ナゾトキ
「さて、僕も、最初はリフトの管理人さんが加害者だと思っていました。これを見つけるまではね。」
そう言って、僕は、林さんの携帯電話を取り出した。なかなか、僕にしては格好良く決まったのでは、と思いながら。
「これは、林さんの携帯電話です。北さん。あなたは、昨晩、林さんになんと言いましたか。」
「えっ、僕ですか。僕は何も言ってません。」
「そうですか。ではこれを見て下さい。」
北さんから林さんへ宛てたメールを見せる。
「明日の5:54丁度にリフト乗り場に来い。さもないと、例のことを公の場で公開する。北 昴。 これは、れっきとした脅迫文です。」
涼が読み上げる。
「北さん。これは貴方が、林さんに送ったメール内容ですか。正直に答えてください。」
「はい。」
「ありがとう。源警部の証拠とこのメールの件を踏まえた上でお聞きください。まず、林さんの
後頭部と転落した跡には、血は付いていなかった。つまり、一度、殺害された後、落とされた
ということです。では誰が、殺害し、落としたか。源警部、分かりますか。」
「加害者は・・・」
「もういい。加害者は僕です。北 昴です。」
北さんの一声にスキー同好会のメンバーたちが騒めいた。
「よく自首しました。北さん。」
「鷹司さん、僕には、真実を明かす勇気がありません。どうぞ、最後まで謎解きして下さい。」
「分かりました。ここからは、ホワイトボードに書いていきます。昨夜、午後5:00頃に夕食時林さんに[メール見たか]と聞く。そして、今日、午前5:54に林さんを殺害。死因は後頭部の他に傷がなかったことから、打撲。リフトに林さんと一緒に乗り、午前6:00日の出と同時に一緒に飛び降り、リフトの管理人に[自分が看板を立て忘れたせいで、人が亡くなった]と思わせる。」
「鷹司、ちょっといいか。なんで、北さんは一緒にリフトに乗り落ちたんだ。」
「リフトには林さんを落とす為の仕組みがなかったからだよ。リフト管理人室から見える所に林さんが自然に落ちる確率は極めて低い。それに、綺麗に後頭部が下に落ちる確率も100%ではないからね。続けていいか。」
「おう。」
「リフトの管理人は前科があり、更生中。[オーナーにバレたら、首にされかねない。]と思い
遺体をスノーモービルで回収しにくる。管理人が去った後北さんは、あらかじめ遺体からとっておいた、林さんのスキー板を履きロッチに帰る。」
「鷹司、何故、林さんの板をわざわざ履いたんだ。もとから履いておけばいいのに。」
「履かない方が殺害しやすかったからだよ。きっとね。続けます。そして、リフト管理人室で死斑や遺体の体温を調節。死亡推定時刻がずれたのは、この為。スキー場開園前に遺体発見場所である、林間コースに遺体を置き戻った。そして、10:10頃三浦さんにより発見される。さっき、源警部が見せた、このスノーモービルの跡の写真。このスノーモービルの跡がカーブを描くところから、スキー板に変わっていますよね。北さんのロッチに帰る跡なのではないのでしょうか。リフトの管理人さんが看板を立て忘れたのはたまたまです。なので、リフトの管理人を加害者だと仕立てようと思ったのは、おそらく、殺害してから。北さん、合っていますか。」
「はい。・・・・全て合っています。」
「北さん。僕には、ただ一つだけ分からない点がありました。動機です。動機に関しては、三浦さんやリフトの管理人の方がしっかりとありました。そして、リフトの管理人さんが看板を立て忘れたのは、たまたまです。教えてくれますか。」
「・・・1ヶ月程前のことです。皆さんは忘れているかもしれませんが、宝石強盗事件がありました。その犯人は僕です。」
場が騒めく。また一つ真実が明かされた。
「夜遅くでした。たまたまいた、林にみられたのです。その時、とっさに、林の胸ぐらを掴んで僕は言ったのです。[この事を誰にも言うなよ。もし、お前がこの件の事で口を開いたら、替え玉入学だということをバラすぞ]と。林は替え玉入学でした。このことは、僕しか知らないことです。僕のことは公にならず、淡々とした日々が続きました。ただ、僕の心の中にある罪悪感だけはなくなりませんでした。」
北さんは深い深い溜息をついた。
「なので、早くこの罪悪感を早く無くしたいと思いました。林を殺せばこの気持ちはなくなるのではないかと思いました。丁度良いことに僕と林は、サークルが一緒でした。サークルの旅行を企画してそこで殺せば、自分が疑われることはないのではないかと思い、この企画を思いつきました。そして、殺人計画を立てました。林は、もしかしたら殺されるかもしれないと、感じていたでしょうから、出発1週間前に、一度欠席すると伝えてから昨日ここに来ました。後は鷹司さんの言う通りです。」
ガタン。佐々木さんが立ち上がる。
「澪は、お前のために死んだのか。1ヶ月前から、ずっと何かに恐れてビクビクしていたよ。俺を巻き込むかもしれないから、頻繁に会うのやめようとか、俺を悲しませたくないから、別れようとかずっと言ってた。澪の命は、お前の物なんかじゃない。澪の物だ。澪を返せ。かけがえのない、世界でたった一つしかない命を返せ。」
あぁ、林さんは、愛されているんだな。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
北さんが、泣きながら謝る。この人は何という取り返しのつかないことをしたんだ。
「謝っても罪は償われない。林さんが亡くなったという真実は、変わりないのだから。さあ、立て。警察に行くぞ。13:53。現行犯逮捕。」
涼は、そう言いワッパをかけた。
「おつかれ。鷹司。」
涼は、そう言い残し、去っていった。人間の都合で盗み、人間の都合で殺す。下らない。人間というものは。
雪 ー恐怖のスキー場ー 房成 あやめ @fusanariayame
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