第三節 魂が知っている
頭の奥深くで、なにかがキレた。
『キリク!』
戯画女の制止など聞こえない。理性の警告など意味がない。もとより足踏みの理由もない!
衝動的に、反射的に、最速で真っ直ぐに!
目前の〝敵〟へと、飛びかかる。
敵だ。ああ、敵だとも。
あれを敵と定めず、なにを敵とするものか!
『ぐっ! 間に合って、限定功子転換──右腕!』
振りかぶった右腕がかすむ。
赤い炎を貫いて、それは幼女の儚いものから、硬質な鎧へと変換される。
「誅伐!」
多脚戦車の装甲をもひき裂く一撃が、いけすかない顔面へと炸裂して──
「はん」
一切の傷をつけることもできず、首の力だけで押し返される。
駆逐艦の船底を殴ったときのような、どうしようもない触感。
ハッと目を瞠り、痺れた腕を振りながら、即座に背後へと跳躍。
けれど!
「
「がああああああああ!?」
振り抜かれた槍の石突きが、私の顎をしたたかに打ち抜いた。
軽量級の身体は吹き飛び、ゴロゴロと床を転がる。
「……なんだぁ? ぜんっぜん弱ぇ。カイザー神様のお気に入りってんだから、ドンだけツエーのかって期待してたんだが……こりゃあ、買いかぶりか。見た目はカンペキお気にだろうが、この弱さじゃな。うむむ、うむー……巫女ちゃん楽しみにしてたけどなぁ……しゃーねーなー──名乗りもせずに、お仕事を先にこなしますかねぇ」
珪素騎士がブツブツと呟く。
顎が割れ、脳を揺さぶられ。
ボドボドと血をこぼす私が、立ち上がれない間に事態が進んでいく。
騒ぎを聞きつけて、〝彼〟の家族が集まってきた。
子どもたちが、好奇心いっぱいにやってきた。
奇怪な騎士は鼻歌を歌いながら、腰を落とし、〝彼〟の家族へと槍を構え。
「やめ──」
「レェェェッツ、収穫ターイム!」
彼奴の身体が、
両足の車輪が回り、蛍光色が尾を引くたびに。両手がかすみ、槍が放たれ。
そのたびに、
「ぎ──」
「──ぎ──」
「かみ、さ──」
「ゆる──し──」
〝彼〟の家族が、血の花を咲かせる。
槍はどういう理屈か、命中の瞬間ケモノのごとくアギトを開き、肉を食いちぎる。
ゆえに、一突きごとに、ひとつの命が奪われる。
一衝一殺。
まるで
旋風がおさまる。
真っ赤に染まった奴の槍が。
アギトとなった穂先が漏らす、くちゃり、くちゃりという咀嚼音だけが、穴倉の中に反響する。
……救いを求めた念仏すらも、もう聞こえない。
『キリク。あれは珪素騎士。円卓の残り香にして神の使徒! 生物の身体を功子で乗っ取って生成される、珪素基生物兵器! 人間を遙かに超えた遺伝子情報量と身体能力を持っていて、信仰のために生物を収穫する上位者で──』
「ヴィーチェエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
『──っ』
憤激する感情のままに叫べば、彼女は押し黙った。
なんだそれは?
それがなんだというのだ?
いま重要なのは、そんなことではないだろう?
私は、神を殺すためだけにここにいるのだ。
人民の敵を殺すのが、私の役目なのだ。
そしてあれは──私の敵だろうが!
「ヴィーチェ、戯画女! 貴様が真に、私を導く魔女だというのなら! いまこそ戦う力を与えてみせろ! 彼奴を殺す力を、いまここにぃぃぃ!」
『……アンタの身体は未完成で、功子の残量も最大ではない。わかっていて、言ってるのですね?』
わかる、わからないの問題ではない。
勝てるかどうかですらない。
私は今。
なにをなげうってでも、あの邪悪を止めねばならんのだ!
『……なら、
それは、了承を告げる符号。
私にはわからない。
この世界のことが。なにが起きているのか。どこへいけばいいのか。何一つ解らない。
それでも!
『アクティヴコードは──』
「功子転換──戦鬼転生!」
いまは戦うべきだと、魂が知っていた。
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