第2話 風呂掃除編〜準備〜
ここまでのあらすじ。
デザイナー大志万迅は、無人のはずの自宅で魔法使いと名乗る少年少女に囲まれて混乱を極めていた。
果たして彼らの目的とは一体!?
映画予告風にまとめてみたけれど、話の畳めなさが際立つだけだった。
いやいやいや、そうではなく。
2話に引き続いて正座を強要させられている僕である。
「いい?このままじゃあ腰を落ち着けることもままならないわ」
涼しげな目元の少女は、腰に手を当ててえらく大人めいた口調でそう言った。
「役割分担を決めましょう?晩御飯担当は私とほまれね」
「はーい!任せて下さい!」
ふわふわツインテちゃんもとい、ほまれちゃんが花丸満点のお返事をする。なんて素直で純朴な少女なのだ。お兄さんは君がそのまま毒されることなく、すくすく育ってくれることを心の底から祈っているよ。
「わだち、ともる、のりと。あなたたち3人はこの家主さんと一緒にお風呂掃除ね。今晩ちゃんとお風呂に浸かりたいでしょう?」
「・・・」
「はーい」
「わかったよ」
ヒョロっと背の高い、まだ一度も声が聞けていない彼はわだちくんというらしい。微かに首が縦に動いたような気がするので、承諾はしているんだと思う。絆創膏くんの名前は兎も角、こっちのメガネくんはのりとくんと言うのか。
「はい、じゃあ各自持ち場についたついた」
指示出しに長けた少女がパンっと手を鳴らすと、少年少女が2方向へと別れていく。彼女が実質のリーダーという奴なのだろうか。
僕は確かお風呂掃除組に割り振られていたはずなので、メガネくんもとい、のりとくんの後ろを付いて行こうと立ち上がった。
「あ、お兄さん、風呂場ってどこー?」
「えっとリビングを出て左側の扉の奥」
「家主さん」
絆創膏くんに返事をしていると、服の袖をクンッと引っ張られる感覚と共に名前を呼ばれて、僕はゆっくり振り返る。涼しげな目元の少女が、少し躊躇うような顔をして僕を見上げていた。
ええっと、小さい子と話すときは、同じ目線の方が威圧感を与えずに済むんだったっけ。
何かで読んだ知識をふと思い出し、僕はまたその場にしゃがみ込む。
「な、何かな?」
「私とほまれは晩御飯担当なんだけれど、お金がなかったら何もできないわ。それに私たち残念ながらお金をあまり持っていないの」
あ、結構ストレートにお金をせびられている。
しかもこの子、分かりやすい愛想笑いまでプラスしている。自分の可愛さと魅力って奴を完全にわかっているタイプの人間だ。
「ええっと」
「初対面の相手にお金を渡すのって抵抗あるよね。でもこっちは男子3人をあなたに差し出してる状態なんだから、お金を持ち逃げしたり、なんてことはしないわ」
あぁ、だから役割分担なのか。
いやきっと、本当に手分けしないといけない状態だからっていうのはあるんだろうけれど。さらっと男子を人質、というか生贄に差し出す辺り末が恐ろしくなる少女だ。
「たからちゃーん、まだー?」
彼女の到着が遅いことに焦れたらしいほまれちゃんが、キッチンからひょっこり顔を出す。この涼しげな目元の少女はたからちゃんと言うのか。
「今行くわ」
たからちゃんがそう返しながら、また僕に向かって「ね?」と笑顔を見せる。
これは何を言っても引いてはくれない時のやつだ。この強引さには、どこかで覚えがあるような気がした。
僕はしぶしぶ財布を取り出して彼女の手にあるだけの千円札を乗せる。恐らく3枚くらい。
「ありがとう、家主さん」
軽くお辞儀をしたたからちゃんは、ほまれちゃんが待つキッチンへ駆けていく。その後ろ姿を見守りながら、僕はようやく自分の持ち場である風呂場を目指した。
「覚悟はしてたけど、やっぱりどこもかしくもバッチイな。カビっぽいし水垢も酷い」
風呂場に入った僕に、無邪気な顔で絆創膏くんが笑いかける。笑っていても失礼なものは失礼である。というか具体的に汚いポイントを挙げないでくれ。普通に凹むから。
「とりあえず必要な掃除用具の確認からするか〜」
「そうだね。お兄さん、洗剤とかってありますか?」
のりとくんに声を掛けられて、洗面台の下の収納スペースを開けてみる。
「多分、この辺りだと思うけど」
「ふむふむ」
言いつつ覗き込む絆創膏くんとのりとくんを後ろから見守っていると、絆創膏くんが有り得ないものでも見るかのような目で僕を振り返った。
「え、え、何かな・・・」
「アンタ、相当掃除が出来ない奴なんだろ」
いやまぁそうだけど。何、掃除用具見ただけでそこまで確信を持って僕を糾弾できるというのか。
「使い道が被ってたりするような洗剤が山になってるじゃん。自分ん家の汚れをちゃんと見ないで、テキトーに買ったのがバレバレ」
うっ。
確かに、あまりの汚さに年に数回掃除をしようと意気込んで、洗剤を買い込んでしまうところが実はあったりなかったり。
「洗剤屋でも開くのかよ」
おお。出会って初めて絆創膏くんが小学生らしい少し可愛い発言をした。
とはいえやっぱり内容は可愛くないというか、失礼なんだけれど。
「お兄さん、ここにある洗剤は捨てましょう」
それまで静かに洗剤の山を切り崩していたのりとくんが、にこやかに笑いかける。え、何か怒ってるんじゃない?この子?
「怒ってはいないです。ただ、ここまでとは思っていなかったのが正直です」
それを怒っていると言うのでは。
僕が小学生の怒りにたじろいでいる隙に、ヒョロっとくんもとい、わだちくんが何処から取り出したのかわからないダンボール箱をのりとくんに渡す。
「こんな沢山中身が残っている埃かぶった洗剤なんて、お兄さん一生かかっても絶対使いませんから。ただお金をゴミ箱に捨ててるようなもんですよ。信じられません」
言いながらダンボール箱に洗剤を並べ始めるのりとくん。あぁ、あれは簡易的な捨てるボックスなのか。
カビ取り用洗剤以外のボトルを全部捨てるボックスに詰めたのりとくんに、わだちくんが今度は小さなメモとボールペンを手渡す。そこに何かを書いたのりとくんは、勢いよく立ち上がった。
「それじゃあ、今から買い出しに行きましょうか。お兄さん」
目が燃えてるんですけど。
というかのりとくん、キャラ変わってない?
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