『空中そうめん流し』 《後編》の《下》

 すぐ来るはずの『空中バス』でしたが、まったく来る気配がありません。


 時間はじりっじりと過ぎてゆきます。


 首都方面は、大きな火災になっているようです。


 ぼくは、いつも持ってきている『小型ラジオ』を聞いていました。


 アナログラジオ放送は、30年ほど前に、いったん放送中止になったのですが、中止したとたんに大きな災害が世界中で頻発し、デジタルラジオを持っていない人が多く存在したうえ、生産が出来なくなったりして、すぐに臨時に再開されました。


 今も、臨時のままです。


 いったん決めてやり始めたら、なかなか『撤回』できないのが、政府というものです。


 しかし、ここは、高度1000メートル。


 おまけに、夜間になると、中波帯の電波は電離層で反射されるようになります。


 遠くの放送も聞こえてきます。


 で、そうした多くの放送局の放送が、すでに、止まっていたのです!


 『ありゃっりゃ。核爆発の影響大だなあ。きっと。』


 ぼくのかばんは、特殊加工してあって、核爆発に伴う電磁パルスの影響を極力受けないようになっています。


 特注したかばんです。

 

 時に、乱暴君の話だと、この真上で起きた高高度核爆発は、実験もされたことがないような、巨大な爆発だったらしいです。


 ならば、下手したら、人体も、電子レンジの中に入れられたような状態になるはずです。


 しかし、今回は、高度が高すぎたせいか、はたまた、どういう理屈かまだ分かりませんが、人間への直接的被害は、ぼくの周囲では、あまりなさそうでした。


 『光回線』は、恐らく大丈夫でしょうけれど、送電線を通って、特に対策もしてない電子機器は、壊滅状態でしょう。


 交通機関も、生活インフラも、通信機関も、大方、ダメでしょう。


 ああ・・・・なるほど、バスは来ないかもな。


 

  ************   ************



『どうしたぞな。室長さん。』


 受話器を置きながら、室長が言った。


『バス、動かないって。』


『やはり、そうぞなか。まあ、そうかもな、とは思ったぞな。あのぞな、大昔のバスに、重力制御装置を乗せて動かせないかなあ。』


『そんな、都合の良いことがある? 第一、間に合うの?』


『重力制御装置自体は、《装置がら》、割と外からの干渉に強いぞな。携帯型の装置がふたつあればいいぞな。あと、古いガソリンバスがあれば、いい。あそこの会社は、古い自動車のコレクションしてたぞな。電子装置なんかほぼ関係ないやつが2台あればな。『乱暴2世くん』に頼もう。いればいいけどな。あいつ、パートだし。』


『聞いてみるわ・・・・・・・・・いるって。』


『ちょと、電話、変わってほしいぞな。』



 ************   ************



『会長。なんだか、地上は大事ですよ。』


 執事の吉田さんが、会長室に入ってきた。


 ここは、遊園地の地下。


 実際は、海中にある『会長』の隠れ場所にして、今は、拘禁されている場所である。


 総本社によって、出入り口が閉鎖されている。 


『わかってるさ。社長たちの悪だくみだったんだろうな。ぼくは、大馬鹿だ。異世界人たちは、僕とは別に、社長連中と、直に取引してたんだろうな。公共施設と、『遊園地だけ』のつもりだったぼくが、大馬鹿だ。連中にも、下心があったんだ。ぐすん、・・・・・』


 会長は、子供のような、純真な魂を持ったまま、おじいさんになった人である。


 軍事産業に巻きこまれたのは、社長以下の政策だったが、その引き換えが、この『遊園地』だった、というわけである。


 『脱出したいが・・・・上が、気が付くように、エネルギーを派手に抜いてるんだが、やはり、地下までは気が回らないかなあ。外からなら、抜け出す通路が開くんだけど。内側から開かないようにしたのは、おばかさんだったなあ。』


 『そりゃあ、おお、おばかさんでしたなあ。会長、いったんエネルギーを返してみましょうよ。『空中そうめん流し』が、あと1間半で落ちますよ。』


 『そりゃあ、まずいな、よし、急激に充電してやろう。ここから制御できることは限られてるが、幸い遊園地の中だけのことなら、結構可能だ。通信方法が無くなってるのがいたいなあ。・・・あ!』


 『ど、しました。』


 『糸電話だよ。吉田さん!』


 『え?』


 『遊び心で、『糸電話回線』が、指令室につながってるんだ。もちろん、特殊な技術で、振動を拡大して、増幅できるようになってるけど、気ずいてくれたら、いまでも、話せるかも。』


 『そんなもの、使えるわけがないでしょう。』


 『実験したときには、上手くいったんだもん。ほら、これね。最高級の素材を使った、糸は、このために開発した絹糸を使ったんだ。カップの振動素材も、特別に開発した超高感度なものだよ。1000メートルは行ったんだ。』


 会長が天井をつっつくと、紙コップ、そのもののような物体が、分厚い天井の中に埋め込まれた穴から、ひょいと、出てきたのである。


 飛行機の、《酸素マスク》みたいな感じだ。



 『お~~~~~~い! 聞こえるかああ~~~~~~~~~い! ぼくだよお~~~~~~~~~~。ぼく!』

 


 『はあ・・・・・・・会長さんがこれじゃあ・・・・私は、助からんですなあ。』


 吉田さんは、大きなため息をついたのである。


 『あ、会長、大事な事があったんです。息子さんが・・・いや、専務さんが運ばれてきましたが、別室に監禁になりましたです。』


 『え? 別室? なんだ、そりゃあ?』


 『はい。『G応接室』なんですが、どうやら、これもまた、こっちで開閉の操作ができないようになってます。』


 『あいつ、とことん、やなやつだったんだなあ。社長に推挙したのがまちがいだったか。・・・・・・・『あああ~~~~、聞こえますかあ! こちら地下!ぼくですよお!!!』


  

   ************   ************



 一方、乱暴君は、『乱暴君二世』くんと話し終えた後、上空にやって来た《幽霊衛星『A』》さんに通信を試みていた。


 多くの《幽霊衛星》さんたちに協力を依頼するには、『アイノちゃん』の超能力が必要である。



 ・・・『幽霊衛星さん』というのは、運用停止されたまま、宇宙空間に放棄されてしまった『人工衛星』さんたちで、そこに、魂が宿った、『幽霊衛星』である!


 人類が愚かなことを重ねると、天罰を下すと主張している。・・・『雨はじゅわじゅわととめどなく降る』参照・・・・・


 『A』さんは、そのひとつで、割と親人類派であり、あの未曽有の『大雨』の際、人類と『幽霊宇宙船さんたち』の仲立ちをしてくれたのであった。


 しかし・・・・・反応がない。


 そこに、また、カートからの通信が入った。


 『どうだい・・・乱暴君。なんだか、急に涼しくなったんだけど。おかしな入道雲さんが現れたよ。こりゃあ、ゲリラ豪雨が来る。早く下りないと、危ないかも。いや・・・こっちの方が安全かな。高い場所だし。でもね、この、雲さんは、危ないよ。』


 『落ちなきゃあ、まあ安全ぞな。しかし、エネルギーが足りない。『A』さんは、返事してくれないぞな。あ、・・・・・・・まって・・・あららら、エネルギーが増加してる。なんだ、こりゃあ、ありえないぞな。室長! なにかした?』



 『おおいい~~~~~! どしたの~~~~? おおい~~~~~~』



 乱暴君は、そのまま、ボスをほったらかしにしたのである。


 『何もしてないわ。なに、これ? なんで、増えたのかしら。まあ、落ちるのが少し先になった?』


 『1時間は伸びたぞな。やれやれ。バスはどうかなあ・・・・』


 『それが、あれ以来、電話が使えなくなったの。あっちがダウンしたかも。』


 『上からの報告でもあったけど、ほら、雲行き怪しいぞな。』


 『これは・・・嵐が来るわ。』


 『予報不可の『超ゲリラ豪雨』ぞな。この雲は、あの『大雨』の時の雲に、そっくりぞな。こらあ・・・またまた、たたりかも。ついに、人類が見放されたかもぞな。そうならば、終わりかも・・・・くわばらくわばら。』


 『まってよ。あなたって・・・・本当に、あの有名な『乱暴さん』ご本人なの?』


 『ありゃあ・・・・信じて無かったの?』


 『偽物は、いっぱいいるから。』


 『そりゃあ、まあ、そうですぞな。でも、ぼくは、あの時の本物。上にいるのが、有名な『ボス』ぞな。変装して乗ったみたい。』


 『人類の『恩人』さんじゃない。』


 『まあね。でも、あのとき、『幽霊宇宙船』さんは言ったぞな。『しばらく様子見する』ようなことをね。人類は、それで、形式的には核廃絶したし、『地球政府』も作った。でも、もしかしたら、隠れて、良くないことしてたのかもな。ここの親会社さんとかが。』


 『まさか。いくらなんでも、そこまでのことは・・・・』


 しかし、大嵐は襲ってきたのである。



   ************     **********



 乱暴君は、『A』さんに、電文を送信し続けていました。


 『あ、そうぞな。・・・・・ボース!・・・・聞いてるかい?』


 乱暴君から、通信です。


 『さっきは、よくも、ほったらかしにしたな!』

 

 ぼくは、まず、そう答えました。


 『で、こりゃあ、ものすごい嵐になって来たよ。いまのところは、平気だけど。雷が、中央の調理場さんを、直撃してるよ。ものすごい、レーザー攻撃を連続で受けてる感じだよお。まずくないかい?』


 『まあ、まずいすね。重力装置が、もしも、いかれたら、おしまいぞな。で、ボス、そこで、例のお経、読んでください。あの世界中の許しを請う言葉ぞな。ここから、宇宙に中継するぞな。残り少ないあなたに、びったりぞな。』


 『なんとまあ・・・言うにことかいて・・・・それに、同じ手が使えるとは、思えないがなあ。ええと・・・原稿はあるよ。まあ、いいや、どうせ、ホント、もうダメかも。宇宙ステーションも、落ちてくるんだろう?』


 『あい。そこにいても、ここにいても、やがて、お陀仏ぞな。』


 『わかったよ。読む。読みますよお・・・・』


 ぼくは、世界中から、あのときに集めた、『許しを乞う言葉』を、読み出しました。


  

************☔ 休憩 (-_-)zzz ⛈ ************





 普通ならば、《つづく・・・・》ですが、『最終回』と言った手前、このまま、続きます。はい。






   ************ ☂ 再開 ☂ ************



  それから30分。


 『本社からは、何も無いし。呼びかけても、だめ?』


 室長が乱暴君に尋ねてきた。


 『だめ。さっき、やってみた。この大嵐じゃあ、陸上は大洪水だろうなあ。やっぱ、この世の終わりかも。完璧、見放されてる。』


 『そんなこと、言わないでください。人類の英雄ともあろう方が。くそ、そんな会社なんか、やめてやるわ。』


 『はあ・・・出世するんでしょう? あ・・・・・・あらら・・・』


 『どうした?』


 『なんか聞こえる。ほら、・・・・ね。』


 『そうかしら・・・あたし、必ずしも聴力が良くないから。』


 『ぼくは、抜群ぞな。 ほら、聞こえてる! どこだ・・・・あ、ここ。この足もと。ほら、なんかあるよ。室長、これなに?』


 床に、小さな四角の『箱型』になった切れ目がある。


 『いやあ・・・しらないなあ。引継ぎもなかったし。』


 『思いっきり、押してみるぞな。ぐいっと。あ~ら不思議。開いた。ほら、これだ。コップ見たいぞな。今は聞こえない。おおお~~~~! 糸電話ぞな。』


 『あの、こどものおもちゃ?』


 『まあね。まて、耳にあててみる。む・・・・・しゃべってみかな? 『お~い、いるかあ・・・!! だれですかあ!!? こちらコントロールルームぞな。』


 すると、返事が来たのである。


 『やったあ。聞こえたぞ。こちら、会長さんですよ。地下です。正確に言うと、海中です。』



  ************   ************



 『『会長』さんとか、言ってますよ。室長。』


  室長は、乱暴君からカップを奪い去った。


 『貸して! あ~~あ~~~~、『万物は一人の人間より軽い。』どうぞ。』


 『あ~あ~!『だから、一人の人間は、太陽系よりも重いのだ!』 君、だれ?』


 『ここの、室長です。なんで、会長さんが、このあたりにいるんですか?』


 『まずは、助けてください。エントランス横のお手洗いの中に、本社も知らないアナログな出入り口があります。用具入れの奥に、配電盤があるので、そこにむかって、大声で、『会長のおおバカ野郎、死ね、くたばれ!すぐに! ぼけっと何考えてんだ!』と、言ってください。そうしたら、階段が開きます。なにか、武器とか、持ってきてください。息子が閉じ込められてるんだ。』


『この、大嵐の中を?』


『ふう~~ん。あんた、出世したくない?』


『行きます。待っててください。乱暴君、あなた、ここたのむ。』


『いっしょに、行きましょうか。』


『いい。あなた、出世しないんでしょう?』


『あらまあ・・・・・まあ、気を付けてどうぞ。』



 ************ 🛰 ************



 いったん、動き出したら、世の中は、案外、いっぺんに動くものであります。


 通信機から、乱暴君の大声が聞こえてきました。


 『おあ! アイノちゃんが開いた。やた! おお~い、ぼす! アイノちゃんが開いた。もっと、頑張ってお経やってくだすああい!!』


 『はあ・・・・ぼくは、お寺さんじゃあ、ないけどね。・・・《むなやむなや ・うんじゃあ まいやらー・ めん くいにこ・うん・じゃあ まいやらーあ・・・・・・・・・むなやむなや・・・・・》 おや、あれは、なんだ? なんか来た。 おあ~。バスだ! 空中バスだ! ボンネット型のバスだよ。博物館にあるやつだ。乱暴君! ばすがきたぞ・・・・・あれ・・・・・通じない。おおい。どうしたのお?・・・・・』


 ぼろぼろの《ボンネットバス》が二台、こちらに近寄ってきます。


 大型ハイヤーくらいの空中自動車も、空中に残された人たちを回収し始めました。


 あたりは、ものすごい嵐ですが、重力制御が効いてる内側は、割合に静かです。


 しかし、雷様はエネルギーが大きいため、通過してきます。


 中央の《タワー》が、避雷針の役割をしてくれているようです。


 ぼくたちは、どかどかと、回収されて行きました。


 ぼくは、まだお寿司の残りを握っております。



   ************   ************



 

 不思議なことがあるものです。


 落っこちかけていた、『宇宙ステーション』は、なぜか再び上昇し、元の軌道にもどりました。


 会長さんと、その息子さん、それから執事の吉田さんたちは、室長の働きで解放されました。


 社長さんの『一味』は、地球連邦警察によって、逮捕されました。


 彼らは、『異世界人』と手を組んで、地球征服を企てていたのです。


 専務さんが、すべてを告白しました。

 

『地球政府が、我が社に解体処理を委託してきた『核弾頭』や『核物質』は、わが社の特許である重力輸送装置により、わが社の『廃棄物処理衛星』に運ばれて、『解体処理』や、『永久封印処理』をしていました。でも、実は、まだ十分使えそうなものは、会社の《月倉庫》に運んでいました。そこで、『宇宙空間ミサイル』に改造していました。もちろん、地球支配のためです。それらには、『異世界人』の技術を借りていました。『あの公園』は、実は、その海中深くに『異世界人』の基地が隠されていたのです・・・・・』


 地球政府は、大慌てで、海中を捜索しましたが、もはや、なにも見つからなかったそうです。


 『彼らは、宇宙空間のあちこちから、その『一部を切り取って』、コレクションするのが趣味というか、商売というか・・・なんです。そう言っていました。それを、あちこちの『宇宙空間』で、仮設の大きな展示場を開いて、公開して儲けるのだそうです。この広い宇宙には、『宇宙警察』というのもあって、この行為は、違法すれすれなんだそうですが、『契約書』とかを巧みに作っていて、取締りからは逃れていたようです。地球側の『契約書』は、もちろん、わが社が作りました。わが社が地球の支配者になれば、それで、もう完璧ですから、で、様々な、後押しをしてくれました。でも、今回は、最後になって、『不可思議な力』が、働いたので、非常に慎重な彼らは、さっさと手を引いたのでしょう。』


 

  ***************   ***************


 会社は、政府が介入して、大幅に、経営陣が入れ替わりました。


 あの室長さんは、その後、大出世しました。


 会長さんは、いったん、この世のすべてから引退しましたが、あまり重い罪には問われず、今では、あの公園の園長さんをやっています。


 『空中そうめん流し』は、政府と話が付いたらしく、いまでも続いております。


 重力制御などの技術は、地球政府が、うまく、せしめたようです。


 今の地球政府は、僕が言うのもなんなのですが、まあ、わりと、平和主義の、ましな政府ですが、だから、『幽霊衛星』さんたちが、守ってくれたのでしょう。


 ぼくは、非営利無宗教団体『幽霊衛星さんを讃える会』を立ち上げ、会費、月一人1000ドリムで、運営しています。


 『地球異常現象研究所』も、同じ場所に移転して、細々と健在です。

 

 幽霊衛星『A』さんが、宇宙空間から、会員に直に返信してくれるのが、人気になっております。


 そこには、当然、乱暴君が副代表として、参加してくれております。



 また、会員は、あの『公園』のアトラクションが、なんと、一割引きにもなるのです。


 もちろん、『空中そうめん流し』も。




  ************ 🛰🛰🛰 *************** 



                         おしまい







 


 





 


 













  



















 




 


 

 










 

 

 








 


  






 

 

 


 

 

 


 


 


















 








 




 






 










 






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『空中そうめん流し』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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