第6話
雪乃こと土居雪乃は席から立ち上がり、俺の目の前で笑ってみせた。
「相原さん、閉じ込められたって言いましたよね。私、あなたを閉じ込めるなんてしていないんです、本当に」
「それはあれか。例の叫びで引き込まれたってやつ」
「おそらくは。そして私は」
その先を聞くのが急に怖くなって、俺は雪乃の口を手で塞いだ。
不意にやったことだが、自分でも恥ずかしくなって、彼女から目をそらした。
「私は、土居雪乃の中の雪乃です。つまりあなたの言う別人格…に似たようなものです」
俺は絶句した。
「驚かせてしまってすみません。でも悪意はありません、これは意識的なものなんです」
「意識的な…もの?って」
「実体の土居雪乃は、生死の境を彷徨って死にかけています。だから意識としての役割を私が務めています」
再び俺は絶句した。
「実体が目覚めれば私は消え、相原さんは元の時間に戻ることができると考えています」
そして雪乃は頭を下げた。
「相原さんにひとつだけお願いがあります。土居雪乃を目覚めさせてほしいんです。彼女は病院のベッドで意識を失っています」
「…お前がいるから土居雪乃は目を覚まさないのか」
「そうです、私のせいなんです」
「それでも何か理由があってここに留まってるんだろ」
「土居雪乃は昨日、7月30日に屋上から飛び降りました」
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