第2話
「アリス、無事だったか」
「チシャ猫」
いつもは霧のような言葉しか吐かないチシャ猫が、心配してくれたことが意外だった。それほどの緊急事態が起こっているようだ。ふざけた笑みも今日はない。
「森は危険だ。住人も消えているらしい」
「青虫は」
「あいつぁ大丈夫さ、どこ行きゃいいかちゃんと知ってるからよ。今はマッドハッターんとこだ」
危ないのは森だけということか、とアリスは理解した。
「何かみたのか」
「ヘンゼルが、消えた」
チェシャ猫の眉が上がる。アリスは先ほどの光景を思い出して、血の気が引いていくのを感じた。チシャ猫は大きな目をさらに大きく見開いた。黄色い目がギラギラと光る。
「なんだってヘンゼルがこっちに。あいつらは領地を超える力がないはずだ」
「森に一体なにが起こっているというの」
不安げに森を見つめるアリスとチシャ猫の元に現れたのはマッドハッターだ。突然現れたということは、ハートの女王により遣わされたようだ。彼は女王の術式によって許可が出れば土地を超えられる。
「二人とも無事だったか。女王がおよびだ」
安堵した様子のマッドハッターに連れられ森を迂回し、一行は女王の森を目指す。彼女ご自慢の赤いバラが咲き誇る庭園を抜け、門をくぐる。トランプの兵たちに恭しく迎えられ、謁見の間へと彼らは向かう。
いつもと変わらない風景の中、トランプの兵が減っていることにアリスは気づいた。妙だ。庭で手入れをしていた兵も少ないように見えた。危機は、この城にまで及んでいる様子だ。最近は何かに時間をとられ、例の命令を下すことも少なくなったと聞いていたのに、これほどトランプ兵が少ないのは奇妙以外の何事でもなかった。
「また減ったな」
同じことに気づいたのか、マッドハッターが隣で呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。