第3話『苛立ち~ふざけんな~』

「クズだなぁ。

ホント、ゴミ、グズだ。」


一ノ瀬さんの口癖だ。



「昨日の、カーリング見ました?メダル獲りましたね、よかったですよね!」


「興味ない。つまらん。くだらない話をするな。」


「もっと、面白い話をしろ。

つまらん話は俺は聞かない。」


一ノ瀬さんは、日本史と麻雀が好きだ。


「俺、応仁の乱について研究してるんだ。」


仕事中にも関わらず、暇を見つけては調べてまとめ、書店で資料集なるものを買い数週間かけて手書きのノートにびっしりとまとめたノートをほいと出す。


凄い熱量だ。普段の気怠さの塊の一ノ瀬さんからはまるで想像できない。


昼休みは、彼の独演会と化した。

1時間、黙って聞く。


相づちやリアクションが薄いとダメ出しが待っている。


「なんや、そのつまらなさそうな顔は。

もっと、楽しそうにできないのか。」


そんな毎日だ。これでいいのだ。

強く言い聞かす。


「お疲れ様です、美里さん!」


一ノ瀬さんの表情がグッと和らいだ。


「美里さん、応仁の乱研究してきたんですよ。」

ノートを差し出す。


「凄いですね!これ、一ノ瀬さんがまとめたんですか?!」


一ノ瀬さんは、誇らしげに少し照れ笑いを浮かべる。


気をよくした一ノ瀬さんは最後まで突っ走る。



「林田さん、さっきの態度なんすかー。

つまらん顔して。酷かったっすよ。美里さん見習ってくださいよ。」


(彼女は、興味ないと思うけど付き合ってくれたんだと思うなぁ。)


風が強い。寒空を急ぐ。


「美里さん、優しいですよね。」


「何がや?」


「...いや。」


美里さんが、合流する。


暫くの沈黙のあと


「美里さん、タイの方と結婚したんですね。」


一ノ瀬さんが問いかける。


「うちの、旦那日本語全く話せないんです。

意思疏通は英語なんです。」


「美里さん、タイ語は話せるんですか?」


「話せません。」


「凄いなぁ。」


「今度、カナダに旦那と行くんです。

移住考えてます。」


「えぇ!?移住ですか。

カナダに何か縁はあるんですか?」


「ないです。旦那と二人で心機一転新生活送りたいなぁと思って。」


とても、バイタリティのある人だ。

羨ましい。


「じゃあ、私こっちなので。

お疲れ様です!」


美里さんの後ろ姿を見送り、一ノ瀬さんの顔を見るとどこか心なしか生気がないように見えた。



翌日、一ノ瀬さんは2時間遅刻して出勤した。


昨夜を思い返す。


「一戦交えて帰りますわ。」


麻雀店の前でわかれた。


「一ノ瀬さん、どうしたんですか?」


「腰が痛くて、整骨院に寄ってから来たんや。」


やっぱり。


「麻雀のせいじゃないですか?

せめて休みの前の日や休みの日だけにしたらどうですか?」


「ふぁっ(苦笑)

放っとけ。クソが。」


それ以上は言えない。

言ってはいけない。グッと堪える。


僕は、全身に力を込めた。


わいわい亭に寄る。


「いらっしゃい。」


自宅近くの定食屋。よく通っている。3年は通っているだろうか。


「さばの味噌煮定食屋、ご飯大盛りでお願いします。」


「はい。かしこまりました。」


食事を終え、女将の日奈子さんと談笑する。


「冴えない表情ね。もう営業終わるから。(ウィンク)」


日奈子さんと肉体関係をもつようになって1年ほど。

向こうから誘われ断る理由も特にないので流れに任せた形だ。


暫く経ってから妻子ありだと判ったのだが・・・


日奈子さんとは、会話はそんなに交わさない。


店で食事しヤル。至ってシンプル。


日奈子さんは、夫とはレスだという。


子供は高校生の男の子。息子に欲情してしまう時があると打ち明けられた時は戸惑った。


僕は家庭をもっていないので、もし娘がいて欲情したらどうするだろう。

いや、そんなことあるのだろうか。


日奈子さんの豊満な乳房は実に見事だ。

クンニすると感度抜群。

やりがいがある。


日奈子さんはゴムなしセックスを要求する。

僕は妊娠を恐れゴムをつけるが、外されてしまう。


「セックスするということは、生殖行動。避妊なんてナンセンス。責任とれないならセックスはすべきじゃないわ。私はしたい男とはセックスするの。」



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