1章:αテスト前編

1.降立つ葛と白詰草★


 青い空。白い雲。ほぼ真上の太陽に小さく白い昼の月あるいは衛星。そして雲に紛れているが空を横に何分割かにする白い線。

 雑草生い茂る地面に大の字で横たわり、見上げた空はそんな感じだった。

 ぽかぽか陽気がまだ状況を把握していない頭を眠りへと誘おうとしている。

 現実逃避である。


 自分がなぜ横たわっているのか。

 その記憶を何回辿っても自称女神様と対面している場面が始まりだった。


※※※※※※※※※


『やっと……。やっと最後の1人! 同じ説明を何回も何回も何回も何回も……。キャラメイクもスキル構成も案内役別に作るんだった!』

『え? 何ここ……』

『おっと。ごほん。私はデウス・エクス・マキナ系女神トリフォリロ。なんだか不思議な親近感を覚えるあなたに現状を説明したいと思うのだけどOK?』

『はい?』


 現状は置いといて、自称女神様という既に残念感が滲み出ている少女を観察する。

 猫と兎を足して2で割ったような獣耳がピコピコと上下に跳ねているので、人間ではないのはわかる。

 四葉のクローバーと大正時代をイメージしたようなモダンな和服は神様というにはコスプレ感が強すぎて説得力がない。

 後なんで拘束具付けているのだろう……。


『簡単に言うと、ここは異世界です。名前を『ガラクシアス・エクス・マキナ』と言います。実は今この世界は不安定になっていて、魔獣が大量に蔓延るようになってしまいました。力を貸し与えるのでどうか協力おねしゃす』

『棒読み……。カンペ……』

『イイじゃん! そも日本人なら『あ、察し』て説明スキップするようなとこじゃん! 私だって最初はちゃんと説明しようとしたけど何人も『大体予想つくんでいいです』つってさぁ! テンプレのくせに生意気だぁぁ!』

『えぇ……』


 もうやだやだいやぁーやぁー! とトリフォリロは床に転がって癇癪を起こし始めた。

 初対面の人間に対処など出来るはずもなく『大体テンプレ説明にうんざりしてんのはこっちだっつの』や『私が作ったスキルも、便利すぎるかな? って高いコストとデメリットちょっと付けただけで誰も選ばないし』などといった愚痴を吐ききる様を見守るしか出来ない。


『つーか『面倒だから全部ランダムで』とか言う奴誰も居なかったんだけど! なんで!? 何人か出るもんじゃないの!? 私それが目当てで全員の説明買って出たのに! 仕方ないな~って風に能力ダイス振っておすすめスキル選びたかったぁ!』

『もうそれでいいからそろそろ……』

『!?』


 ぎゅばっと詰め寄ってくるトリフォリロ。

 先程までの癇癪は鳴りを潜め、期待に瞳を爛々と輝かせている。


『いいの? 全部私が決めていいの?』

『は、はい……』

『能力値決めるのダイス振る仕様だけどいいの?』

『ダイス……サイコロ? は別に……』

『じゃあスキルは? 自分で決める?』

『そもそもよく分からないんだけど……』


 え~。そっか~。そうだよね~。しょうがないな~。とクネクネ勿体ぶるトリフォリロ。

 これはもうイラついても構わないのでは……。


『よっしゃー! じゃあ、そこそこイイ感じになるようにパパっとやっちゃうから期待してて!』


 それからダイスを構えたトリフォリロは複数のモニターのようなものを見比べながらテンションを上げていた。


『……出来た! 見て見て! 出目もイイ感じに高いし、リアルスキルですぐ取得できそうなのは省きつつも、バランスの取れた構成。我ながら良い出来だわ……』


そう言って見せられた画面に表示されていたのは以下のものだ。


【Name】ミツバ/17age/female

【LV】1 (ハイヒューマン)

【meinJOB】遣異界使(ゲスト)lv1 【subJOB】blank 

【HP】320/320 【EYE】38/38

【MP】333/333 【SEN】35/35

【ST】■■■■□□□□□□

【DOF】■□□□□□□□□□


<ETH>15 【STR】20 【AGI】18

<AST>17 【VIT】20 【MND】19

<CAU>17 【DEX】24 【INT】26


【ATK】420(+0)【M-ATK】481(+0)

【DEF】300(+0)【M-DEF】285(+0)


>>skill

<ActiveSkill>

●Auto1 A-2 +

【弓技Lv1】▽【火魔法Lv1】【識別Lv1】【手品Lv1】【サバイバルLv1】

Manual

【☆無属性魔法Lv1】【水魔法Lv1】【結界術Lv1】

【工作Lv1】【錬金術】


<PassiveSkill>

〔CQCLv1〕

〔音感Lv1〕

〔ストレス耐性Lv1〕

〔疲労耐性Lv1〕

〔超回復補正〕


<language/knowledge>

〔一般共通語〕▽

〔一般知識〕▽

〔分類Ⅰ:知恵袋Ⅰ〕

〔分類Ⅱ:近接戦闘知識Ⅰ〕


<title>

〔トリフォリロの加護〕

〔異世界から降り立つ者〕


『名前が、ミツバ……?』

『それがあなたの名前よ。記憶喪失・・・・ボーナスは初期BP度外視のスキル獲得で……』

『記憶喪失?』

『あっ』


 しまったという顔で固まった。が数秒も経たない内に誤魔化す方向へ舵を取ったようだ。

 トリフォリロが指をパチンと鳴らすと光がミツバの胸の上に集まる。

 眩しさで目を閉じていたのを開けると、首に金古美の細長いダイヤルをペンダントトップにしたネックレスが掛かっていた。

 

『詳しくはヘルプで調べたら分かるようにしてるから!』


 じゃそゆことで!

 バカン! と足下の床が開き、ミツバは突然の浮遊感で目を白黒させた。

 トリフォリロが敬礼擬きで『比較的安全な街か村近くの森とかに着地するはずだからー』と送り出す。


『はっ!? ちょ。嘘でしょ!?』


 そして、ミツバは落下の浮遊感で意識を落としたのだった。


※※※※※※※※※


「……つまり。私は記憶喪失中で、見知らぬ土地に落とされた、と」


 しかもほぼ何も説明されてないに等しい状態なのは、何人も相手にした後のとばっちりのようだ。ヒューマンエラーならぬゴッデスエラーってか。

 ……現実逃避はそろそろやめよう。


 回想よりもっと前の記憶は確かに思い出せない。

 肩から伸びるロングの後ろ髪はミルクティーゴールドなのに前髪は黒と、どういう生き方をしたらこんな髪になるのやら。

 あの画面で名前だけでもわかったのは幸いだった。


 ずっと横になっているわけにもいかないので立ち上がる。

 着ている服を確認する。

 簡素な生成りのTシャツ擬きに焦げ茶のホットパンツ。その上から2ヶ所魔法陣のような模様のついた黒のフード付きポンチョを被っている。

 足元はレザー製のバックストラップのついたサボサンダル風の履き物だ。

 そして首元には回想のチェーンネックレスが鈍く光っている。


 去来しそうになる孤独感を考えないようにしつつ、次に周囲を観察する。

 開けた場所ではあるが、数歩先はすべて木々に覆われている。

 一部座れるように切り株の表面が加工されているのを見るに、定期的に人の出入りがあるようだ。

 地面に生い茂っている雑草らや木々の形は、日本の物と変わらないように見える。

 だが本能的にここは知っている世界ではないと感じていた。

 空もそうだが、感じる匂いが根本的に違うように思えたからだ。

 所々に、小さな花をすすき状につけた背の高いヨモギのような植物が生えている。恐らくそれの発する匂いが主な正体だろう。

 何故かそれは『レアキロ草』だと、何時知ったのかわからない知識が告げていた。


 人が何回も通るように整備された下山道を見つけたので、降りてみることにする。

 森の中に入るかたちだが、迷うことは無さそうだ。

 木漏れ日が山道をちらちらと照らしていて長閑だ。


 長閑すぎてうっかり油断していた。


「っ!?」


 丁度、道の横合いが急斜面になっている場所での出来事だ。

 反対側からミツバのこめかみに衝撃が襲う。

 ブブッと羽音が耳を掠めたので、大きめの虫が偶然突進したのだろう。

 普通であればデコピンされたくらいの衝撃だ。

 足下がふらつく程度で、踏ん張れるはずだった。

 しかし彼女は衝撃に体を支えられず、斜面を転がり落ちてしまうのだった。



>> side Trifoliro


「あーもう。最後の最後でやらかしたぁー! 説明全然してないし、テンパって放り投げちゃたし……」


 折角ビルドさせてくれたのにヤバイよねぇ。とミツバのステータス画面を見直していて気づいてしまった。


「…………コスト計算間違っ。【結界術】コスト高くなってるの忘れてた! 魔法コストオーバーしてんじゃん!」


 もーやだー! と地面でじたばたするが、そうしたところで挽回は出来ない。

 そしてやらなければいけない仕事もまだまだあるのだ。


「まあ、他にも知力系のスキルあったしそっちが先にスキルアップすれば大丈夫だよね。【識別】とかまず使いまくる……よね?」


 そうだと言ってー! と叫んでも答えるものは誰も居なかった。

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