第三節 三者三様に姦しく

「ん? んんんんんんんんんんー?」


 振り返った魔女が、オレを見るなり盛大に首をかしげた。

 そうして、あからさまに嫌そうな顔になって、明後日の方向へと顔を背けながらこれみよがしに大声を上げる。


「なーんでこんなところに、廻坐乱主の巫女がいるのかしらねー! 敵じゃなーい? 敵でしょこれー? 嫌だわ、早く解体バラさなきゃ」

「おまえが解剖されてろ、品性下劣色欲魔女」

「抱きしめることのなにが悪いって言うのかしら! 口が悪いわね、どんな教育されてんのよこの駄巫女? そんな子に育てた覚えはないわよ、あたし!」

「奇遇だなぁ! オレもおまえに育てられた覚えなどないわ、愚物! 同族嫌悪で死ね!」


 やるか?

 買うわよ、の売り言葉に買い言葉。

 ぽこすか。

 ぽこすか。

 慌てたキリクが、飛び込んでくるまでそうかからなかった。


「なにを! なにをやってるのだ、君らは! この非常時に!」

「「喧嘩よ!」だ!」

「ああ言えばこう言う……! この、似たもの同士め! よく見ればちょっとだけ顔かたちも似ているぞ!」

「「似てないわよ!」がな!」


 もめる相手が三名に増え、いよいよ姦しくなる場面。

 沼の水面からは、急に高笑いが振ってくる。


『クハハハハハ、デスじゃ! ついに万策尽きて、おかしくなったデスじゃか──の!?』

「「「うるさい、空気を読め」」」


 オレが、魔女が、何よりキリクが。

 天に浮かんだスワンプマンの顔へと、同時に攻撃を浴びせかける。


「ヴィーチェ。久闊を叙するのはあとだ。状況を何処まで理解している?」

「久方ぶりなのにご挨拶……もちろん、ばっちり全部……だいたい? 概要だけは把握してるわよ。それで結論だけど」


 魔女が魔女のゆえんたる、悪辣な笑顔を浮かべ、告げた。


「あの球体頭のもくろみは、うまくいかないわ」


 それは、なぜ?


「だって」


 極めて当然。

 この世の摂理を問うなど愚昧と言わんばかりに。

 魔女はしたり顔で、こう言うのだった。


「功子知覚者以外が、功子を制御できる可能性なんて存在しないのだもの。ほっといても、扱いきれない力で自滅するわよ、あいつ?」


§§


「それは、聞き捨てならないことを耳にした」


 グッと、キリクが両足をたわめた。

 何をするつもりかと聞くのはオレばかりで、魔女は皮肉げな笑みを浮かべている。


「自滅すると言うが、ヴィーチェ。それは、街もろともという意味だろう?」

「そうよ」


 魔女は、身も蓋もなく肯定する。


「このままじゃ沼があふれ出して、街の住民は飲み込まれてしまうでしょうね。そもそもスワンプマンはそこまで織り込み済み。行く先々の構造体から生命体から、ありとあらゆるものを沼に取り込み功子に変えて、神へと挑む礎にするつもりなのだもの。そのために、神製N-verコードだってかすめ取っていたんだから」


 だ、だが。

 球体頭が功子知覚者ではないとすれば、集めた功子を制御も出来ず自滅するのでは?


「そう宣ったのは魔女、おまえだろう」

「巫女ちゃんの言うとおり。ほっといても終わる出来事よ、これはね。知覚拡張装具なんて何の役にも立たない。せいぜい他者との共振率を上げるだけ」


 渦動因果録干渉粒子とは、そんなにも生易しいものではないと、魔女は言う。

 確かに、功子は不可能を可能にする概念そのもの。

 やはり、球体頭は自爆するだけで──


「けれど、覚えていなさい、巫女ちゃん」


 魔女が、性悪な笑みを浮かべ。

 オレを嘲笑う。

 自分は知っているぞと、言わんばかりに。


「このバカは、その短い時間に出る被害すら許せないのよ。すべての命を守る防人──そういう概念が、キリクを支える渇望だから。渇望の、変形だから」

「変に規模の大きな話をするな。私はただ、偽神を討ち果たし、人々の未来を守る勅命を帯びているだけだ。ゆえに!」


 ここで討滅仕ると、彼女は右手をまっすぐに沼へと突き出す。

 功子の全投射。

 すべてを消し去るフォース功流の構え。


「……キリク。オレは神様の巫女だぞ」

「後ろから撃ってくれてもいいが、やつを吹き飛ばすまで我慢してくれ。そのあとなら相談に乗る」


 全投射すれば、当然功子残量はゼロになる。

 それでもかまわないと、彼女は言う。


「工夫たちは代替可能の同じいのちだぞ、助ける必要など──」

「異な事を言うな。!」


 ──嗟乎。

 本当にこいつは愚かで、大莫迦で。

 けれど、嫌いにはなれなくて──


「まったく、あたしがいないとほんと後先考えないのね」


 魔女が、苦々しい表情で肩をすくめ。


「バカを言うな」


 キリクが、慣れた様子で否定する。


「おまえが蘇ってくれたから、後先考えずに無茶をしてもいいと思えたのだ。昨日までは、途中で倒れるわけには行かない日々ばかりだったからな」

「────」


 彼女の言葉に、魔女は大きく目を見開き。

 くしゃりと、微笑んだ。


「……本当、天然のたらしなんだから。よし! ヤルならキリク、狙いが違うわよ!」

「どういうことだ?」

「沼自体を吹き飛ばしても、結局街に被害が出る。だったら、ここは沼の底だから──」

「──はは。それは、底抜けに愉快なアイディアだ!」


 もう、彼女たちは躊躇しなかった。

 反撃の幕が、今上がる。

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