第3話 幻想は付きまとい

 成瀬はフラフラとした足取りで帰路を進んでいる。。

 そこへ、ふと声がした。

『あの子、自分が女なのに女が好きなんですって』

 周りを見渡す成瀬。しかし周囲には誰もいない。

『え、ホント? やだー』

 だが声は確かに聞こえる。ハッキリと自分に向かって。

聞きたくない、と成瀬は耳を塞ぐ。

『なんで異性じゃなく同性を好きになるのかしらね』

 しかしそれでも声は明瞭に成瀬へと響く。

 成瀬は歩きながら頭を横に振る。

『普通じゃないのよ。普通じゃ』

「そんなこと、ない」

 行為の拒絶だけでなく、言葉の否定を成瀬は存在しない誰かの声に対してする。

『女なのに女性が好きなんておかしいものね』

「おかしくなんか、ない」

『もしかしたら知らぬ間に好かれているかもよ』

「うるさい」

『えー気持ち悪いー』

「うるさい。うるさい」

『好きになられたら、災難よねー』

「うるさいうるさいうるさいうるさい、うるさーい!」

 人がいない細い道の真ん中で、成瀬はそう叫ぶ。

 そして荷物を地面に落とし、良の手で顔を覆うと、

「どうして……。どうしてダメなの? 同性を好きになっちゃ、いけないの?」

 遠くでするカラスの鳴き声に、成瀬の疑問は薄く消えて行った。


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