異世界の住人達にモテモテ過ぎて困ります。
由希
第1話 始まりは白い部屋
気が付くと、私は真っ白な部屋の中にいた。
……は? いやいやいや訳が解らない。さっきまで私、普通に授業を受けていた筈だったんだけど。
目の前にはテーブルと、その上に置かれたスマホ。スマホは私の持ってる色じゃなく、機種もどうやら違っていた。
とりあえず、スマホの電源を入れてみる。するとテキストボックスと共に、こんな文字が表示された。
『好きな願いを送信して下さい。扉が開きます』
訳が解らない。部屋を見回せば正面に確かに、大きなお屋敷にでもあるような古めかしい大きな扉が一つ設置されていた。
……待って、落ち着こう。落ち着こう、私。こういう時は、まずは持ち物の確認からよ。
私の持ち物。着ている高校の制服。胸ポケットにリップとミラー、スカートのポケットにハンカチとティッシュ。以上。
……うん、役に立ちそうなものが一つもない! 授業中はスマホはバッグに入れてるから……まずったわ……。
じゃあ、このスマホで一一〇番出来ないかと弄ってみるけど……駄目だ。何やっても画面が変わらない。
となれば。後は……これしかないよね?
「……よし」
私は、扉の数歩手前に移動した。そして……ダッシュして思いっきり体当たり!
それを何度も繰り返す! 扉は……うん! 微動だにしない!
……駄目だ。万策尽きたわ。これ。私はその場にへたり込んだ。
そもそも本当に、何でこんな事になったの? 私は本当にただ、普通に授業を受けていただけだったのに。
夢なら早く覚めて欲しい。当たり前の日常に戻りたい。
「……」
チラリと、テーブルの上に置かれたままのスマホに目を遣る。メチャクチャ怪しいけど……あのスマホを用意した誰かの言う通りにしないといけないって事かな。
今の願いと言えば、ここから出たい以外にない。けど……。
「好きな願い……か」
立ち上がり、テーブルに戻ってスマホを手に取る。そして少し考えてから、こう入力した。
『どんな動物にも好かれるようになりたい』
そう。私こと
昔から身長が高くて威圧感を与えやすいせいか、それともこのあまり良くない目付きが悪いのか……。とにかく生まれてこのかた、動物というものに好かれた試しが一度もない。
けど! それでも私は動物が大好きなの! 一度でいいから動物にモテまくってみたいの!
抱っこしてスリスリしたい! 肉球を思う存分プニプニしたい! フカフカのお腹に顔をうずめたい~~!!
……ハッ。いけない、ちょっと興奮し過ぎた。
とにかく。ここは「ここから出たい」って入力するのが最適解なのかもしれないけどいいじゃない、自分に正直になってみたって!
という訳で送信。さて、どうなるか……。
「!!」
何かが軋む音に私は顔を上げる。すると、どれだけ体当たりしてもびくともしなかった扉が、自動的にゆっくりと開いていくのが見えた。
やっぱり願いは何でも良かったらしい。そして、目の前に広がった景色は――。
見渡す限り、一面の深い森だった。
……はい? この狭い部屋の外が、いきなり屋外? しかも森?
ちょっと待って、立地どうなってるのこれ。おかしくない? これおかしくない?
「……とはいえ、ずっとここに閉じ籠ってても何にもならないよね……」
躊躇いはあるけど、この部屋にずっといるのと外に出るの、どっちがマシかって言われたらやっぱり外だと思う。この部屋食べ物一つないし。
意を決して、扉の外に出る。その直後、扉と部屋はスウ、とその場から消えてしまった。
「……もう……何なのよ、これ……」
訳の解らない事の連続に最早考える事を放棄した私は、一つ溜息を吐くと森の中を当てもなく歩き出した。せめて誰か、人に会えるといいけど……。
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