第4話
アリスの表情が変わり、女王は満足げに微笑んだ。やはりこの娘、面白い。
「勿論だ。マッドハッター」
「はっ」
アリスは森であった時から思っていたが、今日はマッドハッターも様子が妙だ。いつもはもっと調子に乗っているというのに、今日は妙に真面目な様子である。あの姿は何か目的があって作っていたのね、となんだか黒い気持ちがアリスに湧いてきた。
女王に指名されたマッドハッターは、いつも持ち歩いている例の時計を女王に渡す。
「我らの象徴、そして術具だ……《我が名の下、汝、真の主人に姿見せよ》」
時計は光に包まれ、アリスの方へ向かってくる。満足そうに微笑んでいる女王に見られながら、アリスはそれに手を伸ばした。一番上に、羽が生えた時計をつけた杖だった。
「大きさはお前の力を示す。思ったよりは大きいか」
「なによそれ……」
女王の言葉に不満を覚えながら、杖を眺める 。
「チシャ猫、そなたにも」
女王は自らの杖を振る。ハートの宝玉から放たれたその赤い光を……
「なぜかわす」
チシャ猫はひらりとかわした。女王は唇をひくつかせ、怒りをあらわにするが、チシャ猫の態度はいつもとなんら変わりがなかった。緊張感がチシャ猫により多少和らぐのを場に居るものが感じる。
「なにされっかわっかんねーもん!」
「人形を与える。アリスについていけ」
今度はおとなしく光を浴びて、人間の姿をあらわす。男の姿だ。襟に女王の杖についている宝玉に似せた、ハートのブローチが付いている。彼は不思議そうに手足を動かしたり服を引っ張ったりした。
「元の姿に戻れねーの?」
「案ずるな。念じれば猫に戻れる」
いつものペースを崩さないチシャ猫の様子に、あきれながら女王が言う。
「こっちの方が身軽でいいぜ」
女王のアドバイスを受けると、チシャ猫は早速元の姿に戻りフヨフヨとアリスの周りを泳ぐように動き回った。
「アリス、マッドハッター、チシャ猫、そなたらに命ず、我らが領地ならびに友の領地を守れ。マッドハッター、まずはヘンゼルとグレーテルの森へ報告はお前に任せる」
「御意」
マッドハッターが帽子を脱ぐ。帽子が彼の術具らしかった。アリスは興味津々のチシャ猫を抱え、帽子を覗き込めば、その帽子の中へと吸い込まれる。
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