に倒れ込む。


「大丈夫、大丈夫……。それより凄い威力だね、さすが精霊」


『……そうね、確かに凄い威力だわ』


「?」

 何だか他人事みたいな言い方だな、自分の力だろうに


『違うわよ』


「違うって何が??」

 再三言ったが俺の魔力は0、あれは紛れもなくソエルの力の筈だ。


『私の魔力を……いや強化の倍率?ともかく私だけではこんな威力は出せないわ。多分貴方は何かのを、』


 そこまで言いかけて、言葉が遮られた。

 余裕たっぷりの、悪魔じみた笑い声に。


「嘘だろ……」


「ヒッヒッヒ、」


 倒れたまま顔だけを動かし眼前で燃える炎を見た。


 そこには、

「ヒッヒッヒ、ヒ―――――――――ッヒッヒ!!!!」


 十メートルを越えるドラゴンをも包んだ火の海の上に、


 さらにその倍以上の大きさを持つ、

 炎の巨人が笑っていた。


 これが……、

「……巨炎のカグツチ」


「ヒッヒッヒ、やるな小僧、次は俺の番だ」


 くそっ!!!

 魔力を使えても、結局俺には誰も守れないのか!?

 姉さんも街も、俺のために永遠の命まで捨てたソエルも、

 俺のせいで、俺が弱いせいで!


「と言いたいところだが」

『大丈夫よ』


 カグツチソエル味方、両方の言葉が耳を打つ。


「火の精霊使い、お前にも俺の炎は効かないんだろう?」

『私は火の精霊、同じ火属性の魔力で貴方を傷つける事は出来ない。』


 火の魔力無効って……。

 簡単に言うけど凄い能力だな。

 でもそれならこの勝負はどうなるんだ?


 俺の考えを読んだ訳では無いだろうが、カグツチは笑いながら言う。

「ヒッヒッヒ、引き分け、いや俺の負けだ。故に良い事を教えてやろう」


「北にある雪山、あそこにある氷は精霊の力による物だ。一体いつからそこにいるか知らないが仲間に引き込めればかなりの戦力になるだろうな」


「……何でそれを敵である俺にわざわざ教える?」


「そんなのは決まってる、強い奴と戦う事が俺の生き甲斐だからだ。ヒッヒッヒ、小僧、お前の力はその程度じゃないだろ?」

「俺の前に立ち塞がった時のあの目、正直ビビったぜ。その強さがどこまで伸びるのか、ヒッヒッヒ次に会う時が楽しみだ小僧。」

 ただし、と続けて、


「勝つのは俺だがなぁ。ヒッヒッヒ、ヒ―――ッヒッヒッヒッヒ!!!!!!!」


 鼻につく高笑いを上げながら炎の渦に包まれたカグツチは溶けるように消えていった。


「……助かった、のか?」


 そう、思った時、疲労が限界を越えたように、

 ブツリ、と意識が飛んだ。


『ライト?ライト!?ライトォォォォォォォォ!!!!!!????』


「ZzzZzz」


『……。』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る