5.冒険者ギルド登録
<ようこそ『Galaxias ex Machina』へ。ここはトリフォリロ特別自治区ドラカヴェーノ・セントパピリオ最寄地点です。ここから最初に降り立つ町を6つの中からお決めください>
『俺』に見送られながら潜った扉の先は一言で表すなら駅ターミナルだ。
レトロ感で統一されたそこは行きかう人で溢れていた。
地下鉄が思い浮かぶような薄暗い空間だが、床が白熱灯のような熱を感じる仄かな光に照らされている。
天井は大きく6箇所区切りでそれぞれ別の町の景観映像が一定時間切り替わりながら映し出されていた。まるでステンドガラスだ。
その光景に圧倒され呆然としていると、別の男性プレイヤーが横から迫っていた。
慌てて避けようと体をひねるも彼は自分の体をすり抜けて歩き去って行った。
<この空間ではプレイヤーはまだ実体化していません。待ち合わせしたいと言う要望があったため視認だけ出来るようになっています>
「……ていうかここはどういう場所なんだ」
さっきから流れているガイド音声は、いつの間にかまた肩に乗っていた白いマスコットのようななにかから発せられたものだ。
肩に乗っていたそれを手の平に乗せて質問する。
体を使ってちまちまジェスチャーしつつ硬いガイド音声を流してくるそれのギャップがすさまじい。
<ここは『ドラカヴェーノ』いわゆる龍脈の一部です。町と町をつなぐ転移パスとして使われています。この光景は心象風景のようなものなので、実際にこのような建物が建っているわけではありません>
要するに一度行ったことのある町は転移で移動できるというギミックを担っているのがこの『ドラカヴェーノ』ということだ。
ヒュンと一瞬で転移ではなく、この空間に繋がる入り口から地下通路で移動するが如く徒歩移動になる。
歩いた体感が残るものの現実ではさほど時間が経たないので転移と言って良いのでは? とまあそういう感じらしい。
最初に選べる町というのは以下の6つ。
・セントパピリオ=中央区:文化区兼本部
・ウヌエニロ=第一区:商業区兼玄関口
・アグリクルト=第二区:農業区
・トリハヴェノ=第三区:港区
・リブロアロ=第四区:学芸区
・クヴィンミア=第五区:工業区
全体から見るとセントパピリオを中心にちょうど五角形を描くように他の町が配置されている。
最初の町を選んだ後に他の町へ行く場合、地上を攻略しながら地道に歩いて行くことになる。
基本的にセントパピリオ(中央区)が一番人気で、人ごみが苦手なら他の町から出発するというのが一般的な流れだ。
また、住人と交流したい場合はウヌエニロ(商業区)。
農業や料理をしたい場合はアグリクルト(農業区)。
海で何かしたい場合はトリハヴェノ(港区)。
魔法の勉強はリブロアロ(学芸区)。
鍛冶や武器をいち早く充実させたい場合はクヴィンミア(工業区)。
といった風にやりたいことが決まっている人もそれぞれの町を最初の町に選ぶことになる。
「オープニングセレモニーが開催されるのはどの町になるんだ?」
<それでしたらセントパピリオになります。矢印に沿って進行してください>
辿った先で迎えられたのは軽快な音楽に包まれた新たな熱気だった。
『いらっしゃいませ。本日もテウルギア教会冒険者ギルドセントパピリオ支部にご来場いただきありがとうございます――』
一見すると静謐な石造りの神殿だが、軽快な音楽の合間に流れる場内放送と整列する人、人、人で現実のイベント会場入口とデジャヴしてしまう。
ファンタジー世界の非日常感にどっぷり浸れるものと期待していたのだが、こうも現実がちらつくと萎えてくるものがある。
「「いらっしゃいませぇー。新規ぷれいやーの方の冒険者登録はこちらになりまぁす」」
長蛇の先のエントランスゲートで精一杯の幼く高い声がたどたどしく和音を奏でていた。
良く見るとそんなに人が並んでいない一角がある。
12歳前後のおそろいの制服を着た子供達がしっかりとした様子でプレイヤー達を誘導している。
子供達の中には動物の耳を頭に生やした子も居る。
そこで身振り手振りで新規プレイヤーを呼び込んでいる子達に誘われるまま近づいた。
ホントにハイファンタジーだ……と感動していると、ずいっと視界をさえぎるように一人の男性プレイヤーが割り込んできた。
「ちょっといい具合に空いてるんだし、こっから通らせてくれよ」
「あ、申し訳ございません。ここは新規ぷれいやーの方の冒険者登録を行ってる場所なので……」
「いいだろちょっとくらい。早く入れないとセレモニーでいい場所確保出来ないんだよ」
相手が子供だからと強気に出ている男性に「あ、う……」と受付の子供がたじろぐ。涙目にもなってきた子供にこれは……。
「ちょっとあなた! なに子供相手に大人気ないことしてるの!」
「そうだぞ! 決まりごと守ってるだけなんだからお前は元の列に戻れよ!」
これはまずいと声を上げようとする前に、別の声が男性を咎める。
揉め始めるか? と思われたが声を上げた数人以外にも男性を睨みつける者がおり、分が悪いと感じた男性はしぶしぶ列に戻っていった。
最後尾からの並びなおしなので場所取りは絶望的だろう。
かばわれた子供は「ありがとうございます!」とかばったプレイヤー達に綺麗にお辞儀している。
プレイヤー達は微笑ましげに眺めたり手を振りながら列行進を再開していた。
「次の新規ぷれいやーの方どうぞ!」
「……あの、大丈夫だった? さっきの」
「あ、ご心配ありがとうございます! 先輩達に困りごとは涙目になれば周りの
ホントに助けてもらえてすごいです! と堂々と喜んでいる子供にこちらの方が慌てる。
しかし良く見ると子供の輝く笑顔に大体がほっこりしており、こういう対応は暗黙の了解らしかった。
「……これで冒険者ギルドへの登録は完了しました。このタグは『テウルギア教会の庇護下』であることと、教会冒険者ギルドの『レザーランク』を表す身分証になりますので無くさないようお願いします」
完了の声と共に渡されたタグは黒いレザーに文字が掘り込まれた金属板が張り付いたものだった。
一緒にレザー紐がまとめて置いてあったがタグには繋がっていない。
ストラップ紐にするなりペンダントにするなり自分で繋げてということだろう。
無邪気で子供らしい態度とは裏腹に、その仕事ぶりはテキパキと正確でとても訓練されていて頼もしく感じる。
「教会冒険者ギルドに関しての説明はへるぷで参照されるとのことでしたが、タグの説明をしてもよろしいですか?」
「あ、うん。よろしくいいかな?」
「はい! このタグは満15歳以上の成人用を表すレザータグです。レザーランクは当ギルドにおいて研修扱いとなります」
「研修だとどうなるの?」
「主に町の外での活動制限です。レアキロ草……えと、安全区域外で依頼をこなす場合はふたつ上の『ストーンランク』以上の冒険者同伴が必須となります。この冒険者は
「国営? 他にも冒険者ギルドがあるってこと?」
「はい。ここはどこの国にも属していない自治区なので国営ギルドの方は滅多にいらっしゃませんが……」
「あ、ごめん待った! そういうのまとめてヘルプで勉強するよ。元の説明に戻ってくれるかな?」
自分で振っときながらホントごめんね。と長くなりそうな気配を察して脱線しそうな説明をさえぎった。
なぜかと言うとさっきから場内放送に「オープニングセレモニーはまもなく開催です」と混ざってきているからだ。
あれだけ長かった列も殆ど捌かれてまばらだ。
「基本的にレザーランクはこの建物内で指定された座学や講習を受講後、試験にて一定の成績を収めることで次の『ウッドランク』へと昇格します。各講習1回目の受講料は遣異界使様は免除なので積極的に活用してください」
「なんか自動車教習所みたいだな……」
「あっそれ、遣異界使様からはよく言われます。じどうしゃ?が何かはわかりませんが、この講習制度は以前からいらっしゃる遣異界使様より考案されたものだと聞いています」
以前からと言うことはβテスト時とかの話だろうか。
講習を受ける以外でもランクアップする従来の方法はある。
格上冒険者のポーターなどをしながら冒険者のいろはを数年かけて教わる方法だ。
師事した人からOKが出て研修ランクからアップさせることが出来るわけだが、ウッドの間はその人に連帯責任者になってもらわないといけないんだとか。
設定が細かいなーと感心する。
その他冒険者になった後のエトセトラは講習に含まれているということなので割愛。
「では最後に、アダムカドモン様より称号を賜りますと登録は終了となります」
「あだ……なんだって?」
「アダカド様よろしくお願いします!」
肩に移動してじっとしていた白マスコットがぴょいと目の前に降り立った。
短い右手部分をこちらに向けてじっとしている。
というかこれがアダムカドモンなのか。
「ささ。アダカド様の右手に触れてください」
言われるまま人差し指をそれの右手にくっつけた。
するとくっつけた部分が暖かさを伴ってぽっと光った。
「登録お疲れ様でした。後セントパピリオ支部よりふれんど申請を送っておりますので、よろしかったらご登録ください」
後で確認してみると、確かに『テウルギア教会冒険者ギルドの一員(レザーランク)』の称号が増えていた。称号効果は特に無かった。
支部からのフレンド申請もギルドからのお知らせなどいち早く知らせてもらえるということで承認した。
ただこの支部のフレンド登録は、今のところトリフォリロ特別自治区内の支部でだけ実験的に行っていることなので他の支部では尋ねないよう注意を受けた。
「いってらっしゃいませ~!」
入り口に案内され白マスコットもといアダムカドモンと手を振る子供に見送られる。
もう何回目かの「オープニングセレモニーは~」に焦れる気持ちはあるが、感謝をこめて手を振り返しながら進む。
て、アダカドさんはガイド役で一緒に来る訳じゃないのかよ!
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