第2話『ノスタルジーに浸ってんじゃねぇよ』
「俺は、好かん。形式的な姿勢が気にくわん。話したこと全て記録されて上層部みんなに共有されるんだぞ。プライベートなことなど話さん。話してたまるか。逆に質問攻めにしてやる。」
熱く力説する。
最近定期的におこなわれている面談。
いかにも一ノ瀬さんらしいなと思いながら聞く。
もっと、肩の力抜いたらどうですか?別に話してまずいことないでしょ?なぜそんなに神経質になってる?何と闘ってる?
思っても言わない。
一ノ瀬さんとは同期だ。
向こうから話しかけてきて、なんだかんだ今日まできた。
僕は、人と話さない。
尋常じゃないオーラと壁を作る。
だから、あの人から話しかけてきたことはよく覚えている。
ー
初日の昼。
「林田さん、飯、一緒に食いましょうや。コンビニ行きます?」
正直、一人で食べたかった。
強がってるわけでもなく、今までそうしてきたからそれで貫き通してきたから。
そこからは、割と早かった。
最初こそぎこちなく気まずかった会話も気にならなくなった。
after5にご飯に行くようにもなった。
一ノ瀬さんは、理屈屋だ。
並みじゃないドがつく。
それに、気が短い。顔や態度にもわかり易く出る。瞬間湯沸し器のように。
よく、遅刻をする。
腰が悪く、心臓やら内臓にも疾患があり多量に服薬している。
腰は麻雀のし過ぎだと思うが。
何か矛盾しているなぁと思いながらいつも、彼の体の不調の話を聞かされている。
やく休む。
「閣下はわからないと思うけど、俺や畑さんのように体調に不安抱えてる人は朝起きた時、動けるレベルが50%だとして酷い時は20%とかなんや。物凄く辛いんや。
健康体な閣下にはわからないだろうなぁ。」
整骨院に寄ってから出勤するという理由で週1日は一ノ瀬さんだけ定時が2時間遅く設定されている。
僕は理解に苦しむ。
だがしかし、彼は真剣だ。
彼には正論は通じない。
そんな彼の姿に、僕は人生を諦めてしまった憂いを抱えているように映る。
そんなの他人が言うことではないことはわかっている。
一ノ瀬さんは東京の大学に進学し、卒業後も暫く留まった後に実家に戻っている。
詳しくは知らないし聞かないが、挫折か何か心折れる事態があったのだろうか。
いつものように、ぽっこり出たお腹を愛でるようにさすりながら歴史小説を読む一ノ瀬さん。
小説から目を離し、「妊娠3ヶ月です。」
いつもの渾身のモチネタを披露する。
ー
今日は寒いな。家路を急ぐ。
スーパーで助六寿司とポテトサラダを買い、ワンルームの我が家へ急ぐ。
録画したニュースを見ながらいなり寿司を頬張る。
ふと、窓の外を見るとコンビニのレジ袋が舞っている。
あのレジ袋はこのあとどういう末路を迎えるのだろうか。
誰かに片付けられゴミ焼却炉行きで加工されるのだろうか。
その様が気になり暫く注視していたが、視界から消えたとき我にかえる。
僕は、この街で暮らし確かに生きている。
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