第6話 支えになるとは
二階にある成瀬の部屋。彼女はベッドの上にて布団で体を覆い、体育座りをしていた。
部屋はカーテンを閉め、照明を付けていないために暗い。それは外が曇天であることも要因の一つとなっている。
施錠され天岩戸と化した部屋の外。成瀬の母である恵理子は、部屋の扉前に立っていた。
恵理子は扉を挟んで言う。
「めぐみ? そろそろ部屋から出てこない?
ごはんもあまり食べていないようだし。お母さん、心配よ」
「大丈夫だから。気にしないで」
部屋の中からか細く答える成瀬。
その声の弱さに恵理子は声のボリュームが自然と上がってしまう。
「気にしないで、って血の気が下がった表情で帰ってきてからもう三日、部屋からまとも
に出てこないじゃない。一体、何があったの? 学校? それとも帰り道?」
「何もないから。大丈夫だから」
「何回大丈夫って言っても信じられないわよ。
友達とケンカした? それとも部活で何かあったの?」
しつこく問いただす恵理子に、
「何もないって言ってるじゃん!」
怒鳴り声をあげる成瀬。
だがそれに恵理子は屈しなかった。
「強く反応したってことは部活? 先輩と何か――」
「何もないって言ってるじゃん! ほっといてよ!」
続けて聞いていた最中、恵理子の声を遮って成瀬は叫ぶ。
それに恵理子も今度は続けられず、
「めぐみ……」
ただ名前を呼ぶだけにとどまってしまった。
「ほっとい……てよ」
初めのか細い声で、途切れながら押す成瀬。
それに恵理子は、わかったわ、と折れて、頷く。
「でも、ごはんはちゃんと食べて、お風呂にはちゃんと入ってね
少しは気持ちが落ち着くと思うから」
「ありがとう、お母さん」
「どういたしまして」
お礼を言いあう中、チャイムが鳴る。それに恵理子は反応する。
「あ、はーい。今行きまーす。それじゃーめぐみ、またね」
言って、恵理子は一階へと向かう。
掃除の行き届いた廊下を歩き、恵理子は玄関へと向かい、開ける。
そこに居たのは大江田だった。
こんにちは、と挨拶をして来た大江田を、
「どうも。中へどうぞ」
恵理子は何も聞かずに家内へと招く。大江田もそれに素直に従う。
「すみませんね。突然お邪魔して」
「いえいえ、こちらこそ娘がご迷惑をおかけして」
「何があったのか、お母さんは娘さんから何か」
「何も……。ずっと部屋に引きこもって、聞いても大丈夫だからの一点張りで」
「お母さんにも何が何だかわからない状況、と」
確認するように大江田は言った。
それに恵理子は頷き同意する。
「そうですね。いつもなら悩みをすぐに言ってくれる子なんですけど。こんなこと初めてで。どうしたらいいのか」
「思春期にはよくあることですよ」
「だといいのですけれど」
不安がる恵理子に大江田は、
「ここは僕に任せて貰ってもよろしいですか?」
多少の胸張りをしつつ、言った。
「それは良いのですけれど……」
「どうしたんですか?」
「いえ、これを言って良いのかわからないのですが」
躊躇う恵理子に、今度こそ胸を張り、トン、と拳でその胸を叩いて言う。
「どうぞ! 僕も担任をするのは初めてですのでいろいろと言って下さってもらえればと」
「そうですか? なら。
親バカや過保護と思われても仕方ないのですが、あまりきつく言ったりしないであげて
下さい。あの子は確かにいろいろ私に相談をしてくれるのですが、やはりそれも遠慮と言
いますか、私が心配しすぎないものが多くて、本当に話したいことは胸の内にしまってい
るのだと思います。
そして今、それが出てしまってどうしていいのか分からないのでしょう。元々感受性が
強く考え過ぎや思い過ごしが多い子でしたから。出来るなら、優しく諭してあげて下さい」
言葉の最後に頭を下げる恵理子。その行為を見た大江田は、
「よく、お子さんの事を見ていらっしゃるのですね」
素直な関心を伝えた。
「夫と離婚して女手一つで育てて来ましたから。見る機会は多かったもので」
「そうですか……」
理由を聞いて納得を大江田は得た。
「それがきっかけで紀里さんと仲良くなったようですので」
「あぁ。片岡も母子家庭でしたね」
「えぇ。親子共に仲が良いんですよ。境遇も一緒ですし」
ふふ、と恵理子は笑う。その後、
「今の状態でどうなるかわかりませんが、ダメそうならすぐにでも戻って来てもらって良
いので、お願いします」
真剣な表情になった恵理子は再び頭を下げた。それに、
「分かりました。では、いってまいります」
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