第8話『フィールドワーク~急・接・近~』

サッカー観戦当日


最寄り駅で待ち合わせ、スタジアムに向かう。


会場に着くと人でごった返している。


席について程なく、国歌斉唱が始まりキックオフ。


試合はホームのドルフィンズが早い時間に先制し、1-0で前半を折り返す。


ハーフタイムの間に、スタジアムの売店で弁当(豚丼)とポテト・ドリンクを買う。


一ノ瀬さんは、焼きそばと同じくポテトを買い席に戻る。


「いやぁ、期待してなかったけどたまにはいいですな。」


「そうですね。面白いですね。生は臨場感もありますし、スタジアムの熱気がスゴいですね。」


ありきたりな返し。



「やってもうた。」



ふと見ると、一ノ瀬さんのポテトが床に散乱している。


「半分以上こぼしたな。リベンジしてくるわ。」


一ノ瀬さんは、そう言い席を立った。


暫くして戻った手にはポテトが。


「買い直してきた。」


食べながら辺りを見渡すと、右前方のカップルとおぼしき男女がチチ繰りあっている。


「一ノ瀬さん、あれ。」


小声で囁き、そのカップルをポイと顎で指す。


「あぁ。まぁ、好きにさせとけ。...でも、羨ましいなぁ(ボソッ)」


そうこうしているうちに後半が始まった。


時間が進むにつれスタジアムのボルテージはあがっていき、一体感が増していくのがわかる。


ーピッ、ピッ、ピーーー。


試合終了のホイッスル。


試合は3-1でドルフィンズの勝利。


「勝ち試合観られてよかったですね。」


僕がそう言うと、


「それは、興味ない。」


と、一刀両断。


まぁ、いつものご愛敬。


勝利インタビューをやるようだが、出入口が混む前に席を立つ。


その時、


「ポテト片付けなよ。」


声のする方を見ると後ろの席の女性が一ノ瀬さんの席の下に散乱したポテトを指差し、


「あんたが溢したんでしょ。」


一ノ瀬さんは慌てた様子だったが、応じた。


僕は狭い通路に立っていたので、邪魔になると思い一足先に階段を上り通路の上まで移動する。


少し心配しながら一ノ瀬さんを待つ。


女性の言い方が、「片付けてください。」ではなく、「片付けなよ。」だったので一ノ瀬さんキレていないだろうかとヒヤヒヤしたのだ。


暫くして姿を現した一ノ瀬さんに声をかける。


「何で席立つときに放置して帰ろうとしたんですか?」


「係員が片付けると思ったんだ。」


「大丈夫でした?」


「何がだ。」


「あの女性の言い方にキレてないから少し心配してました。」


「キレないよ。」


ースタジアムの外は雨が降っていた。




一ノ瀬さんと駅で別れた後、


・・・美里さん?


「林田さん...」


元気がないように見える。


「ちょっと、話聞いてもらってもいいですか...。」


近くのカフェに入る。


スマホを差し出す。


画面を見ると、


電話37回

メール4回


3時間待ちましたが、あなたは来ませんでした。


今までありがとうございました。

さようなら。


一ノ瀬 隆太


「怖いです...。。。林田さん。」

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