死んでるようで~終わらせない・逆襲メリーゴーランド~
強度近視
第1話 『序章~遥かなる一歩~』
カフェに寄り、一ノ瀬さんはSサイズのコーヒーを頼む。
メニューにSサイズはないが、いつもそうしている。
340円。電子タバコをくゆらせ最近買ったお気に入りの天皇系譜書籍を眺める。
僕は、Mサイズのコーヒーにたまごサンド・チョコレートケーキにソフトクリーム。
周りは、ひとり黙々と試験勉強をしている学生やガールズトークに花を咲かせる2人組、静かにスマホを弄るサラリーマン、新聞を広げるサラリーマンにおふざけ調でひときわ目立つ男子学生集団...
一度チラ見した以降は、辺りを気にすることなく過ごす。
仕事の後、よく2人で行くチェーン店のカフェ。
今日も静かに、確実に時は流れる。
感情を殺し、仕事をこなす。
時間から時間までただひたすら。
ー今日も無のままに。
「おはようございます、閣下。」
「おはようございます、一ノ瀬さん。」
廊下で顔を合わせる。
オフィスに入り、タイムカードを切る。
始業10分前になり朝礼を受け1日の仕事が始まる。
「閣下!今日も席端なんすけど、これで5日連続やぞ。
俺、臭うから端にさせられてるんじゃないかと思ってる。」
一ノ瀬さんは、10歳上。
僕のことを『閣下』と呼んでくる。
出会った当初から。流石に初日からではなかったと思うが、そう呼ぶまでに時間はかからなかったと思う。
理由は皮肉だと推察する。
最初は、気分はよくなかったがもう流している。
言っても無駄だから。
昼は、毎日きまってコンビニのおにぎり200円也。
これ以外にない。
理由?考えるのが面倒だし安ければ良い。
昼に金はかけたくない。
「閣下、またいつものおにぎりですかぁ?
ほんと、かわり映えしないっすなー、つまんないっすよ。俺を楽しませてくださいよぉ。」
「安ければいいんです。
昼は安く済ませ、夜に使うんです。」
(それに、何食べようが好きにさせてくれ。)
こんな茶番劇を毎度繰り返す。
ー
「お疲れさまでした。」
「今日は(退勤後の夕飯)付き合わないからな。
俺は、忙しいんやで。
ネットフリックス見たり応仁の乱研究せなあかんのや。」
(それを、俗に暇というのでは。)
足早に職場を後にし、地下鉄で家の最寄り駅の一つ前で降り、夕飯をファストフードでとる。
いつものダブルチーズバーガーのセット(ポテト・コーラ)に、ナゲット(マスタード)とアップルパイをつける。
「あと、アイスクリームもお願いします。」
幸せだ。きょうイチの。
小さな1日ひとつの幸せを着実に積み重ね噛みしめていくことが大事なんだ。
そう、心の中で自分に言い聞かせるように呟く。
食べながら、TwitterとInstagramのフォロワーのタイムラインを追う。
食事を終えると歩いて家路へ着く。
一駅歩いている。
心地良い鼻歌歌いながら。
何気ない毎日、上がり目のない仕事、毎日嫌気がさす。
学歴も経歴も特出した能力もないので諦めの境地だ。
僕はもうこうして生きていくしかないのだ。
そう思っていたはずが、納得しきれない自分がいる。
この何気ない日常から、少しずつ、着実にとてつもなく重い車輪が動きだし僕の生活・人生を変えていくことになるとは思ってもいなかった。
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