第33話 強さを求めて

 魔族の村を決めたその翌日から、トマスとジルドルに魔力の制御の仕方を教えてほしいと頼み込んだ。

 本気で村を守るつもりなら、この間のような感情の暴走で全てを燃やし尽くすような真似はできない。今回は、俺一人だけ戦っても村を危険にさらしてしまえば一緒だ。当然のごとく、他の村人達との協力体制が必要不可欠なものになってくる。

 魔力をよく知り、魔法に精通した彼らなら、現在の不安定な俺の魔法のコントロールをする糸口をつかめるのではないかと考えたのだ。


 最初は俺の提案に難色を示した二人だったが、自分でもしつこいと思うぐらい頼み込んで彼らの了承を得ることができた。

 兵士達を村の者達が監視しているらしく、今は野営地を作り村の場所を探索しているそうだ。

 リアヌの村が被害にあった以上、いつかはこの村を見つかる可能性がある。それまでに、何としても魔法を操れるようにならなければいけない。


 かくして、ルキフィアロードを操る為の特訓が始まった。



                 ※



 ジルドルに連れられて向かった先は、学校のグラウンドほどの大きさはある村の近くの湖だった。色は濃い紫なのに、はっきりと底の様子まで見えるので、自然発生的な液体とはとても思えなかった。

 試しに触れてみようと手を伸ばしてみる――。


 「――まだ触るな!」


 ジルドルの大きな声を聞き寸前で伸びた手が急停止する。

 湖に触れようと屈んだ姿勢のままで、近寄って来るジルドルを見上げた。


 「好奇心旺盛なのも大概にしろ。村の者を下手なことでは触らない純度の高い魔力を持った水だ、何が起こるか分からないんだぞ」


 「そういうことは、早く言ってくれ。で……この湖は、俺とどういう関係があるんだ」


 「この湖の水を摂取してもらう」


 右手を広げて湖を指し示すジルドルの顔と湖を交互に見る。もしかして、聞き間違いかと思って問いかけた。


 「今さっき、注意されたばかり水を飲ませるのか?」


 「当然そのまま飲ませるつもりはない。うまく取り込むことができれば、強い力を手に入れるかもしれないが大きな危険が伴う。常人程度の魔力しか持たない人間なら、強引な魔力摂取により自我を失い肉体は崩壊することだろう」


 「そんな物騒な物を俺に飲ませてどうしようってんだよ」


 「タスクは俺達に自分の体内に宿る魔力が、うまく制御ができないと言ったな」


 ジルドル達には、ルキフィアロードの力で他者の命や絆を喰らいながら力を手に入れたことは黙っている。なので、二人にはとある事情で本来は自分の物ではない、他者の魔力を宿していると説明した。訳ありだというのは、二人はとっくに見抜いていたようで、事情だけを聞き掘り下げるような真似はしなかった。

 二人の心遣いに感謝しつつ事実なので、そうだ、と肯定する。


 「ここの魔力の湖から、タスクの魔力を制御する為の魔導具を作るつもりだ。もちろん、魔導具を作った後はうまく使いこなす為の練習が必要にはなるが」


 「何となくは分かったが、魔導具を作ることとこの湖の水を飲むことは関係あるのか」


 「ああ、ここの水を飲むことで、タスクにとって本当に必要な魔導具がどんな物になるか見極める。魔力を制御する魔導具というのは、本来なら生まれついてすぐに作る準備をしないと自分に合った物を作れない。下手な物を作ってしまえば、体が拒否反応を起こしてしまう」


 疑問を挟む前に、なので、ジルドルは言葉を続けた。


 「透明な水は、他の液体が混ざれば濁るだろ? この湖の水は不純物の一切ない純粋たる魔力が満ちている。タスクが己の体内に摂取した水が、どのような変化を見せるかを確認し、さらにはその変化した水を元に魔導具を作る」


 かなりざっくり言ってしまえば、昔化学の実験でやったようなリトマス紙に俺がなるということか。そして、そのリトマス紙を確認するだけなく、魔導具を作り出す部品の一部にする、と。


 「待てよ、覚悟はしてきたが……水を飲んで吐けばいいのか。吐しゃ物で何か作るれるのか?」


 怪訝そうにする俺を尻目に、ジルドルは湖の前に屈むと伸ばした両手の先から魔法陣を発生させた。


 「それで済めば、まだ良い話だろうな。……――」


 小さな声で聞き覚えの無い、恐らく魔族の言葉のだろう。宙に浮いていた魔法陣は、湖に吸い込まれると十数センチの水面に微弱な波紋を起こす。広い湖の十数センチの部分だけ激しく振動するのは、端から見ていても不思議な光景だった。


 「準備はできているか? 言い忘れていたが、飲む必要はない」


 屈んだままのジルドルはこちらを見ながら言い、一度ジルドルの方を見てから水面に視線を戻すと、振動は収束し代わりに水面の上の空間にバスケットボールぐらいの大きさの水の球が浮かんでいた。

 水の球からは強い魔力は感じられない、いやそれどころか、魔力の動きらしい動きは”視えない”。


 「この魔力の水の球をお前の体内に送り込む。すると、お前は自分の体内から同じような魔力の塊を生み出すはずだ」


 「あー……やっぱり、吐くのか?」


 「吐くかもしれんし、同じような水の球を発生させるかもしれない、強い魔力と創造力を持っているなら自分で魔導具を作り出すような珍しい結果を生むことだってある」


 「やってみなければ、分からないってことだな。……一応聞いておくけど、痛いのか?」


 水の球を宙に浮いた風船を押すように軽い動作で、ジルドルはぽんっと押した。水の球は、ゆっくりと浮遊しつつ俺に向かう。


 「純粋たる魔力の水とはいえ、タスクは魔族ではない。種を超えた恩恵を受け入れるなんて、常人ならばあり得ないことだ。つまり、どういうことかというと――痛いぞ、かなり。心してかかれ」


 俺が溜め息を吐いた直後、水の球は胸の間に吸い込まれていった。

 

 「――があぁっ!?」


 直後、落雷に打たれたような激痛が全身を駆け巡った。  

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