第5話

「うっへぇー! 帽子酔いしたぜ! やっぱソトってのはサイコーだな! 」

えづくマネをするチシャ猫をアリスが杖で叩いた。

「ひっでー! 叩くなよ」

「これも元に戻るのかしら」

チシャ猫の反論を無視して、アリスがマッドハッターに尋ねた。

「本来ならば役が終われば消えるはずだが、よほど気に入られているようだ」

アドバイスらしいアドバイスをもらえなかったので、鼻から大きく息を吐き、アリスは試しに《元の姿へ》、と念じた。

「戻った」

「それでは落としかねんな」

マッドハッターが時計を握り、再び開くとペンダントのチェーンがついていた。

「なんでもありだな」

「元は私の術具だ。おそらくお前もできるようになる」

「そういうものなの」

アリスは首にかけると、時計を服の中にしまった。なんだか、見せて歩かない方がいい気がしたのだ。


ヘンゼルとグレーテルの森は普段と変わってしまった様子だった。いつもより暗く、おどろおどろしい感じが増したように思う。チシャ猫は猫の姿のまま、アリスのそばを離れない。アリスも、自然とマッドハッターの近くに付いた。

「ん?」

異変に気付いたのは、チシャ猫だ。

「誰だ、草むらにいるのは」

「待てチシャ猫」

「ぐえ」

飛び出そうとするチシャ猫を、マッドハッターが引き止める。マッドハッターは、チシャ猫のオーバーリアクションに呆れた。

「そんな力を入れていない」

三人で草むらを覗き込むと、闇があった。チシャ猫はまたしてもよかったぜ、おいらもうちょっとで死ぬとこだった、などという言葉とともにオーバーリアクションを取る。一方、アリスとマッドハッターは冷静だった。二人で闇を見つめる。

「崩壊が始まっている」

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