第6話『サーブ&ボレー』

「畑さん最近出勤してないけど、大丈夫だろうか。」


一ノ瀬さんが発する。


かれこれ1週間程になろうか。


「畑さん、肌荒れ酷いから体調悪いんですよ。あの肌荒れは相当ですよ。」


石井さんが、なるほどというような表情で話し始める。


確かに肌荒れスゴいなと畑さんの顔を思い浮かべる。


「これ見てください。」


一ノ瀬さんがレシート2枚を差し出す。

本屋で買った4札、三千数千円。

歴史関連の書籍。


「これですよ。有意義な金の使い方というのは。」


一ノ瀬さんは食費よりも、麻雀をはじめとした趣味には出費を惜しまない。


週の半分以上、雀荘に通いつめ、好きな歴史資料収集に惜しげもなく金を使う。


その為、徹底的に食費は抑えたいらしい。


その証に仕事の後に食事に誘うと、

「閣下、俺はゴミクズの閣下みたいに無趣味で暇じゃないんだ。常に忙しいんだよ。付き合ってる暇はない。」


そう言い残し、足早に雀荘に消えていく。


翌日、機嫌良さそうにいつになくhighテンションな一ノ瀬さんがそこにいる。


「昨日打った女の子がイチイチかわいかったんですよ。」


「どういう風にですか?」


「コーヒー飲む時、カップが当たってカンパーイ!」ってカップを当ててきたり、仕草がイチイチ無駄にめちゃくちゃかわいいんす。


へえーと思いながら、「何歳くらいの人なんですか?」と聞くと


「50歳位かな。」


聞いて、ズッコける。


歳上じゃん。


「そんだけ盛り上がったなら、相手も脈ありな感じでしたか?」


石井さんが聞く。


「わかりません。でも、それがかわいくてさぁ。」


「連絡先は聞いたんですか?そんなに気になるなら聞いてみればよかったのでは。」


「連絡先は聞かなかった。それもそうだな。メールアドレスでも聞けばよかったな。」


僕は横目で一連の話を黙って聞いていた。



「おっぱいでも、触らせてくれたんですか?」


僕は聞いてみる。


「まさか。」


一ノ瀬さんが、んなこたぁない。というような表情で返す。


更に翌日、畑さんが久しぶりに出勤した。


「林田先生。」


昼休み、一ノ瀬さんと一緒に居た畑さんから声をかけられる。


一ノ瀬さんの影響だな。"先生"などと言い出すのは。

"閣下"呼びの一ノ瀬さん同様、悪意を感じる。

あの二人はよく休むし、よいコンビだ。

僕が、一ノ瀬さんの勤怠を指摘したのが気に入らず畑さんに流しているのだろう。

だいたいそんなところだろうよ。


「閣下、相変わらずゴミ、クズっぷりっすなぁ。」



やられたらやり返す。

売られた喧嘩は買ってもいい。


サーブ&ボレー。キャッチ&リリース。ヒット&ラン。目には目を歯には歯を。


閣下呼びをしてきたのは、そっちが先だ。







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