第4話 コンティニュー・リレーションシップ

「前より口煩くなったし、愚痴しか言わなくなったし、全然優しくないんだもん」

 普段では考えられないほどの声量に少し慄いてしまったが、唐突に発せられたその言葉の意味を即座に吟味する。

 なんだ、口煩くなった?愚痴?優しくない?さっぱり理解できない。

 確かに、ここ最近は梅ケ谷との意思疎通を半ば諦めている節は自分自身にもあった。が、ここまで言われる筋合いがあるだろうか。元はといえば梅ケ谷が全くと言っていいほど感情を表に見せなくなったのが原因な訳であって、それ以上の瑕疵が豪徳寺にあるのだろうか。

 様々な思慮を巡らせていると、さっきの発言と同等か、それ以上の弾丸が襲ってきた。

「豪ちゃん、昔と全然違う。別人になっちゃったみたいで、ずっと嫌だった。」

 頭がくらくらする。予想外の発言第二波が精神領域に直撃し、危うく瀕死状態になりかけた。

 さらに、聞きなれない言葉が口頭にあったことにも違和感を感じた。《豪ちゃん》ってなんだ?そんな渾名で呼ばれたことなんてないぞ?

 あれ

 そもそも、梅ケ谷に今までなんて呼ばれていたのか思い出せない。

 長い間感覚リンク者として付き合ってきた筈なのに、そもそも呼ばれた覚えがないのはどういうことなんだろうか。皆目見当がつかない。

 豪徳寺は、顔が青ざめていく感覚に襲われた。

 何かがおかしい、まがいなりにも築き上げてきた梅ケ谷との関係性が、リセットされてしまったかのような、違和感しかない感覚。

「ねぇ、聞いてる?さっきから顔色も良くないけど…ごめんね、言い過ぎちゃったかな?」

「いや、別に、お前の言っていることは至極真っ当なことだと思うよ」

 取り敢えず空返事をして場を誤魔化す。

 今ほど考える時間が欲しいと思ったことはない。焦りが焦りを読んでいる。憔悴とはこういう時のことを言うのだろうか。

 「ごめん、今日も帰るわ、梅ケ谷も気を付けて帰ってくれ」

「うん…」

 目を見て会話が出来る状態ではないので、得意のおどけかたで誤魔化す。

 まず、状況を整理しなければならない。

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彼女と感覚を共有するハメになった 雅塵 @ochita

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