第2話 第一異世界人発見
見渡す限り緑しかない森の中を、手探りで進む。ずっと似たような景色のせいで、方角も、本当に前に進んでいるのかすらも解らない。
辺りは鳥の声一つしなくて、聞こえるのは私の足音と、時折吹く風が木の葉を揺らす音だけだ。その事がより一層、私の孤独感を増幅させる。
誰でもいい。誰か人に会いたい。この際意志疎通さえ出来れば文句は言わないから誰か――!
――ガサッ。
「!!」
そんな私の祈りが届いたのか。不意に奥の方で、草木の大きく揺れる音がした。
しかも音は複数する。相手は一人じゃないらしい。助かった!
そうして、期待に胸を膨らませる私の前に現れたのは。
「……ウ、サギ?」
それは、中世の騎士のような金属製の鎧を身に纏った二足歩行のウサギだった。
「いや、それにしても大変でしたね。記憶をなくされてしまうとは」
「は、はは……」
ピーターと名乗ったウサギ達のリーダーが、私を見てしみじみと言う。私はそれに、乾いた笑いを返す事しか出来なかった。
今私はウサギの騎士団と一緒に、彼らの国だというトラッビ王国を目指して森を進んでいる。彼らは演習の為に、この森を訪れたらしい。
彼らに何者かと問われて、咄嗟に私は「名前以外は覚えてない」と返した。幸運にも彼らはそれを信じてくれたようで、保護という形で一緒にトラッビ王国へと戻る事になったのだ。
……うん、前段階が雑すぎて今まで気付かなかったけど、これっていわゆるアレなんだと思う。『異世界転移』。
私自身はそんなに漫画やアニメは見ないんだけど、友達がいわゆる異世界ものという奴が大好きで、よく付き合いで見させられていたからある程度の知識はある。普通に暮らしていた現代の人間が死んでだったり生きたままだったり、とにかくある日突然異世界で暮らす事になってしまうアレだ。
で、確か、異世界に行くとそれまでは持ってなかった便利な能力がオプションとして貰えたりするんだけど……。そんな場面、私にはなかった……よね?
……現実はそう甘くないって事ね。私はひっそりと嘆息した。
「すぐに我々が保護出来て良かった。女性一人、それもあなたのようなお美しい人ならなおの事人里を離れては危険ですから」
「え?」
これからどうしようかとグルグルと考えていた私に、ピーターがそんな事を言う。思わず聞き返すと、言った当の本人であるピーターがハッとしたようにかぶりを振った。
「も、申し訳ありません! 私とした事が、たった今お会いしたばかりの女性にこのような事を……」
「は、はあ……」
何て反応していいか解らず、私はとりあえず笑顔を作る。……美しいという言葉もまあ、今まで生きてきて一度も言われた事ないからアレなんだけど、問題はピーターの見た目だ。
さっきからウサギ、ウサギと言ってるピーター含めたこの騎士団、本当にデフォルメとか一切ないウサギそのものなのだ。服の代わりに鎧を着せて、人間サイズにしたシル○ニアファミ○ーと言えば理解して貰えるだろうか。
確かに私は動物好きだけど……。ガチ動物に口説かれてときめく程性癖ねじ曲がってはない!
……あ、もしお腹もふらせてくれたら別の意味ではときめくかもしれない……。
「団長ー。幾ら相手が別嬪さんだからって仕事中に口説くのはナシですよ?」
「そうですよ! 俺らだってカナデさんとお近付きになりたいんですから抜け駆け禁止!」
「い、いやっ、私はそんなつもりは……」
すると他の騎士達も、やいのやいのと騒ぎ立て始める。あれ、これって私モテてる……?
元の世界でなんて、男子にも女子にもビビられた記憶しかないのに。ここは異世界だから、美的感覚も違うって事なのかな。
まあシル○ニアファミ○ーに幾らモテても戸惑いしかないけど……。
「見えてきました! あれが我々ギウサ族の住むトラッビ王国です!」
不意に、先頭を歩いていた騎士が声を上げる。いつの間にか、森を抜けていたらしい。
そこに見えたのは……。
「……すっごーい!」
思わず、感嘆の言葉が口から出る。目の前に現れたのは、中央に立派なお城の建った大きな城下町だった。
こんなの元の世界じゃ、ヨーロッパにだってあるか怪しい。やっぱりここ、ホントに異世界なんだ……。
「まずは女王に謁見して貰います。大丈夫、我らがミルフィー女王はお優しい方ですから悪いようにはなりませんよ」
「う、うん」
「では行きましょう」
私はピーター達と共に、お城へと向かう。これからどうなるのかな……?
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