第2話  雇われ店長(30)はつらいよ

「やっぱ十連勤が続くと疲れるな。年かな……。」


俺はヒロ30歳。

二十一の時にキャバクラ業界に飛び込んで、惰性で続けているうちに、あっという間におっさんになってしまった。


店は六時からだが、今日は新人の採用が二人あるので三時出勤だ。

一人はハーフエルフで、もう一人はサキュバスだ。

もう一〇分前なんだが来るだろうか。

俺の経験上、面接を遅刻する亜人は間違いなく問題ありだ。

 これは、こないかもなあ。煙草を咥え煙を肺に吸い込む。


薄暗い店内の天井を見上げ細く長く煙を吐く。


「ここけぇ?」


「え?」


声のした方を見るとデニムと青のシャツを着た金髪の女の子がドアの前に立っている。

俺は突然の広島弁と美しいルックスの差に驚きつつも、平静を取り戻す。


「あの今日面接の方ですか?」


そのボロボロのデニム(ダメージ加工でなくただ単に古いだけだろう。)とサイズの小さい

サッカーレプリカを着たエルフは答える。


「そうじゃが。」


ヤバいっ‥‥‥。突っ込みどころが多すぎてどこから突っ込んでいいのかわからん。

俺は慌てて彼女の席を用意する。


「こちらにおかけ下さい。」


「わるいのお」


ガラの悪い広島弁とは裏腹に金髪を美しい耳にかけ座る。この違和感!なんか俺の方が緊張している…‥‥。


「本日は面接に来て下さりありがとうございます。」


「気にせんでいいんじゃ。」


このハーフエルフ。いいパンチ打ってくんな。

日本のアニメや漫画はこちらでも人気だ。

それらで日本語を独学してくる子は多い。

俺はこの子がどうやって日本語を学んだのか聞かずにはいられなかった。

土竜の歌?ろくでなしのブルースか?


「ビアンカさんはどうやって日本語を勉強されましたか?」


「動画サイトなんじゃが。そこで竹刀を持った男がクソガキをシバく番組があってのお。それを毎日見て覚えたんじゃ。」


まさかのガチンコハイスクール!

この娘、俺の予想をいちいち超えてくるな。話せば話すほど混乱してきた。

そういえばまだ履歴書をもらってなかった。


「履歴書はありますか?」


「これかの?」


「はい頂戴します。」


綺麗な履歴書だ。たどたどしい平仮名だが、それは亜人なので問題ない。

写真もきちんと張られている。

第一印象は合格だがガラの悪い広島弁が気になる。

 彼女をもう一度よく見る。美しい金髪、エメラルドグリーンの瞳にサッカーのユニフォームの上からでもわかる巨乳。

出るところはでて引っ込むところは引っ込む。理想的な体系。年も三五歳でエルフ系にしては若い。

 本来なら時間通りに来たし一発合格なんだが‥‥‥。ガラの悪い広島弁が引っかかるああ。

伸びるキャバ嬢なのか、それとも地雷か。

俺は南米の地雷原を歩く兵隊のような気分だ。


「ビアンカさんは、なぜフロアレディに?」


彼女は美しくまっすぐな瞳で俺を見て答えた。


「金が要るんじゃ。金を貯めてタワマンに住んでみたいんじゃ。」


なんでタワマンなんて言葉を知っているのか……。

理由としてはシンプルでいい。

稼ぐキャバ嬢はホストに貢いだりブランドマニアだったりする。

動機としては悪くない。


でもなんだろう。彼女の話し方のせいか後ろに竹刀を持った元ボクサーがいる気がするのだ。

まるで、リングで面接をしているかのような緊張感。ヤルカやられるか。


「ところで、サッカーが好きなんですか?日本代表のユニフォームきてますけど。」


胸とくびれのラインが美しいのがサッカーのユニフォームからでもわかるというのは、相当にスタイルがいいと思われる。

 俺は、この仕事をしていく中で女性のスタイルをほぼ言い当てることができるようになった。

上から92・57・86。

まさに男の求める理想の体型だ。

誤差は恐らく±1くらいになっている。

 きっとフロアに出てくれたら人気が出るだろう。

でも、俺の頭の中にガチンコハイスクールが再生されて判断を迷わせる。


「これけえ?これともう一枚しかないけえ、これにしたんじゃ。」

 

頭をフル回転させ答えをひねり出す。


「それでは体験入店ということで明日から来れます。」


「わかったけえ。明日から来ればいいんじゃな?」


彼女は竹●のような広島弁で礼をいい。礼儀正しくお辞儀をし店をさった。


時計を見るとわずか一〇分の出来事だった。なんだか一時間以上に感じた。

どっと疲れてソファに横になる。



「ヒロ起きなさいよ。」


俺をゆすって起こしたのは、この店でベテランのクレアだ。クレアは開店当時から至サキュバスで、店のスタッフ兼従業員だ。


俺が目を覚ましたのは開店直前になってからだった。




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