スイリ
僕が、声のする方へ駆けつけると、そこには、K大学スキー同好会と書かれたゼッケンをつけた女性が2人いた。1人は、悲鳴をあげたであろう人。もう一人は、亡くなっていた。とうとう、休暇中に事件が起こってしまった。呆然としたかったが、探偵の本能が先に動いた。急いで脈をとる。しかし、もう、倒れた女性が動くことはなかった。
「ここは殺害現場です。皆さん離れて下さい。」
僕の一言で、周囲の人々が動揺したことが感じられた。
「誰か、新潟県警に通報して下さい。」
やはり、探偵という物は、髪の毛を下敷きで擦った時の髪の毛の行動のように、事件にくっついていくものだ。
30分後、新潟県警が到着し、賑やかになった。
「よう、鷹司。また大変なことになったな。いま休暇中ろ。」
「おう、涼。相変わらずの、訛りだな。」
「しょうがないろ。これでも、努力してんちゃ。」
幼馴染兼新潟県警捜査第1課に所属している源 涼が、話しかけてくる。彼とは、幼稚園の頃からの付き合いだ。小学に上がる頃、涼は新潟に引越ししてしまったが。
現場にいた、悲鳴をあげた女性と野次馬達は取り調べのため、取調室に連れていかれた。ぼくは、警察関係者として、ついて行くことにした。涼が口を開く。
「この度は、警察に協力していただけますことを、深く感謝しております。誠にありがとうござい
ます。この事件を担当させてもらいます、新潟県警捜査第1課 源 涼と申します。こちらは探偵
の鷹司 湊と申します。よろしくお願いします。1人ずつ呼んでいきますので、他の方は待合室で
お待ち下さい。捜査員がご案内します。まずは、三浦菊乃さん。」
悲鳴を上げた女性が呼ばれた。その他の人は、涼の指示通り、待合室と呼ばれる隣の部屋に入っていった。
「三浦さんと、被害者、林澪さんとの関係は、どの様なものでしたか。」
「澪と私は、幼馴染なんです。澪と私以外にもう一人幼馴染がいて、佐々木 楽というのですが、
楽と澪は5年程前から交際していました。私は、それを見るのが辛くて辛くて。」
なるほど。三浦さんは佐々木さんに片想いしてた訳か。この人、可能性あるぞ。動機は、片想いに邪魔だったからていうところかな。
「このスキー場にいる三浦さんと林さんの共通の友達、全ての人を呼べますか。」
「はい。私と澪と楽は、同じ大学で同じ同好会なので、たくさんの人を呼べます。」
「至急、待合室に呼んでください。」
三浦さんが友人を呼んでいる間、別室に移動し、涼に今ある全ての情報を聞いた。
被害者は林 澪さん20歳。遺体発見現場は湖の前の林間コース。リフト降り場からは結構離れている。K大学スキー同好会に所属し、彼女の先輩にあたる北 昴の提案のもとこのM高原に来たのだそうだ。北さんは、出発1週間前に急用が出来て欠席することを公表したが、なぜか、ここにいる。死亡推定時刻は午前7時から午前9時までの間。後頭部に打撲痕が見られ、それが、死因だとされている。林さんの携帯電話はまだ見つかっておらず、捜索中。林さんはスキー履を履いているのにスキー板は付けていなかった。遺体発見時刻は午前10時10分頃。遺体発見者は、三浦 菊乃さん同じく20歳。野次馬達の証言により、遺体発見現場の先に行った人はおらず、その先には、加害者が逃走したとみられる痕跡はなかったという。湖から逃げたという考え方もあるようだが、湖には氷は張っておらず、遺体発見者の三浦 菊乃さんが加害者と考える方が合理的だそう。
「スキー板を付けていなかったということと、林間コースにいたということを照らし合わせると、殺害現場は、遺体発見現場ではなさそうだ。」
僕が口をはさむ。しかし、涼は僕とは違う意見のようだ。
「鷹司、俺たちは三浦さんが加害者と見て、捜査している。動機もあるからな。」
「涼、俺にはわかる。三浦さんは加害者じゃない。もし三浦さんだとしたら、矛盾がある。ま
ず、まだ、リフトが動いていない時間帯にどうやって殺害し、遺体を現場まで持っていったか。
もし、三浦さんの自室で殺害し、カバンに入れて持っていったとしても彼女は、林さんが入るよ
うな大きなカバンは持っていなかった。もし持っていたら、既に、鑑識が見つけているはずだか
らな。」
僕の一言で、涼は黙ってしまった。
リフトが動いていない。そして、遺体が入る程の袋を三浦さんは、持っていなかった。リフトが動く前、遺体を運べる人。それは、あの人しかいないじゃないか。もしかしたら。丁度その時、涼が勢いよく頭を上げた。
「分かった。もしかしたら、リフトの管理人かもしれない。リフトの試運転の時あらかじめ殺害
しておいた遺体を運べるからな。」
「流石だな、涼。俺も同じ事を考えていた。でも、事実かどうかはまだわからんがな。」
コンコン。ドアが開く。
「源警部。三浦さんと林さんの共通の友達が全員集まりました。」
「おおそうか。取り調べを行ってくれ。」
「はい。了解しました。」
入ってきた警部補が敬礼をして出て行く。それを見送り、僕は口を開く。
「ちょっと、散歩に行ってくる。取り調べの結果は、分かり次第メールで送ってくれ。」
取調室に行く、涼をよそ目に、ドアを閉める。
周りの人の目を感じるが、調査のためだ。スキー板を履かずにリフトに乗る。もし、リフトの管理人が加害者だとすればこれもまた、矛盾が生まれる。涼から送られてきたメールを見る。警察は、リフト管理人を加害者として捜査を行っているようだ。友人の欄にはリフトの管理人という文字はなかった。つまり、動機がない。考えを巡らせていると、降り場の100m程前の木の間に違和感を覚えた。
そこに、行く。すると、そこには、何かが落ちた跡がある。スキー板ではないし。スノーボードの板でもない。これは。ハッと息を飲む。人だ。人が落ちた跡がそこにあったのだ。
人が落ちたのなら、血が落ちているはずだ。それなのに、ない。つまり、1度殺害された人が落とされたという事だ。そういえば、林さんの後頭部にも血は付いてなかった。この跡は、林さんのものなのかもしれない。もしそうならば、リフトの管理人は加害者ではなくなり、この近くに林さんの携帯電話が落ちているはずだ。僕は、現場を写真に収め、そこらへんの雪を削ってみた。すると、携帯は見つからなかったが、スノーモービルの跡を見つけた。その跡を、辿ってみる。すると、明らかにスノーモービルの跡からスキー板の跡に変わっているところがある。スノーモービルの跡は急な曲線を描いて降り場の方に上がっている。その跡が曲線に入る前のところから、スノーモービルとは逆の方向にスキー板の跡がある。真犯人が逃走したものか。そこも、写真に収め先程の写真と一緒に涼に送る。そして、林さんの携帯電話を探す。カッ。手が金属に触れる音が鳴った。急いで、そこを掘る。すると、林さんの携帯電話と思われるものが出てきた。携帯を起動させ、履歴にあるひとに電話をかけてみる。
「もしもし。この携帯電話を拾った者ですが、この携帯電話はどなたの物でしょうか。」
「それは、林 澪という者の物です。でも、澪は、」
無人島に放り出され、水源を見つけた時のような感覚に襲われた。相手はまだ喋っているようだが、もう情報は得たのでその声にかぶせる。
「ありがとうございます。お名前を伺ってもよろしいでしょうか。」
「私の名前は佐々木 楽と申します。」
「ありがとうございます。では、失礼します。」
かなり、強引な電話の終わらせ方だと思うが、今はいい。K大スキー同好会といえば、昨日の夕食の時、北っていう人が林さんに言ってたな。メール見たかって。メール。そうか、メールの履歴を見ればいいのだ。北さんと林さんの企み、知りたいなと思ってたのだ。その企みを今から見れるかと思うと心臓が暴れるのであった。履歴を開くと、北さんからのメールが1件だけあった。そこに、書いてあったのは・・・。もう少しで謎が解ける。でも、情報が少ない。よし涼にきこう。そう思った時。プルルルプルルル。僕の電話が鳴った。
「はい、もしもし。鷹司です。」
「鷹司。源さ。今、リフトの乗り場と、ロッチのスタッフに事情聴取してきたちゃ。そんで、今、
ロッチにおる。来い。」
「20分、待ってくれ。今から降りる。」
「了解。じゃあ、切るぞ。」
はぁはぁ。ドックンドクン。息切れと、心臓の音がうるさい。リフト乗り場に着いた時には、600m降り切ったという、マラソンコースを走りきったかのような達成感が得られた。
「どうした鷹司。マラソンでもしたんか。汗凄いぞ。」
僕はただ首を横に振るしかできなかった。
息が整ってきた頃、僕は、涼に聞いた。
「何か、あったのか。」
「よう聞いとけよ。実はな、動機が見つかった。リフトの管理人の。」
「そうか。説明してくれ。」
「その前に、俺は、謎解きをする。」
取調室として使っていた部屋に入ると、三浦さんを含め、K大スキー同好会のゼッケンを着けている人達が沢山いた。シンと静まり帰る中、涼が口を開く。
「皆さん。私のためにお集まりいただきありがとうございます。只今より、今回の事件の謎解き
をします。さて、鷹司。君が送ってきた、2枚の写真がありましたね。どこで撮りましたか。」
涼が二枚の写真を映す。
「リフト降り場から100m程離れた地点です。」
「そこには、どのような跡がありましたか。」
「人が落ちたような跡です。人が落ちたのに血は付いていませんでした。」
「これが実際の写真です。鷹司。君は、この跡を何の跡だと推理しましたか。」
「林さんがリフトから落ちた跡だと、推理しました。 林さんの後頭部にも血は付いていませんで したから。」
「そうです。これは、林さんがリフトから転落したという事故死だったのですよ。しかしまだ、
謎は残されています。何故、リフトの下から、林間コースに移動させたか。という謎です。リフ
トの管理人さんに聞きます。試運転は何時から何時までの間ですか。」
「朝の5:50から6:10までの間です。」
「では、その間にリフトの前を通り過ぎた人に聞きます。いつもとは違う点はありませんでした
か。」
「いつもは、『リフト試運転中です。乗らないで下さい。』という看板が立てられているのに今
日は立てられていませんでした。」
「それでは、K大学スキー同好会の皆さんに聞きます。リフトの試運転の時間、林さんはいました
か。」
「いなかったと思います。」
「これで、全部、情報が揃いました。朝5:55頃、林さんリフトの試運転中に乗車。その後、転
落。リフト管理室から、その様子が見えた。リフト管理人は前科が有り、自分の不注意で林さ
んが転落したので、スキー場のオーナーにバレないように管理人室に遺体を持ち帰る。そして、
死亡推定時刻を出す手がかりである、死斑を操作。そして、スキー場開園前に林間コースに遺体
を置き、リフト管理人室に戻る。こうして、密室は完成したのではないのでしょうか。どうですか、リフトの管理人さん。」
「おっしゃる通りです。リフトの試運転の時、日の出と同じ時に転落してきた女性を他殺に見え
るように工作しました。なにせ、自分は前科があり、更生中なもんですから。」
なるほど。そういう事か。
「 やりますね。源警部。」
「探偵の君に褒めていただけるとは、光栄です。」
「まぁ、面白い推理でした。現実に起こっているかは別でね。」
「鷹司。お前は俺の推理が間違っているというのか。」
「ええ。」
「じゃあ、真実とやらものが分かったのか。」
「こんなもの、探偵の僕には、朝飯前ですよ。あっ、間違えた。昼飯前ですね。」
また沈黙の空気が流れた。なんでだろう。
「さてーーーーーーーー
《次回予告》
『謎解きは、さてから始まるものだ。』なんて、くだらない定義だと思ってたのに、やはり大切だった。僕が、「さて」と言ったら、ほとんどの人が座り直すか、唾を飲み込んでいたもの。やはり定義は、大切だったのだ。
ついに、鷹司 湊が、謎解き。乞うご期待。
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