ep2-2
相変わらず面白くない六限目。まぁ金曜日だし、これが終われば二日休めるからそれまでの苦行だと思おう。
にしても、今日は早く起きすぎたからかな、すごく眠い。
それにストーブのせいだろうか、どうにも頭が重くてならない。一酸化中毒でこの教室の人全員倒れるんじゃないだろうか……。
嫌いな数学の時間に辟易していると、ふと机がざらざらとしているのに気づく。
何かとざらざらをつまんでみれば、どうやら正体は砂らしかった。
同時に先ほどよりも比にならないほど身体がほてり始めてくる。
何事かと周囲に目を向けると、いつの間にか教室中に砂がこびりついていた。その砂の数々はどんどん増えていくと、瞬く間に砂の海を形成する。
前の席には気付けばサボテン。その一つに気づけば次々と周りに別のサボテンが現れる。
ここは砂漠か。
前を見れば陽炎の影響かラクダのような生き物が行ったり来たりしながら揺れていた。その向こうには緑の自然が生い茂っている。きっとあそこにはオアシスがあるのだろう。
暑さに耐えかねてオアシスの方へ手を伸ばした時――チャイムの音が鳴った。
同時に砂漠は姿を消すと、目の前にはいつも見慣れた教室が広がっている。数学の先生が丁度外に出る所だった。
どうやら夢を見ていたらしい。
一つ欠伸をすれば担任が入って来る。ようやく部活の時間だ。
帰りのHRを終え、いつもの様に友達と挨拶をかわし教室を出る。
だが先ほど夢を見ていたせいだろうか、とにかくトイレに行きたくなったので寄る事にした。どうせ彼女は遅れてやって来るのだから。
部室に行くまでの道ならば、四階の端っこにあるトイレが一番部室に近いだろうか。いつも使っている階段とは違う、教室のすぐ近くにある階段を疲弊しながも登り切る。
すぐそこにあるトイレへ行くべく、廊下を右へ曲がると、沈みつつある太陽の光が直に窓から差し込んだ。
「ねぇ、なんとか言ったらどうなの?」
「でも……」
誰かの話す声が聞こえる。
同時に、景色が百八十度回転する。光であったものは影に、影であったものは光となった。全てが反対で歪な世界。僕はそこから逃げるように身を翻し元来た道を戻った。
遠回りして部室に向かうと、ヒーターに電源を入れパイプ椅子に座る。しかしその際、肘が机にある本の束にぶつかってしまった
バサバサと崩れ去る本の一部は、床に落ちて軽く埃を巻き上げる。
はぁ、ほんと僕ってダメ人間だな。
自己嫌悪に苛まれながら本を拾い集める。その中に太宰治の人間失格もあった。
タイトルの四文字に苦い笑みがこみ上げてくる。共感なんて得られる余地も無い作品だったけど、案外同族嫌悪にも似たものなのかもしれない。
本を拾い終えると、寂々とした空気がまた戻ってくる。
今日は何をしようか、そんな事を考えていると、もう五時を過ぎていることに気づく。
今日はいつにもまして遅い。
一度時間が気になれば何度も時計を見てしまう。早く、早く進めと念じれば、時計の針は何故か後退する。のろのろと進む時間に気をもんでいると、六時を回りそうな頃ようやく部室の扉が開いた。
冬華だった。
冬華は僕の姿を確認すると、どこかホッとしたような、気まずそうな笑みを浮かべる。
「すみません、ちょっと色々と山積みで遅くなっちゃいました」
部室に入ってくる冬華は急いできたのだろうか、ブレザーのリボンは傾きシャツのボタンも一つ外れている。髪型も少し枝毛が跳ね、全体的に乱れていた。
冬華は椅子に腰かけると、自分の姿に気づいていたのかどこか急ぎ気味に服装を正し、カバンからブラシを取り出し自分の髪の毛をとく。
何も言えないままその様子を見ていると、不意に冬華がこちらに向き直るので咄嗟に目を逸らす。
「さぁ、いつものをやりましょう明久先輩!」
冬華は従来の変わらない弾むような明るいテンションで言う。
その眩しい姿に、僕はまた目を背けてしまっていた。
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