第4話 冬

 椿の花がボトリと落ちる

 真白い雪に赤い痕



「おはよう。今日はもう起きてる?朝ご飯、ここに置いておくからね」


 ガシャガシャとした葉は青く

 冬枯れの日に悪目立ち


「じゃあ、お仕事に行ってくるから、お留守番しててね」


 散らずに落ちた赤い花

 白雪の上咲き誇る


「ただいま。あら、ごめんね。朝ご飯、気に入らなかったのね。お夕飯はちゃんと食べてね」


 落花してなお赤々と

 嘗ての色をそのままに


「おい」


「あら、貴方。何かしら?」


「いつまで、あれをそのままにしておく気だ?」


「お庭の椿のこと?良いじゃないですか。地面に落ちてもまだ綺麗なんですから」


「そのことじゃない」


「なら、何のことかしら?今からお夕飯の支度だから、後にしてくださいね」


 目にする者を惑わせて

 ただ赤々と赤々と


「おい」


「あら、貴方。何かしら?」


「いい加減に、アイツの分の飯を用意するのは辞めろ」


「なんてことを言うの!?そんなことをしたら可哀想じゃない!」


「そんなことばかり言っているから目が覚めないんだろ!?」


「目を覚ますって何!?それじゃあまるで、あの子がおかしくなったみたいじゃない!?」

 

 白雪の上咲いている


「今は少しお仕事に疲れて休んでるだけで、すぐに良くなってお部屋からも出てきてくれるんだから!」


 それでも雪が溶ける間に

 腐り爛れて異臭を放つ

 

「昔からお勉強も出来て、優しくて、良い学校に入って、良い会社に入って」

 

 なまじ形が残ったために 

 いずれは醜い姿を晒す


「私だって、あの子が幸せになれるように必死に育ててきたのよ!それなのに、貴方はどうなの!?いつも仕事にかまけて、子育てで相談しても後にしろって言って、少しも協力してくれなかったじゃない!あの子が学校のことでこまっていたときも、進路の相談のときも、就職のときも!それなのに、今回も私に任せてばかりで」


 シミ一つない白雪の上

 椿の花は何思う


「あの子が亡くなったときくらい協力してよ!私は今あの子のご飯を作るのに忙しいんだから!」


「……そうだな、全部俺が悪かった」




 黒い頭がボタリと落ちる

 シミの広がるラグの上

 ハンガーラックに掛かるのは

 黒く汚れたタオルの輪

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