第15話 再会した職人たち
「おかえりなさいませ。アルフレッド様、シエラ様」
あたたかな笑顔で出迎えてくれたのは、ベスキュレー公爵家本邸を任せていたゴードン。
――だけではなく。
「おかえりなさいませ、公爵様! お待ちしておりました!」
「お元気そうで何よりです!」
「ようやく一緒に仕事ができますね!」
どやどやと玄関ホールにやってきたのは、慰霊碑制作のために呼び寄せていた職人たちだ。
かつてベスキュレー家に仕えていた者たちばかりで、王都での音楽会に招待した顔ぶれがほとんどだ。
慰霊碑の土台となる石の加工準備は、アルフレッドからの書面での指示通りに進めてくれていた。
どうしても書面でのやり取りとなると、状況が分からないこともあったが、ようやく現場で確認することができる。
笑顔で出迎えてくれる職人たちの中に、強面の顔に涙を浮かべる男がいた。
アルフレッドを幼い頃から知る、ハリス・ディルソンだ。
「皆、出迎えありがとう。それに、よくここまで来てくれた。感謝する。ところで、どうしてハリスおじさんは泣いているんだ……?」
アルフレッドは職人たちに礼を言って、ゴードンに外套を渡しながら問う。
シエラの橋渡しのおかげで、皆より一足先に感動の再会は果たしたというのに。
アルフレッドが内心首を傾げていると、本人が涙を浮かべたまま近づいて来た。
「アルフ坊ちゃん、いや、公爵様……またこうしてベスキュレー家のために働けると思うと嬉しくてなぁ……」
ハリスは厳格な職人ではあるが、心優しく涙もろい人だった。
そんなハリスを見て、アルフレッドも自然と目頭が熱くなってくる。
「それはこちらの台詞だ。いつかハリスおじさんや皆と一緒に仕事をすることが幼い頃の私の目標だった。今回の仕事を引き受けてくれて本当にありがとう」
「アルフ坊ちゃん……!」
「うぅっ、アルフレッド様……」
「なっ、シエラまで泣くことはないだろう」
「だって、だって……わたしも嬉しくて……」
いつの間にか、シエラの虹色の瞳からも涙があふれていた。
メリーナが慌ててハンカチを差し出す。
「本当に、かつての公爵家の光景が戻ってきたかのようで、私も嬉しいです……!」
さらにはゴードンまでもが涙ぐみ、昔を思い出させるものだから、皆が感傷に浸りはじめ、収拾がつかなくなってきた。
アルフレッドは、何とか皆の気を逸らそうと口を開く。
「皆、泣くのはもうやめて、これから楽しい仕事の話でもしよう」
仕事と聞けば、切り替えの早い職人たちである。
「公爵様、かなりいい石材が入ったので見てもらえますか」
「新しく開発した器具が、今回の彫刻に役に立つかもしれないと思って持ってきたんです」
「今日から作業場で石の研磨をする予定で――」
口々に作業状況について確認依頼を申し出てきた。
元々そのつもりではあったが、いっきには処理できない。
「こら、お前たち。アルフ坊ちゃんと仕事ができると張り切るのはいいが、帰ってきたばかりのアルフ坊ちゃんに一度に報告しても困らせるだけだ。アルフ坊ちゃんにも計画があるだろうし、物事には順序ってもんがあるだろうが」
涙の痕はあるものの、ハリスが割り込み、皆を黙らせた。
「ハリスおじさん、ありがとう。まずは応接室で打ち合わせをしよう。報告もその時に聞く。打ち合わせが終わり次第、作業現場を確認したい。皆もそれでいいか?」
「あぁ。問題ない」
ハリスが頷き、他の者たちも異論はなさそうだった。
できるだけ早く作業を進めたいと思っているから、職人たちからの提案や情報共有はありがたい。
「シエラ。では行ってくる」
「はい。アルフレッド様、応援していますわ。それに……」
シエラはにっこりと癒しの笑みを浮かべて――。
「公爵夫人として皆さんのサポートができるように、わたしも頑張りますね!」
可愛すぎるファイティングポーズをとった。
その可愛さにときめいているのは、アルフレッドだけではなく。
もれなく職人たちも心臓を押さえ、頬を緩めていた。
「……その気持ちはありがたいが、あまり頑張りすぎないでくれ」
これ以上、シエラの可愛い姿を他の男たちに見られたくない!
仕事と私情は完全に別なのだ。
たとえ共に働く職人たちでも、シエラに関してだけは譲れない。
「皆さん、お仕事頑張ってくださいね!」
しかし、独占欲に支配されているアルフレッドの心の内も知らず、シエラは満面の笑みを職人たちに向けていた。
(彼女のまっすぐで優しい心根に、私は惹かれたんだったな……)
シエラが職人たちに笑顔を向けるのは、アルフレッドのためだと分かっている。
それなのに、嫉妬してしまうなんて、自分はなんて器の小さい男なのだろう。
アルフレッドは小さくため息を吐いた。
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