第3話 第一発見者の証言

 何なの? この人も警察官なのかしら?

 先程、絵本のクマのような警部が来たかと思えば、今度は長身の女性……しかも、顔に酷い火傷のある人がわたしの部屋に現れた。


「ウォーカーさん。もう一度、アンダーソンさんを発見された状況を説明願えませんか?」


 このクマの警部さんに説明したはずなのに、あなたからこの女性に言えばいいじゃないの。

 ひょっとして、もう一度説明させることで、矛盾を引き出そうとしているのかしら――


 いいでしょう。受けて立とうではないですか!


「朝食に彼女が降りてこなかったから、覗いてみたら……ああ、彼女が倒れていて……」


 気持ち悪い、頭が痛くなる、そんなフリをしてわたしは額に手を当てた。

 ホントは彼女の死体を見て、美しいと思って眺めていたなど、言えるはずかない。


「大丈夫ですか?」


 長身の女性は気を利かせたのか、キャビネットの上に置いてあったコップにブランデー気付け薬を注ぐと、わたしに渡してきた。


「――ありがとうございます」


 クマの警部さんはわたしのことを気にすることもなく、業務的に質問を浴びせてくる。


「アンダーソンさんとは、どういったご関係ですか?」


 もう少し、女性の扱いに気をつけたら々なのかしら――


「――大学の同級生でした。卒業後もロンドンで働きたくて、ふたりでここを借りたんです」「なるほど。アンダーソンさんが自殺する心当たりはありますか?」

「――自殺……。

 刑事さんにいわれて驚きましたが、やっぱり自殺なんですね」

「今のところは、事件と自殺の両方で捜査する予定です」

「考えたんですが……」


 彼女が自殺するはずなんてない!

 でも、今の現場を見て自殺と考えるのが自然なのかしら。だとしたら、このクマの警部さんには修正が必要よ。


「彼女は……最近、婚約しました。そんな人が自殺するなんて……」

「幸福を前にして、自殺するはずがないと?」

「結婚が幸福かどうか分かりませんが、一般的にはそうなんでしょ?

 そんな人が自分で命を絶つとは思えません」

「そうですか……昨晩のアンダーソンさんの様子はどうでしたか?」

「ごめんなさい。きのうは、お祭りだったでしょ? わたしは花火の音が嫌いでしたので、睡眠薬を飲んで早々に寝ました。なので、彼女の顔は見ていません」

「なるほど……」


 クマの警部さんは、納得していないような顔をしている。

 その横の長身の女性は……火傷の痕の所為か、表情が読み取れない。


 だとしても、彼女が自殺なんてするはずがないのよ。

 さあ、わたしの仕掛けた復讐のために、働きなさい!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る