第14話 レストランデート(2)

「アルフレッド様はどんなお子様だったのですか? 絶対に美少年だったことは間違いないですね。あぁ、わたしも一度お会いしているのに、お姿が見えなかったことが悔しいです!」

「美少年かどうかは分からないが、父の後ろをずっとついて回っているような子どもだったな。父の手から創り出される芸術に夢中になっていたんだ。そんな私に、父は色々なものを見せてくれた。このレストランもその一つだ」


 アルフレッドの口から語られる子どもの頃の話に、シエラは思わず口元を押さえていた。


(アルフレッド少年、可愛すぎる……!)


 少年のアルフレッドが父公爵の後ろをついて回る姿を想像するだけで、胸がときめいた。

 以前、ゴードンに屋敷のギャラリーを見せてもらったことがある。

 アルフレッドの幼少期の肖像画もあり、あまりの可愛さに天使が描かれているのかと思ったくらいだ。

 声変わり前のアルフレッドの声だけは、シエラの耳がしっかりと記憶している。

 その声と肖像画のアルフレッドを一緒に想像すれば、ときめきが止まらない。

 にやける口元を両手で覆っていると、すでに前菜とスープが目の前に並んでいた。

 なんとかときめく心臓を抑えながら、料理と会話を楽しむことに集中する。


「アルフレッド様が夢中になるのも分かります。先ほどのサイラ様の車椅子を作った技術も、このレストランの装飾も、本当に素晴らしい芸術品ばかりですもの」

「あぁ、そうだろう? 私の父はすごい人なんだ」


 アルフレッドが嬉しそうに破顔する。

 不意打ちを正面からくらってしまった。

 包帯をしていないアルフレッドの美貌にはいまだに慣れなくて、直視できないのだ。


(はうぅ……どうしましょう、アルフレッド様がかっこよすぎて……)


 アルフレッドの思い出の場所で、美しい芸術と美味しい料理を楽しめているこの状況だけでも幸せ過ぎて夢のようなのに、さらにとびきりの笑顔を浮かべられたら心臓がもたない。

 さらには少年から成長し、大人の色気も放つようになったアルフレッドのギャップにも勝手に悶えてしまう。


「……アルフレッド様、ずるいですわ! どれだけ魅力を隠し持っているのですか?」

「いや、私からすれば、シエラの魅力に敵うものはいないと思うが」


 当の本人に自覚がないのだから質が悪い。

 シエラをこんなにもドキドキさせているのに。

 むっと口を尖らせると、アルフレッドからも質問が返って来た。


「シエラがどんな子どもだったのかも聞かせてくれないか? 私は、シエラが子どもの頃から天使のように可愛かったことしか知らない」

「あ、あの時のわたしは泣いていたので絶対に可愛くありませんから、忘れてください!」


 十年前、アルフレッドとは〈呪われし森〉で初めて出会った。

 あの時のシエラは母を喪い、呪いで視力を失って、泣きじゃくっていた。

 深い森の中での出会いで、十年も前のことだから、シエラの容姿なんて覚えていないだろうと思っていたのに、アルフレッドの記憶には残っていたらしい。

 好きな人にはもっと可愛い時の自分を覚えていてほしいというのが乙女心というもの。

 シエラが真っ赤な顔でお願いすると、アルフレッドは笑顔で首を横に振る。


「忘れない。それに、シエラは何をしていても絶対に可愛いから心配しなくても大丈夫だ」

「でも、歌のことばっかりで、面白いことなんてありませんよ?」

「シエラに関することならどんなことでも興味深いし、あなたの歌は私にとっても特別だ」


 ここまで言われてしまっては、逆に否定し続ける方が難しい。

 シエラは渋々頷いた。


「分かりました。その代わり、もっとアルフレッド様のお話も聞かせてくださいね。わたしも、アルフレッド様のことならどんなことでも知りたいんです」

「あぁ。せっかくこうして二人で過ごすことができているんだ。たくさん話をしよう」

「はい!」


 互いに忙しくて、すれ違うことも多かった時間を埋めるように、シエラはアルフレッドとたくさんの話をした。

 コース料理の締めであるデザートと紅茶を楽しんだ後は、馬車の中でも。

 そして、王都別邸の屋敷に帰っても、ベッドの上で互いのぬくもりを感じながら過ごした。

 添い寝だけでも、シエラにとっては満ち足りた幸せな夜だった。


 その翌日。

 ベスキュレー公爵夫妻は領地リーベルトへ向けて出発した。

 平和な王都を見るのが、まさかこの日で最後になるとは思わずに。

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