3.キャラメイク★
「さて、お次はお待ちかねのキャラメイクだ!」
「おお……!」
うまいこと乗せられてテンションを上げてしまいチョロいなと自分でも思うが『俺』ゆえにツボが理解されているのだから仕方ない。
というか『俺』のノリに自分が乗ってやれなくてどうするという話だ。
ちょっとだけ冷静な部分が後で思い出すと恥ずかしくなる奴と囁いてくるが今は知らん振りだ。
「まず最初に容姿決めからだな」
『俺』がそう言うと目の前に複数のウィンドウが現れた。
「一つ一つ説明と注意を言っていくつもりだから良く聞いとけよ?」
「スキップは……」
「だめです。説明したという事実を残さないといけないんだ。わかるだろ?」
おおぅ……『俺』ってこんな凄んだ表情も出来たんだな。
しかし丁寧なのはいいが一つ見過ごせない。
「それだとめちゃくちゃ時間かかるんじゃ? 下手すると一日の制限これだけで終わるような……」
「それなら大丈夫だ。この場所は時間をさらに何万倍にも引き延ばしてあるからほとんど時間は経たないようになってるんだ」
まあ限度はあるけどな。と『俺』が取り出し適当な机の上に置いたのは、時計を半分に割ったような置物だった。
置物から伸び、左に倒れている棒の先端には太陽のような模型がくっついている。
日の出から日の入りを表した物のようだ。
「これが右に倒れきったら……日の入りするまでがとりあえずのタイムリミットだな。区切らないといつまでも決められないと直感が囁いている」
「ぎくっ」
図星はともかく時間がほぼ経たないと言うのはありがたい。
気を取り直して説明を再開してもらう。
「まずこの『GexM』は現実の体との乖離が無いように決められている。なので身長変更は不可。体型は上限、下限共ワンサイズ以内の変化までだ」
「おお……! 小説投稿サイトとかでよく見る設定キタ」
「その通り! しかしプライバシーの観点からそのままの容姿は非推奨だからそこを中心に変えてもらうことになる」
これまた良く見たあるある。
ただ、日本人から外国人になるなど、まったくの別人顔には出来ないそう。
それと『GexM』内でのスキルの組み合わせや過ごし方によっては許容以内の範囲で最初に決めた体型から変化してくるらしい。
「大まかな変化は【
「あ、はい」
「とりあえずそこのウィンドウに出てる【ATT】の数値を弄ってみてくれ」
言われるままウィンドウに目を通す。
スライダーやチェックボックスが結構な数あり少し指を迷わせた。
一番上の最小値が2で最大値が20あるスライダーに目を向けるとバーは丁度中ほどの位置にあり……。
「初期値【ATT13】か。整ってる部類だけど身奇麗にしておかないと埋没するタイプと見た」
「うっせーな!? え、なにこれいきなり機械的に容姿の評価されてんの!?」
「現地住人から見た魅力になるのでご了承ください」
「ああん!? ……はー、なんなんだよもう……」
がっくりと肩を落としながらバーを左右に動かすと目の前に居る『俺』が変化しているのがわかる。
数値を低くすればぼんやりした印象からはっきりと不細工だなと感じ、数値を高くすれば清潔感漂う芸能人感が増していき最終的にまぶしくて見えない状態になった。
確かに『大まかな変化』としか言いようがない。
全部自分の顔だとは分かるのに数値によって受ける印象が違っている。
「これ
「んーそうだな。ざっくりした主観だと……」
2~3:廃位種並み。敵性と誤解される。
4~5:廃位種の美形ないし人種に見える限界。顔が半分以上損傷している、極端な肥満体型など人に強烈な不快感を与える場合もここに含まれる。
6~9:一般的に不細工として記憶に残る容姿。顔に傷跡をつけたい場合もこの数値以上に出来なくなる。
10~12:平均的な容姿。背景に埋没しやすく、記憶に残りづらい。人柄での高感度が上がりやすい。
13~15:整った容姿。異性に好感が持たれやすく、同姓に反感をもたれやすい。人柄が合わさると相乗効果で性別関係無く好感度は上がりやすくなるが、対応を間違えると逆に下がりやすい。
16~19:美麗な容姿。性別関係なく惹かれやすい。非常に注目を引くため記憶に残りやすく、噂の的になる。人柄の良し悪しに関係なく一定の割合で執着されるなどのリスクが付きまとう。
20以上:理由もなく神性に思われ畏怖される。神様勢の目に付き始め絡まれやすくなるので生死関係なくトラブルまみれになるかも?
とこんな感じになる。
顔に傷跡をつける場合、傷をつけた状況の設定を予め決める必要がある。
武勇伝として現地住人から話を求められることがあるためだとか。
それと2D10(10面ダイス2回という意味)でダイス判定も出来るがお勧めは出来ないと言われた。
そりゃそうだ。明らかに設定できたらだめな数値が存在している。
「というか廃位種って?それに神様勢っていうのは……」
「廃位種はこの世界での敵性種族の一種だよ。厳密には人種になるんだが、『大いなる悪意』に紐付いてるせいで悪意に満ちて知能も著しく下回る奴らだ。一部例外を除いて人種を見かけると問答無用で襲い掛かってくる」
「一部例外ってのは?」
「そこは課金要素の一つだからそっちで受けてくれ。後は世界観の説明になっちゃうからヘルプ参照」
それもそうかとキャラメイクへと戻る。
他のスライダーで脂肪←→筋肉量や頭髪←→体毛の割合を細かく調整。
チェックボックスで各種特徴を追加したり減らしたりしつつ、全体の【ATT】が決まっていく。
いくつかの項目は直接【ATT】に関わる要素もあった。
例えば□ゴリマッチョを選ぶと歴戦の頼れる冒険者感が増すため【ATT+2】。
□キューティクルを選ぶと【ATT+1】。さらに長髪にすると【+2】となる。つやつやで長い髪は維持が大変なため美的価値が高いといった具合だ。
ただしこれらはアバター変化のトリガーになっている〔筋力増強〕〔スタミナ増強〕等のスキルを強制取得することになる。
ガリガリで筋肉がつきにくい人がゴリマッチョになりたい! と強く願うこともあるのでは? と聞くと、訴えないように誓約書を書いてもらった上で特別に許可していると返ってきた。
ちなみにカップ大増量はいかなる理由でも受け付けていないらしい。
「ところでこの属性変化っていうのは?」
「この世界だと使う属性魔法によって自身の魔力の属性がその属性に偏るっていう現象が起こるんだ。その変化が髪や目、たまに肌に反映されやすい。チェックボックスはその変化の種類の希望ってわけ」
試しにインナーカラーにチェックを入れると、ドロップダウンリストが表示された。
その中から【水魔術】を選択する。
すると『俺』の髪の内側が青色がかったのがわかる。
複数属性の場合どうなるのか尋ねると属性同士の混色かそれぞれの色がまばらに配置されるかのランダムになるらしい。
結構不自由だし今ここで決めるのもなと思ってしまう。
しかし住民の中には『属性美容師』という、体内の属性を整えて変化を自在に操ることが出来る人がいるので、後でどうとでもなると教えられた。
もしやベースの髪色で得意属性が変わってくるのか? と思ったが、住民はともかくプレイヤーには無いと説明された。
他のチェックボックスの特徴選択は他種族に対して好感度補正が入るものもあり、それぞれどれが……とは残念ながら教えてもらえなかった。
「あ、そうだ種族! このゲーム、分類的にはハイファンタジーになるんだろ? てことはエルフとかドワーフとかそういうなるのは選択出来ないのか?」
「NPCではなく『現地住人』と表現してるあたりで察して欲しいんだが、定型分だけ喋るわけじゃないんだ。各種族でそれぞれの文化様式が異なってる」
「……つまり?」
「無神論者があなた達と同じ宗教の信者ですよって皮を被って紛れ込んだらどうなるか想像できるだろ?」
絶対トラブル起きる上に、そのトラブルを運営が仕掛けたイベントだと思われてクレーム殺到する光景しか見えない……。
他種族選べないクレームと天秤をかけてもそっちの方がリスク高そうである。
(ていうか『現地住人』か。小説でよく見るように一人一人自我を持ってるパターンなのか。現代の技術ってそこまで進化してたんだな)
どこか期待を膨らませつつ、髪型を作るエディターを起動させる。
中央にマネキンのような生首が写ったウィンドウがあり、筆や鋏のアイコンなどお絵かきソフトのようなツールバーが置かれている。
その手のソフトの操作をしたことが無かったため、どうしていいのか固まってしまった。
「キャンバスに自分の髪型表示させて弄ってもらうんだが……。『俺』が適当に美容師になってカットするってモードもあるんだがどうする?」
「え?『俺』がっていっても素人なんじゃ」
「もちろんその場合【美容師スキル】で補助された状態だから安心しろ」
ならいいかなと美容師モードを頼むことに。
『俺』がまた指を鳴らせば自室だった空間が美容院風の部屋へと変化。
チェアーに誘導され刈布を首に巻かれる。
鏡の代わりにエディターのキャンバスが見えるようになっている。
髪の長さを調整するスライダーと髪色を決めるカラーピッカーから色々選ぶ様子も見られた。
鋏のアイコンをタッチすると本物の鋏が現れた。
そういう使い方なのかと感心していると美容師モードの仕様だと笑われた。
途中パーマも色々できるぞとポンパドール(リーゼントはサイドを固めて後ろへ流すことで前髪の盛りはそういう名称らしい)や縦ロールにされて遊ばれた。
もちろん全部却下だ。
真っ黒ショートだった髪はシルバーアッシュのミディアムになり、属性変化はインナーカラーにチェックを入れた。
瞳は青灰にして、属性変化はワンサイドにチェックを入れた。
使う魔法にもよるが、いい感じにオッドアイになるのを期待してだ。
こういうのは結局、開放感に流されるまま選ぶ方がいいのである。
二重と軟毛にチェックを入れ、女性受けを意識しちょっと盛って『俺』は【ATT14】へと変身するのだった。
「これで決定しますか……イエスぽちっとな!」
「おほん、一つ注意。ここで決めた【ATT】はプレイ開始後はマスクデータになるからな。ずっと不潔だったりすると下がるし工夫次第で増減する。そこはリアルと同じだからな?」
「隠密プレイしたい人へのフォロー?」
「それもあるが、自分はこの【ATT】だって過信して行動してたら自意識過剰野郎みたいなレッテル貼られて恥かくこともあるかもよって話だ」
気をつけようと納得している間に『俺』が空間を自室風へ戻していた。
そして数個のダイスと中に金銀ラメが散ったダイヤのような結晶を取り出し、こちらへ見せるように机に並べていた。
こいこいと手招きをするので向かい合わせに座る。
「さて、ここから醍醐味のステータスとスキル編集に入るわけだが、この結晶をその板に押し込んでくれ」
B5サイズのタブレットのような板の中央に結晶が縦に浮かんでいた。
縦長の菱形で先端が鋭く尖っている。
先端を指の腹で押し込んでくれと言われそのまま従うと、プツと指の腹が破られる痛みが走った。
数ミリの血らしきものが滴り結晶と共に板に吸い込まれた。
「痛っ!? なんか大丈夫なのかと思ったのに不意打ちだろ! 説明しとけよ! ていうか普通に痛い!?」
「悪い悪い。あの結晶に個人の血を垂らすのが個人認証の一つだからさ。痛覚に関しては説明するの忘れてたな」
このVR、指先から血を要求しすぎじゃないだろうか。
痛覚の説明を受けると『GexM』内では一定以上の痛みをカットするだけで感じる細かい痛みは現実とさほど変わらないという。
一定以上の痛みはカットされる代わりに麻痺として現れる仕様だそうだ。
詳しい設定はヘルプを参照にしながらしてくれと投げられた。
「小説みたいに痛みを感じにくくするんじゃないのかよ。下手すると近接戦無理じゃん。どうしようかな……」
「『俺』は痛いの苦手だもんな。さ、気を取り直して始めるぞ」
こんっとタブレットのような板を『俺』が指先で弾くと複数のウィンドウが空中に立ち上がり、板の方も画面が明るくなっていた。
タブレットのようなではなくまさしくタブレットだったようだ。
中央のウィンドウには以下のようなステータスが表示されていた。
【name】ジョン・J・ドゥ(24age/Male)
【LV】1 (ハイヒューマン)
【meinJOB】遣異界使(ゲスト)lv1 【subJOB】blank
【HP】20/20 【MP】10/10
【EYE】0/0 【SEN】0/0
【ST】■■■■■■■□□□
【DOF】■■■■■■■□□□
<ETH>0 【STR】0 【AGI】0
<AST>0 【VIT】0 【MND】0
<CAU>0 【DEX】0 【INT】0
【ATK】0(+0)【M-ATK】0(+0)
【DEF】0(+0)【M-DEF】0(+0)
見事にすっからかんである。
『ハイヒューマン』はプレイヤーオンリーの共通種族。
【meinJOB(職業)】は全員始めに同じ職が与えられる。
設定では魔獣が溢れて不安定になった世界を安定させるために『電脳女神トリフォリロ』がプレイヤーを召喚していることになっているとかなんとか。
この職業中は【subJOB(副職)】も取得出来ないのでここではスルー。
メーター管理されている2つは【
「基本的に<ETH><AST><CAU>3つの基礎値が基準になる。これに各スキルレベルが補正値として加算されて他6つの能力値になって、そこからさらに【HP】や【ATK】やらの数値が計算される訳だ」
ざっとまとめるとこうだ。
<
【
【
<
【
【
<
【
【
ついでにここではどういう扱いになるのか確認も兼ねて他も説明してもらう。
【HP】はヒットポイント。体に受ける数値的ダメージの許容量。0になっても数分は死亡にならず回復処置で蘇生も可能。※オーバーキルは即死扱い。
【MP】はマジックパワー。魔法等を発動するのに必要な魔力。0に近づくにつれ眩暈や頭痛が確率で起こり、0になると気絶が確率で起こるが直接死には至らない。
【
【
【
【
【
【
装備品の補正はこの4つに加算される形になる。
あくまで目安となる数値なだけで条件によりダメージ数は異なってくるという注意を受けた。
「じゃあ基礎値? てのはどうやって決めるんだ?」
「これだ」
じゃんと見せられたのは10面ダイス3色セットだった。
「我等が上司となる電脳女神トリフォリロは『完全没入型VRとはすなわちTRPGへの回帰である』という持論を持っている。なので能力値の決め方はそれらを参考にしているのである」
※TRPG……テーブルトークRPG。アナログ式複数人対話型のロールプレイングゲーム。キャラになりきりながら色んな結果をダイスで判定して遊ぶ。詳しくは検索。
「自分で演じると言う意味ではそうなるの……か?」
「てのは建前で『隙あらばダイス振りたい病』故の職権乱用だな。むしろダイスの女神の兼職も狙ってるともっぱらの噂だ」
思い切り机に額を打ち付けてしまった。
ダイスに何かをゆだねるというのは、確かにわくわく感があって楽しい。
TRPGリプレイ動画漁りにはまっていた時期はする機会も無いのにダイスを買ってきたりしたものだ。
だが世の中運任せを苦手とする人だっているだろうに……。
「一つの基礎値につき10面ダイスを3つ振りその中から2つ好きな数字を選んで足し算する。もしくは42P――これはダイスの期待値より少し上くらいの合計だ――を3つの基礎値に振り分ける。それを含めて3回まで振り試しができるようになってる」
「あ、ダイス振らなくてもいい方法もあるのか。にしても結構多いな」
「だから言っただろ『隙あらばダイス振りたい病』なんだって」
例えば2回まで振り試して期待値より下回ったら3回目はポイント振りに出来ると言うことだ。
3回振ってやっぱりポイント振りにしますとは出来ない。
とりあえず3回振った結果こうなった。
1回目
<ETH>(3 7 6)13
<AST>(6 9 10)19
<CAU>(4 4 9)13 合計45
2回目
<ETH>(9 6 9)18
<AST>(3 6 9)15
<CAU>(2 5 6)11 合計44
3回目
<ETH>(2 5 5)10
<AST>(6 8 10)18
<CAU>(2 5 10)15 合計43
期待値より下回らなかったのでほっとする。
【ETH】は痛みの件で近接戦闘を諦めたので考慮しなくていい。
となると無難に合計で判断していいだろう。
一回目の結果をステータスへ反映させるとこうなった。
【HP】267/267 【MP】371/371
【EYE】32/32 【SEN】32/32
<ETH>13 【STR】13 【AGI】13
<AST>19 【VIT】19 【MND】19
<CAU>13 【DEX】13 【INT】13
【ATK】169(+0)【M-ATK】208(+0)
【DEF】247(+0)【M-DEF】247(+0)
「よしよし。じゃあ次はスキル決めだな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます