第4話
「ばーちゃん! アイス!」
雑多な駄菓子屋で、いつものように活発な声が響いていた。
店主はその声を聞き、やっぱりいつものように一本アイスを差し出す。
「ばーちゃん。今日は違うけん! 二本! お金はまんが家が出してくれるってゆうとった!」
「お前なあ……」
「女の子待たすのがいけんのよ! ばーちゃんもそうゆっとったもん!」
得意げに店主に同意を求めるひなと、それを聞いて首を縦に振る店主だった。俺は衣嚢から二百円を取り出し、アイスを二本買う。
ひなはそれを両手で受け取った後、たたたと小さな足を器用に使って俺の元までやってきた。
「まんが家! ひなのおごり!」
でん、と胸を張って左手に持っているアイスを俺に差し出す。俺は苦笑しながらそれを受け取り、「ありがとう」と言った。元はと言えば俺の金なのだが、それを言うのが無粋であるということくらいは理解しているつもりだ。
二人同じ動作でパッケージを開けて、中身を口に含む。アイス特有のあまったるさが口内に広がる。四本目のアイスだったが、美味しかった。
「まんが家! さっきなに描いとったと? 眠ってたけ、わからんかった」
悲しそうに俯く姿を見て、俺はひなの頭をごしごしと撫でまわす。「それ前から思うとったけど痛いけん」というセリフは聞こえなかったことにした。
「秘密だ」
「ひみつはいけんよ、ひなとの間に隠し事はなしってきめたろ?」
「決めてねえよ」
ぐるると獣に似た唸り声で、描いていたものを見せろと言ってくるひなを見て笑う。
仕方ないな、と幸せの溜息を吐いた後、俺は鞄からスケッチブックを取り出し、先程のページを両端を持ってイラストがよく見えるように開く。
「ひ、ひながいる……! ひながふたり……! まんが家! 絵うまい! すきー! ありがとう! だいじにする!」
ひなと海が画一面に描かれているそれを大事そうに抱きかかえ、今にも泣き出してしまうのではないかという程に喜びを表現するひな。
俺は、これが好きだったのだ。
人に喜んでもらえるのがうれしくて、絵を描いていたのだ。
「あげるとは言ってねえ」
うるうると瞳に涙をためるひなを見て、店主が「女の子ば泣かしちゃいかんばい」と小さく呟く。
いたたまれなくなり、本当に上げるつもりはなかったが「嘘だ、やるよ。大事にしろよ」と言った。言わされた。
あれは、東京に帰った後もここでの生活を思い出す為に描いた絵だったのに。
しかし、何故だかまあいいか、とも思っていた。
俺はアイスをさほど味わいもせず胃に流し込み、その結果を確認する。
「まんが家ー。あたった?」
一つ迷って、目を瞑った後、
「うん。あたりだ」
と言って、俺は大きく「ハズレ」と書かれたアイスの棒をゴミ箱に捨てた。
五本目のアイスの味は、やっぱりそれほど美味しくなくて、何故だか少し、涙が出た。
はずれの真相。 如月凪月 @nlockrockn
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