第六節 敵は雑兵、されど数多し

 三千の軍勢を相手に、わずか三名で拮抗しうるだろうか?


「どっこいしょぉおおおおおおおおおおお!」


 この通り、出来るのである。


 波と寄せる戦車の軍勢を、巨大な山が打ち砕く。

 飛沫となって舞い上がる、戦車やドローンの残骸。

 巨躯にて敵軍を押しつぶしたリトーは、そのまま橋頭堡きょうとうほとして機能を開始。

 彼の身体の上を安全な滑走路として、ヴィーチェが駆け抜ける。


「拡張刃衣戦術、第二十一式──魔王星ブラックホール天荒零あめあられ!」


 天井すれすれまで打ち上げられたエクステンドブレードドレスが、そのまま空中で衝突。相互干渉を引き起こし、粉々に砕け散る。

 散弾となって降り注ぐ、無尽蔵のマイクロブラックホールの刃が、地を埋め尽くす敵を一方的に蹂躙した。


 着弾した刃衣は、その場でジャミングを開始。ブラックホールの超重力によって干渉し、連絡系をズタズタに断裂をせしめる。

 敵の動きが、混乱の極地を迎えた。


 即ち──勝機!


「〝悪食憲兵〟──推して参る!」


 我が身はすでに装甲済み。

 リトーの身体の上を駆けながら、両腰の功子密束複合投射装置のトリガーを引く。

 射出孔に作用効果が発生。

 爆発的な推進力が生み出され、私の身体が弾体のように加速/飛翔する!


 視界をよぎる不吉な影。


「しまった!?」


 追い詰められた敵の軍隊が、破れかぶれに発射した無数の飛翔体ミサイル。くわえて、炸薬を満載したドローンの編隊が、私のすぐ脇をくぐり抜けていく。

 一発で構造体にひびを入れるほどのそれが、住民や女王たちが避難しているピラミッドへと飛んでいくのだ。


 打ち落とせるか?

 迷う時間も惜しく、レイヴンを構えるが──それよりも早く、巨大な影が眼下よりせり上がった。


「ぼくはぁああ、欲張りだからぁアアアアアアアアアアアアっ!」


 咆吼するリトー。

 彼の巨体が信じがたい速度で動き、打ち寄せる波状攻撃の盾となる。

 接触の直前、大爆発が巻き起こる。


「リトー!」

「ひとつだって、壊させてやらないんだぁああ……チャンスを逃がすんじゃないよぉ、ぼくの戦友トモダチ!」

「!」


 ピラミッドに覆い被さるようにして、防ぎきれるはずもない攻撃をしのぎきって見せた巨人騎士が、私へと檄を飛ばす。

 彼の尊き行動に応えるべく敬礼。


 レイブンの引き金をさらに数度引いて、反動で崩れていた姿勢を制御。

 敵軍がヴィーチェの攻撃から逃れようと密集防御陣形をとっていることを確認し、右手の装甲を解放する。


「ヴィーチェ!」

『照準をキリクに。トリガーもキリクに! 限定装置全解除──反動で吹き飛ぶのだけは注意しなさいよ!』

「応さ──散華せよ!」


 私は、敵軍の中央へと向かって、功子を全解放した。

 黄金の槍が、水平にすべてをなぎ払って──


§§


「アア、妾ノ騎士リトー! 帰ッテ来テクレタノデスネ!」

「お、おっとぉお!」


 ピラミッドに戻るなり、女王がソラからすごい勢いで降下してきた。

 慌てて抱き留めるリトーだったが、さすがに彼もたたらを踏む。


「大丈夫デスカ? 無事デスカ!」

「女王は心配性だからなぁ。ぼくは無事だねぇ、かなり無事ぃいい。なにせほら、叛逆者に魔女まで味方だからねぇー」


 のんびりと笑う優しい巨人。

 女王はフェイスディスプレイをバッテンにして、さらに涙のエフェクトまで流す。


「馬鹿、ヤハリ妾ノ騎士ハ大馬鹿者デス! コレマデニナイ大軍勢。今度バカリハ駄目カト思イマシタヨ……!」

「ありがとなぁあ、女王。でもほら、ぼくはぁあピンピンしてるしぃ。……うん?」

「PIPppppppppp──心配! 安心!」


 ぶ厚い胸板を叩いてみせるリトーの足下に、住民たちが集まってきた。

 そのほとんどが子どもたちだった。

 住民たちは必死に、巨人騎士へと語りかけ、リトーはこくこくと頷いてみせる。


「かっこよかったって? 照れるなぁああ。え? きみたちもぼくみたいになれるかって? 誰かを守れるかって?」


 少々ばかり重い問いかけ。

 けれども彼は気持ちよく、にかっと笑って返答する。


! ひとは大切な誰かを守りたいと思ったとき、いつだって、だれだって戦士になれる! ……情けないぼくなんかより、よっぽど上等の戦士にね」

「PPPPPPPPP──WOWOWO──嬉々! 感謝!」

「おうおう。だからなああ。なんかあったときは、このセクタと。それから女王をきみたちが守るんだぞぉおおお?」


 子どもたちが一斉に頷く。

 表示される顔文字は、決意のそれ。

 拳を突き上げる住民たちを、誇らしげにリトーと女王は見つめ。

 そして、私たちへ真剣な声音を向けた。


「御二方、オ話ガアリマス」


 私とヴィーチェは視線を交わし。

 表情を険しくしながら、頷いた。

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