『空中そうめん流し』 《後編》の《上》*

**********

 


 室長は、必死に使える通信手段をさがしたが、みな、ぶっ壊れている。


 そこで、乱暴君が、突然言い出した。


 『おあ。これ、つかえます。ぼくが持ち込んでた、アマチュア無線機。おじさん特製の真空管式で、違法無線だけど、すっごい頑丈で、なおかつ『強力』です。これで、東京本社の周波数に割り込みます。あっちの通信機が生きてるかどうかですが、きっと防御済みの機器をもってますよ。』


 『あなた、どれだけ私物持ち込んでるの?』


 『たいしてないです。これも、実家に持って帰ろうと思って寮から持ってきてただけ。やっていいですか? ここの非常電源使います。アンテナも。ちゃんと、使えるようには、ちょと、手は加えてたし。』


 『なんだそれはああ~~! もう。いいわ、このさい、やりんさい。』


 『あいよ。よっしゃ。行きますよお~~。ああ、本社、本社。こちら、そうめん流しコントロール・ルーム。応答願います。ああ、本社、本社。・・・・・応答しないと、園長の命はないかもね。ああ、本社どうぞ。・・・・・・』


 『ぶ。あんたね!』


 室長が、あせった。


 『こちら、本社、通信室。こらあ、何言ってる! 園長を解放しろ! クーデターか?』


 『かしなさい。まったくもう。あの、室長です。すみません、他に連絡手段がなくて、乱暴くん、いや、技術主任の『無線機』を借りています。それより、すべての機器が稼働不能。緊急電源が一部稼働してるだけです。あまり持ちません。お客様が空中で動けなくなっています。原因は、高空での大きな核爆発のようです。さらに本社の《宇宙ステーション》がここに、落下して来る危険性がありそうなのですが。対処方法を示してください。』


 『ああ、こちら本社。連絡するまで、待機、どうぞ。』


 『急いでください。時間がない。』


 『・・・・・・・・・・』


 『くそ。切れた。いやあ、切ったのかも。意図的に。』


 『なによ、それ。』


 『死ね。と・・・・、ぼくは、『いくら事件』の時に、同じように扱われたぞな。(『いくらで銀河ながしてみたいなわが茶碗』参照)』


 『『いくら事件』は知ってるけど、ここは、ただの遊園地よ。』


 『いやあ。意外と、何かあるぞな。ここは。会長肝入りの場所ですぞな。』


 『あんたね・・・ああ、でも、まずお客様を下ろさなきゃ。』


 『あの、もし、・・・・重力制御に使ってる電源は、太陽さんとかから、蓄電したものぞな。普通なら朝まで十分だけど、ほら。急速に減ってる。どっかで漏電してるか、外から盗まれてるか、してる。なんせ、あと3時間くらいしかもたなさそうぞな。』


 『早く言いなさい。重力制御できなくなったら、落ちるじゃないの。』


 『あい。ま、さかさまぞな。』


 『しかたない、空中車両総動員して、地上に降ろしましょう。』


 『全部で、250人いるぞな。使える車両は小型6台しかない。ピストン輸送して、まにあうかどうか、ぎりぎりぞな。前からぼくが言ってたように、あなろぐな脱出装置がないのは、やはり、致命傷ぞな。本社が判断して、『大型車』出してくれればいいけどな。』


 『文句は後から言え! すぐやるぞ!』


 『了解。』 



   **********   **********


 

  ここは、東京本社、コントロールルームである。


 『常務。まずいです。太平洋地域全体の電子機器がダウンです。想定外の規模だったので、軍事用も相当やられているとのことで、世界中、がたがたです。爆発した《ごみ処理場》の残骸の多くは、大気圏で燃えますが、一部、燃え残りが落下してきています。まもなく、首都圏にも落下。あおりを受けた無人ステーションが、6時間後に落下しますが、こいつは、ばらして、地上に帰す予定だったので、やたらに頑丈です。分解しないまま、落下しそうです。遊園地付近に落下の可能性が高い。あ、遊園地の客が脱出できなくなってるようです。大型の救出バスを出せば、まだ間に会いますが・・・・・』


 『その必要はない。』


 『は?』


 『必要はないと、言った。』


 『え~~~~~!!!』


 常務は、そう言い残すと、地下の自室に入った。



 いくつかの火の玉が、東京首都圏に突っ込んできた。


 また、ハワイの『地球政府首都機関ビル』にも落下してきていた。



  ************   ************



 『こちら、東京本社。秘密通信回路。総本社どうぞ。社長?』


 『おう。常務。上手くいってるか?』


 『まあ、予定通りです。証拠は全部なくなりますよ。すこし、犠牲は大きいが。東京の地球政府『監査庁』は、今、火の海ですな。しばらくは、動けないでしょう。』


 『おう。ハワイの『地球政府』も、はでに燃えてるな。地球のコントロールは、こちらでただちに奪取する。少し前倒しではあるし、多少、乱暴にはなったが、これで、『地球』は、わが社の手に入る。『異世界人』との協定は実現される。核廃絶は、これで完成だ。『くず』はすべて消されて、使用可能な『弾頭』は、すでに月基地に移送した。』


 『会長は、大丈夫ですか?』


 『おう、あの『遊園地』の地下だぜ。運悪く、巻き添えだな。あのステーションには、『異次元転換装置』が乗っていて、地上で爆発した瞬間に作動し、周囲500キロの円内は、地上も、地下も、ものも人も、海も、異世界にがっぽり移動だ。あとは、連中がどうするの、かまでは、おれは知らない。あんた、はやく、脱出したまえ。』


 『了解。私の地位は?』


 『大丈夫。専務は、そむいたから削除する。殺しはしない。すでに、父親の元に移送済みだよ。あんたが専務だ。次期、社長という訳だ。』


 『ども。じゃあ、脱出します。』


 その後、東京本社からは、大きな火災を見下ろしながら、小型の高速飛行艇が、飛び去って行った。



  ************   ************



 『あ・・・・この、通信機。おあ。なあんと・・・ここにあったか。』


 乱暴君が勝手に叫んでいる横では、室長が『町内会通信網』を使って、電話をかけていた。


 町内会の範囲にしか使えない、緊急用通信網であるが、単純だったためか、これが生き残っていたのだ。

 

 『・・・『お願いします。よかった。』・・・・なあに、それ?』


 『うちの、ボスとの通信機ですよ。無くなってたんだけど、ここに忘れていたんだ。こいつは、災害にも強い、特殊加工品ですぞな。あ、なにか、そっちは、いいことがありましたか?』


 『うん。知り合いのバス会社と町内回線で話しが付いた、すぐ、大型空中バス2台が来るわ。間にあうと思う。地上に降ろしてもらって、社員ともども、避難する。本社なんて、無視だわ。』


 『おう。よかった。・・・・・・よし。まって、『おおい・・・迷子の迷子のボス。この近くにいるかい?』



   ************   ************


 ぼくは、根性を固めていました。


 ここで、最後になるとは、意外でしたが。


 思えば、あまりうまくゆかない人生でした。


 ここから見ていると、なんだか、火の玉が、中心部方面に、いくつか落下しました。


 『流しそうめんくん』が、さきほど流してくれた情報では、高空で核爆発があり、さらに『宇宙船』が、落下し始めているとか・・・・・


 ぼくらは、地上に戻れなくなっているんだとか。


 そうめんの発出も、ぴたりと、止まりました。


 まあ、あの『いくら事件』では、結局職場を追われ、その後、乱暴君と始めた自営業は、大きな『功績』も上げたけど、これまた壊滅。暴力的な債権者から逃げ回り、別人を装って、幾十年。借金は、とにかく、なんとか返したよ。


 まあ、そうなったものは、仕方がない。・・・・そこに・・・・・


 『迷子の迷子のボス・・・・』


 とかいう通信が入ったのです。


 カバンの隠しポケットに入れたままの通信機です。


 二台の通信機間だけしか送受信できない、特殊散乱パルス・デジタル無線です。


 見通しが良い場所なら、100キロくらいは楽に飛びます。


 違法無線ですが、いまだ、発出源の探査も、解読も出来ない逸品です。


 『おおい。乱暴君。久しぶり。どしたの? 出世したかい?』


 『どしたの、じゃないですよ。今どこですか?』


 『『空中そうめん流し』のカートの中だよ。』


 『ええ~~~~~~~~~~~~~!!!!!』



  ************   ************ 



 『なんと、データ偽装して、変装して、乗り込んでましたか。まったくもう。あなたらしいというか、恐ろしやあ、というか・・・』


 『なんだ、きみ、ここで、働いてるの? すっごおい、出世だねぇ、』


  ぼくは、逆襲の意味で、少しからかいました。


  世界最高の天文学者になる、とか、言っていたから。


 『どうも。あ、状況をかいつまんで言いますね。・・・・・・・・』


 『はあ・・・・・・なるほど。あ、君、知ってる? そこの親会社の社長さんは、『いくら事件』の仕掛け人だったやつだよ。最近になって、わかったんだ。』


 『なんと!』


 そうなのです、あの、『増殖いくら』を開発した張本人なのです。


 ぼくの人生を、はちゃめちゃにした、にっくきやつです。


 そうめんにして、食ってやりたいやつです。


 どうやら、ここにきて、ついに決着をつけるチャンスが巡ってきたのかもしれない。


 『ねえ、乱暴君。アイノちゃんは、生きてるの?』


 『アイノちゃん』は、乱暴君が開発した、『超能力コンピューター』ですが、もう、あれから、長い時間が経ちました。


 『うごいてますよ。いまも、おじさんとこに置いてますぞな。ここからも、本来ならコントロール可能なのですが、いまは、通信回線が、壊滅です。』


 『いま、君が使ったという無線機で、おじさんとこにはつながらないかい?』


 『おじさんは、もう110歳ぞな。このところ、耳は遠いわ、話は通じないわで、それに、あそこまでは、遠すぎて、ちぃいと難しいぞな。』


 『ふうん・・・・・あの、アイノちゃんと仲良しになった、『幽霊宇宙船』さんがいたろ。普通の通信機にも反応してくれるやつ。』


 『おう! そうですね。まって、ううん。いまは、通信可能範囲にいないぞな。でも、2時間したら、真上に来る。そうだ、そうしたら、アイノちゃんに中継してくれるかも。そしたら、『ボス級の幽霊宇宙船』さんたちに、『援助』を依頼できるかも。』


 『最近の、人間の活動を評価してくれてればね。』


 『おっしゃ。やりましょう。もうすぐ、バスが行くぞな。こんぶ、復活ぞな。』


 『コンビ・・・です。』



 ************   ************



 *《お詫び》・・・・・・当初の予想より、長くなってきましたので、急遽『後編』の《下》を作る事にいたしました! 次回、最終回です。           



 






 













 






 


 












 







  













 





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る