第4話 テスト
「ヒロ、早速だけど、あなたは私の作品を読んでいてどう思った。」
エリカは俺の目を見据えて尋ねる。彼女に下手なお世辞は通じそうにない。
「王道のなろう系だけれど、純文学的な描写も多かったように思うな。主人公を貴族の騎士という設定にしてメイドや恋人がいるというのは良かった。あと女騎士やエルフの女の子も巨乳で魅力的だった。」
俺は思ったままを答えた。キャラクターも表現も抜群だった。嘘も偽りもない。
「なるほど、消費豚(ブタ)視点の感想ありがとう。で、あらすじは大体上がっているわけ。これにそってあなたが書いてくれればいい。私にとってはなろう系はゴミだから売れても売れなくても構わない。でもあのビッチ編集者のレイコがうるさくてね。」
先生もレイコさんのことを嫌いらしい。彼女たちを繋げるのは純粋な損得。レイコは出世を。先生はコネと貸しを作っておきたいだけらしい。ここまでくるとすがすがしい。そして売れないラノベ作家の俺はこの二人の思惑に巻き込まれた形になる。
「私のラノベの設定は頭に入っている?」
彼女のラノベは、ほぼ覚えていた。設定も頭に入っている。
「あのゴミの小説か。ああいうのを読むのはクラスに友達がいなくて彼女もいない陰キャと相場が決まってる。」
それを聞いた彼女は酷く感動したようで、僕に抱き着き目を眺めてきた。彼女の美しい瞳には僕の顔が鏡のように映っている。
「ねえ、ヒロなんであんな内容のないギャグと現実逃避のラノベばかりになってしまったのかしら。」
「現実はつまらないからね。モテるやつはとことんモテて、多くの男は売れ残る。売れ残った男たちの生末がなろう系だったんじゃないかな。」
「もっとききたい。」
エリカは俺の膝に座り好奇心を露にして、俺を見る。一体どう答えたものか。
「つまり、男は本能的にモテたいんだ。何人もの美女を侍らせたい。けれどそれにはよほどの才能が無いといけない。僕みたいな凡庸な人間は特にね。」
部屋のドアがあく。そこに入ってきたのはハーフパンツの姉ミドリだった。
「あーら二人はもう仲良しさん?」
「ヒロだっけ?妹の力になってあげてね。今日は泊っていって構わないから。両親仕事で日本にいないの。」
「お姉さんはサッカーしてます?大学のフットボールクラブの鞄が見えたんですけど。」
「へえ君よく見てるね。私、大学の女子サッカーのエースなの。年齢制限の代表なんだよ。これでも。」
サッカーの上手い姉がいるとはレイコさんから聞いていたが、そこまで高いレベルだったのか。
「つまり日本代表?撫子ジャパン?」
「今は代表見習いって感じかな。トップチームはレベル高いからね。」
彼女の適度に鍛えられた太ももに目が逝ってしまう。運動していない女子とは違う、健康的で機能的な脚。男の気を引くというよりも、サッカーをするのに特化した筋肉質な脚。それでいて美しい。
「君エッチだね。私の足ばかり見て。脚フェチなのかな?」
ミドリは勘が鋭い。いや俺が露骨に見すぎたのか…‥。
「みっみてませんよ。」
「ひょっとして童貞?別に見たいなら見ていいよ。私はいいけど、妹はJKだから手出さないでね♡」
「まだ社会的に死にたくないです。」
俺は彼女のプロットを読み、それに沿ってストーリーを書き始めた。今回は冒険に行く主人公(もとインキャだが転生でハイスペックになった。)が最後のバカンスにと避暑地の高原の湖に遊びに行くところだ。
つまり、ラノベにお約束の水着回というやつだ。ベタと言えばベタな気もするが。
「先生。水着回を序盤に持ってくるのはベタ過ぎません?俺は嫌いではないですが。」
「私だってしたくないわよ。けどレイコがね。ファンをつかむために水着を入れろというから無理やり入れてやったの。」
「レイコさんのアイディアか」
「私たちクリエイターの仕事はね。社会に問いを投げること。でも、今の私は給食のおばさんね。消費豚つまり豚が餌を求めるなら与える。それだけなの。」
「ファンを豚とか言うなよ。」
「彼らは社会へのアンチテーゼもルサンチマンさえ求めていない。ジャンクフードみたいなエロとギャグ。ジャンクな餌。だから私はそれをあたえるの。豚はジャンクで十分よ。ヒロには、そこを勘違いしないでほしいの。」
「あなたがジャンクなラノベを書く間、私は次にレイコに見せる小説を書くから。次の文学賞まで二月だから、そろそろ形にしたいの。」
僕は彼女とかかわる中でラノベとのかかわりが変わってきた気がする。今までは自分の欲望を形にしていただけだったが、今は読む人間を想像しながら彼らの心が求めているものを作ろうとしていた。そのせいか、なろう系小説との距離感が程よくなった。前より書きやすくなった。彼らの欲求を満たしつつ、自分の言いたいテーマは、そこに混ぜ込んでいく工夫もする。
海水浴や湖でのバカンスのお約束は決まっている。
まず、水着がはだけるラッキースケベ。そしてビーチバレーをして女子たちが組んずほぐれずする中で、スケベ。バーベキューで主人公に群がる美少女たち。
王道だが、男の欲求を追及するとこうなるのだ。そして、ヒロインを溺れさせて主人公が助けるが息をしていない。人工呼吸という言い訳を挟んでのキス。
どれもどこかのラノベや漫画で見た展開だが、彼らもまたこれを求めているのだ。
先生の言うように豚には豚の餌を食わせておけばいい。
先生は自分の小説を、僕はゴーストライターとしてラノベを書いた。お互いに自分の仕事をしている。僕は先生の名前と世界観を借り、先生も僕を使うことで自分のしたいことに集中していた。利害の一致?相互依存?とにかく俺はチャンスをつかむことが出来た。後はこれを生かせるかだ。
なろう系のラノベ作家JKが可愛すぎるんだが だびで @kusuhra830
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