第3話 夜遊びの中心は帝都に
異世界人と交流してもう15年か…‥‥。
突然新宿の一角に異世界とつながるホールが現れた。そして向こうから鎧を着た兵隊がなだれ込んできた。
その後数日間戦闘が続いたが日本とアメリカがこれを制圧。ホールの先にある帝都と協定が結ばれた。
そして、新宿から帝都に向かう帝都線が開通し。
それにつられて経済の拠点を帝都側に作る企業が出始めた。夜の世界にも大変革がもたらされた。
帝都の歓楽街。帝都プラザ駅周辺には、キャバクラ、高級クラブ、ダンスクラブが乱立し日本から気軽に夜遊びに来れるようになった。
帝都と日本では物価に大きな差があるため、帝都で遊んだほうが日本の夜遊びより安く済むのだ。
キャバクラも、豪遊しても大抵3万くらいで収まる。日本なら30万以上するだろう。
そんなコスパや亜人と遊べるということで仕事帰りに新宿経由で帝都で遊ぶサラリーマンが多い。
その一方で、日本の銀座、六本木、新宿などのキャバクラ、新宿からは客が離れていった。
それも無理はない。
こちらの世界の方が女の子のレベル、コスパ、楽しさ、どれをとっても上なのだ。
帝都の歓楽街が日本のサラリーマンで溢れる一方で銀座や新宿の歓楽街が寂れていく。
その姿はブラックバスに、日本のフナやメダカが蹂躙されていく様を連想させた。
つい、昔のことを考えちまった。まだ昔話するほど年は取ってねえし。
「ヒロ何ボーッとしてるの?店もうすぐ開けるよ。」
桃色の長く美しい髪と頭から小さく出た角。まるで小動物みたいだ。
長くとがった耳、抜群のスタイル。上から九〇・五八・九〇‥‥‥。
サキュバスの彼女はクレア(四二)。俺がこの店の雇われ店長をしてから店エデンを支えてきた。
彼女は今では第一線を退き、教育やマネジメントもしてくれている。彼女なしではもうきついな。
キャバクラはチームプレーだ。そして、その中心がクレアだ。彼女の立場は俺たちの業界では付け回しと言われている。付け回しは、客のようすやキャストの相性を見ながら、どの客にどのキャストを当てがうか決めているのだ。
いわば夜の司令塔。彼女なしにフロアの仕事は成り立たない。フロア、キッチン、スタッフこれらの総合力が売り上げにつながる。
「今日新人のハーフエルフの子来るのよね。」
俺は、美しいハーフエルフが広島弁で店に入ってくるところを思い描いた…‥。
ねえなあ。
「なあクレア。広島弁を標準語に直した方がいいかな?」
「それは、標準語の方がいいけど、ひと月はかかると思うよ。亜人にとっては標準語は別の言語みたいなものだし。」
俺は思わず頭を抱えた。頭痛薬と胃薬同時に飲みたい気分だ。くそったれ。
「基本教育たのんでいいか?採用しておいて悪いけど、手に負えない気がする。」
「まあ、今日は平日だし。そのくらいの時間はあるわね。」
「助かるよ。クレア。」
早番のキャストの出勤は七時、クレアには二時間前の五時に来るように伝えた。
五時十分前 ハーフエルフのビアンカが到着した。
「少し早く着いたのお。」
「あなたがビアンカね。私はここのマネジメントをしているクレア。あなた服は持ってる?」
「この服だけじゃ。」
ガラの悪い広島弁にクレアの顔が困る。
もしここがガチンコファイトクラブだったら。
「このあと新人のビアンカが信じられない行動にっ…‥とか煽りが入ってからコマーシャルに入る場面だ。」
俺は、そうならないように神々に祈りをささげた。
「あまり服はないけれど、何着か持ってくるから自分で選んでくれる?」
「わかったけえ。服脱いでいいかの?」
「まだ早い。」
おいおい、お前貞操観念って言葉しってる?
いいボディブロー打ってくるな。ジワジワ聞いてきやがる。
クレアは怒るかと思ったが今のところスルーしている。
クレアはバックヤードから何着かやめた嬢の服を持ってきた。
黒いドレス、白いドレス、チャイナドレス。とりあえず三つ持ってきた。
「この中で好きなのを選んで‥‥。」
クレアが説明するのを遮ってチャイナドレスを手に取る。ビアンカお前自由すぎるだろ。
クレアは明らかに「はあ?何勝手にとってんだ?」みたいな顔をしている。
こっちはいつバトルが始まるか肝が冷えっぱなしだ。
「そっそう。じゃあそれに着替えてきなさい。」
ビアンカは再び青いユニフォームを脱ぎだした。
「ちょっと、裏で脱ぐのよ。」
「なんでじゃ。今ここにはクレアさんと、モヤシしかおらんけえ‥‥」
ん?今このアバズレ俺ことをモヤシって言わなかったか?
あまりの衝撃発言に耳を疑う。
もう俺も我慢の限界じゃけえ。
リング上がれや、スパーリングじゃと言いかける。
「ビアンカ、あのモヤシは雇われだけど店長だから。」
「雇われかの。わかったけ。」
あれ?クレアさん今モヤシっていった?
何結託してんの?
あと店長じゃなくて、雇われ店長って言った気がするな。
なんとなく馬鹿にされているようなニュアンスを言葉の節々から感じる。
「クレア新人教育頼んだ。俺はデータ処理と本部のメール見てくるから。」
はいはい、どうせ俺は雇われですよ。
「お客様のウイスキーは時計回りにしてはいけないの。反時計回りに作りなさい。」
「時計無いけえの。わからん。」
「…‥。そうなのね。あとウイスキーはなるべく薄めに作りなさい。限界まで薄く。」
「なんで薄くする必要があるんじゃ?」
「早く酔いが回ると客がドンペリみたいな高い酒を頼まなくなるからね。かすかに味がするくらいでいいから。」
「あいよ。」
なんかクレアとビアンカの相性は悪くなさそうだ。
とはいえ、今日いきなりヘルプとかつかせるのは怖いな。
開店時間三〇分前、蝶たちが店に出勤してくる。
「おはようございます。」
「おはようごさいます。あれ。新人さん?」
始業前のミーティングは、二人欠席。
いつものメンツか‥‥。遅刻ではない。
今頃、客とデートして、そのまま来店するのだ。
ラインに同伴(デートしてから入店する)と書かれていた。
人間が人種や出身でグループを作るように、亜人も同じ亜人同士で固まる傾向がある。
エルフ、サキュバス、その他。のグループに分かれている。
フロアのソファーもキャストたちはグループごとに分かれてお喋りしている。
黒人とアジア人、白人彼らが上手くやっていけないのと同じで‥‥。
いや、それ以上に彼女たちは差別する。
「みなさん、おはようございます。」
夜の世界では、はじまりはいつもおはようございますだ。
「おはようございます。」
「今月も各自ノルマ‥‥‥じゃなかった、目標を達成できるように頑張りましょう。」
「今日は新人がいます。ハーフエルフの新人のビアンカさんです。自己紹介を」
チャイナドレスを着たビアンカが立ち上がり挨拶する。
「わしが、ビアンカじゃけえの。やるからには、てっぺんとりいくけえ。よろしゅうの。じゃあの。」
ガラの悪い広島弁に凍り付く面々。
ビアンカ、それは自己紹介じゃない。宣戦布告だよ。
みんなしばらく固まっていたが、気まずい間をしばらく開けた後、まばらに拍手があった。
満足そうなビアンカとは反対に、警戒心むき出しのエルフ族。
俺は店の中堅のエルフにビアンカの指導を頼む。
「いやいや。あんな混血児いやですよ。サキュバスにでも頼んでください。」
エルフ族はハーフエルフに対してよく思っていない。
エルフは基本的に保守的で新しいものに対して不寛容だ。
そして自分たちは、もっともすぐれた種族と思っている。
仕方ない、サキュバスに頼もうか。
「ああ、いいですよ。」
あっさりと承諾。敵の敵は味方というところだろう。
エルフが嫌な奴なら歓迎ということだろう。
確かにビアンカはエルフの方がいいかもしれない。
クレアとも打ち解けていたし。
間もなく店も開店だ。
「おはようございまーす。」
店に、会社役員と同伴してきたのは、現在のナンバーワン。テレサだ。
男性の腕に寄り添い。イチャイチャしながら店のビップ席に座る。
男の顔も完全に緩み切っていて役員の跡形もない。
「フルーツの盛り合わせとピンドンお願いしまーす。」
すぐに注文を取るあたりは、甘え上手のなせる業だな。
そして、もう一人のエース。エルフのティファ。彼女は店のナンバー2.ティファとテレサがこの店の稼ぎ頭だ。3位とは大きく差をつけている。
「こちらの社長さんをビップ席に案内してくりゃれ。」
そういうと、バックヤードに着替えに行った。
現在エデンには2大派閥が存在する。ティファのエルフ派閥とテレサのサキュバス派閥だ。そしてどちらにも属さないグループ。例えば獣人や、デュラハンのような亜人たち。
店長の俺としては、みんな仲良くしてくれれば問題ないのだが、エルフとサキュバスの対立は厳しく。
クレアも何とか収めている状態だ。
今のところは売り上げが上がってくれれば、どちらのグループだろうが構わないと思っている。
ビアンカは‥‥。エルフよりサキュバスのグループにいた方が良さそうだ。
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