ep1-3

 今日の天気はなんだったか。そういえば天気予報を見るの忘れてた。

 ポケットからスマホを取り出すと天気アプリを開く。降水確率40%、曇り。どうやら乾燥注意報も出ているらしい。


 荷物を持ち家の外に出ると、中とは打って変わって空気が冷たい。

 マフラーに顔をうずめると、いつもの通り冬華の家へと向かう。


 道中、ふと思い至った事がある。

 僕はなんて情けないのかと。この状態をずっと続けるのだろうかと。


 考えているうち、気づけばまた冬華の部屋の前へ来ていた。

 扉を開けばそこは異世界。その真ん中でぽつりと佇むのは一人の少女だった。


「おや、だらしない英雄さんの凱旋ですかね?」


 言いながらこちらに振り向くのは冬華だ。

 英雄。その言葉にふと何かひっかかりを覚える。確かにこの世界で僕は英雄だ。

でも、本当に僕が英雄でいいのだろうか。


 英雄なんていう存在は僕みたいな小心者ではなくもっと大きな心を持ったような存在のはずだ。僕がそんな大それた役職に相応しいとは思えないのだ。


「僕が本当に英雄でいいのかな」


 言葉にするつもりはなかったのに、口が勝手にそう動いていた。


「急にどうしたんですか?」

「え、ああいやなんとなく、というか……」


 言い訳すら思いつかず、ついしどろもどろな返事になってしまう。

 しばらく心地の悪い沈黙が訪れると、それを破ったのは冬華の一声だった。


「先輩は英雄ですよ」


 何か大事な物をいつくしむような声音で冬華は言葉を紡ぎ出す。


「確かに先輩は駄目な所もありますよ。なんか抜けてますし、全然頼りないですし、あと鈍感です。他にも欠点を上げればきりが無いと思います」


 でも、と冬華は続ける。


「私にとって先輩は紛れもない英雄でした。いつも恥ずかしがりますけど、なんだかんだ分け隔てなく接してくれますし、私がどれだけ遅く進もうと必ずそこで待ってくれる。それだけで私がどれだけ救われたか、先輩は分かってないみたいですね」


 言い終えると、冬華は少し頬を赤らめバツが悪そうにする。


「なんて、私急に何言ってるんでしょうね。それもこれも先輩がしゃんとしないから悪いんですよ!」


 もう、と言って冬華はふいと顔を逸らす。


「冬華……」

「なんですか?」

「ありがとう」


 何の衒いも無く、ただ純粋にそう思った。

 僕は駄目な人間だ。臆病で、卑怯で、自分の都合の悪い物事から逃げようとするような、そんな人間だ。


 にも関わらず冬華は僕の事を英雄と言ってくれた。こんなひどい人間に対してだ。

 そんな言葉を言ってもらえて申し訳なかった。でも同時に、嬉しかった。自分ですら大嫌いな自分を肯定してもらえた、それだけの事で。


 きっと僕は単純な人間なのだろう。冬華の言う通り欠落だらけの人間でもあるのだろう。


 それでも確かに認めてくれる人がここにいるというのなら、これ以上停滞しているわけにはいかない。

 だから僕は、僕の犯した罪を洗いざらい吐き出そうと思う。

 これまで、心の狭間に隠していた過去の終着点を。

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