雪 ー恐怖のスキー場ー

房成 あやめ

ハジマリ


 季節は、春。私たち、M大学スキー同好会のメンバーは、北 昴先輩の提案の元、新潟県南部にあるM高原に、行くことになった。高原出発1週間前になり北先輩は、急用ができ、欠席する事をサークルの飲み会の時言った。 その時、隣に座っていた幼馴染である澪が、安堵の表情をみせた事を覚えている。 その時、私は違和感を覚えた。その違和感が、この不吉な事件の始まりだったとは、この時思いもしなかった。


「やっと、着いた。」

車からおり、僕は伸びをしながらそう呟いた。

空気が、美味い。少し僕の雑談を聞いてもらいたい。この前、「ガムテープがホコリをくっ付ける様に、事件は僕をくっ付けるのだよ。」と友人に言うと、苦笑いされた。でも、それは、事実で、休暇をとった先で、毎回の様に、事件に遭遇するのだ 。今思えば、この休暇も、事件が呼び寄せたのかもしれない。僕のすぐ隣を、大学生であろう人達が、通り過ぎる。

「私、新潟初めてなんだけど。」

僕も初めてです。

「M大スキー同好会って言ってる割には、うち、スキーしないよね。」

それは、企画不足ですね。大学生活は今しかないのだから、後悔のない様に。

会話に心の中で相槌を打ちながら、やりたいことリストを考える。

1、スキー場全コース滑る。2、星峠の棚田を見に行く。3、清津峡を見に行く。4、米を食べる。そしてふと思う。この5日間の休暇から帰ると、大会前の相撲とりの様に体重が増え、そうなるのは、この休暇の所為なのではないのかと。雪がちらちらと舞う中、ロッチに入り、チェックインし、部屋の鍵をもらう。ホテルに泊まるのは、初めてではないはずなのに、長期休暇というものが初めてだという所為か、ウキウキした。荷物を部屋に置き、一眠りしようかと思ったが、せっかくなので、一滑りしようと思い、鍵をかけた。

スキーセットをレンタルしリフトに乗る。まずは、中級のところでリフトを降り、滑る。久々にスキーをする所為か、何度も転ぶ。容赦なく5歳ほどの男の子が叫ぶ。

「あのおにーちゃん、スキー下手だね。」

下手だという矢が、心に刺さる。おにーちゃんと呼ばれただけ、心の救いか。と、感じながら

立ち上がり、滑り出す。案の定、又転び、クスクス笑われる。長針が、2週ほど回る頃、やっと、はじめ乗ったリフトの側まで戻ってこられた。時計を、振り返ると、もう5時。2時間経った事を、改めて実感した。もうすぐ、夕食が出る頃か。今日は疲れた。帰ろ。

ロッチに帰り、スキーウェアから背広に着替える。広間に出ると、笹のいい匂いがした。ロッチのシェフに聞いてみる。

「この笹の匂いは何ですか?」

「新潟の郷土料理、笹団子さ。」

笹団子。初めて聞いた。知らない土地に来るのは、新発見だらけでいいな。グゥー。おっと、そろそろ腹の虫に餌を与えないと。そう思いながら、必ず、笹団子を食べる事を決めた。

《予約席・鷹司湊様》そう書かれたプレートが置かれている座敷に座る。もともと、食べる物が決められている様だ。あられを浮かべた温かいお茶が出てきた。映えるな。基本的に流行り

に乗らない僕だが、映える事はわかる。あられに見とれてると、次々と 料理が運ばれて来た。

どれから手をつけるか迷っていると、今朝、隣にいた、スキーサークルの子たちがいた。会話に耳を傾けてみる。

「あれれ〜、北先輩なんでいるんですか?先週、欠席するって言ってたじゃないですか。」

「急用がなくなって、これるようになったんだよ。それより、林、メール見たか?明日の朝、リフトの前に来いよ。」

この時、林という人物の表情が一瞬強張った様に見えた。が、すぐに笑顔になり「はい」と答えた。

「何何?何二人で企んでるの?」

「秘密だよ。」

僕としても、その企みを探りたかったが、その二人はもうそれから、一言も話さなかった。まるで、赤の他人だと言わんばかりに。

目を開ける。都会とは違う澄み切った空気。新潟に来たのは昨日なのに、随分前に感じられる。午前9時。いつもの僕と比べると、よく眠ることができた。ベットから起き上がり、伸びをする。新潟の澄み切った空気で肺が、満たされた。部屋着から背広に着替える。そして、広間に出る。広間に続くドアを開けた途端、米が炊き上がる、いい匂いがした。昨日と同様、自分の名前が書かれているテーブルに座り朝食を食べる。米の艶が美しい。僕の肌も、こんな艶があったらいいのに。あいにく僕は、20代後半にも差し掛かるのに、恋人一ついないのだ。ああ、学生に戻りたい。そんな事を、考えながら、米を味わう。甘いな。さすが、新潟。雪解けの水が栄養豊富なだけある。

「ロッチにいらっしゃる皆さん、おはようございます。」

おはようございます。

「午前10時より、スキー場が開園します。本日も最後までお楽しみ下さい。」

ありがとうございます。楽しんでいます。お気遣いありがとう。

放送にも相槌を打つ。我ながら、自分は変人だと思う。よく、友人に、比喩がわかりにくいとか、人の会話に、心の中で相槌打つなとか言われる。直さないと、彼女、できないのかなと、疑問に思う。もし、このまま、結婚できずに晩年を迎えてしまったらどうしよう。だめだ。長期休暇を取ったのに、些細な事で、真っ暗なトンネルに入ってしまった。僕は、美味い飯を無我夢中で食う事で、そのトンネルを抜けだした。

せっかくの、美味い飯の味が思う存分楽しめなかった。そう思いながら、スキーウェアに着替える。午前9時45分。外に出たらいい具合に、始められる。バタン。部屋のドアを閉め、鍵を持っているか確認する。ちゃんと、ある。1度、部屋に鍵を置いたまま出かけてしまい、 赤っ恥をかいた思い出があるのだ。鍵をかけ、スキーセットをレンタルしに行く。

ピンポンパンポン。「午前10時になりました。思う存分スキーを満喫してください。」

又々、放送が流れる。さて、行くか。そう思い、ロッチを出る。M大スキー同好会と書かれたゼッケンが見える。ゴーグル越しに見えるみんなの顔は、今朝見た白米の様にキラキラと輝いている。雪が降って来たので、林間コースを滑ろうと思い、そこに続くリフトに乗る。今日は転びません様にと願いながら立ち上がる。おぉ、今日調子いいかも。そう思ったのは序盤だけで、案の定、2m程進むと転んだ。その時だ。「キャー」かん高い女性の悲鳴が聞こえた。



《次回予告》

 急いで声の聞こえた方へ滑とそこには・・・。M大スキー同好会のゼッケンを着た女性が2人いた。立っている女性は、声を上げたであろう人。もう一人は・・・


ついに、起こってしまった事件。鷹司 湊はこの事件をどう解決するのか。


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