第2話 幼馴染に失恋した?

「こ、これは、いったい?」

 確かに俺のアカウントからメッセージが送られている。

「誰かが俺のアカウントをのっとったんだ!」

「メッセージが送られた時間は、昨日の20:14だな。その時、お前は何をしていた?」

「20:14か。夕食の後だな」


 何をしていたか思い出そうとした俺だが、あれっ? そう言えば、昨日は夕食を食べた記憶がない。というか、夕方以降の出来事が思い出せない。


 いやっ、そもそも夕方どころか、朝からの記憶がないぞーー!!


 押し黙った俺に、翔太が声をかけた。

「どうした?」

「いや、昨日の記憶がないんだ」

「なにっ?」

「まじで、思い出せない」


 本当に思い出せない。俺は、昨日、何をしていたんだ?

 ……。


 これは、もしかすると、例のやつか?

 入れ替わって、誰かが俺の体を使ったのか!?

 俺の記憶では、昨日は水曜日だ。確かめてみよう。


「おい、今日は何曜日だ? もしかして金曜か?」

「いや、木曜だけど」

「本当に木曜か? 金曜じゃないのか?」

「だから木曜だって。お前、大丈夫か?」

「昨日、俺、変じゃなかった? なんか、動作が女っぽくなかったか?」

「いや、特に普段と変わったところは無かったけど」

「だとすると、入れ替わりってことはないな」

「入れ替わり? お前、何を言ってるんだ?」

「本当に昨日の記憶がないんだって。だから、てっきり、どこかの女が俺の体を使って、バイト先の先輩に告白したのかと……」

「お前、バイトしてないだろうが」

「確かに」

 言われてみれば、俺はバイトなんかしてないな。


「ようするに、失恋のショックで記憶を失ったってとこだろう。何もかも忘れたくなるぐらい、よっぽど辛かったんだな」

「そんなバカな!」

「そんなバカなって言われても、入れ替わりよりは、ありえるだろうが」

「いや、しかし」

「よく考えてみろ。お前は誰に振られたんだ?」

「いったい、誰に?」

「そんなこと、俺にわかるわけないだろうが!」

 そりゃそうだ。俺にもわからないんだから、翔太にわかるわけがない。


「そもそも、お前は、誰が好きだったんだ?」

「誰が好き? 俺は、誰が好きだったんだろう?」

 翔太が呆れ顔をした。


 俺は好きな女を思い浮かべる。しかし、改めて考えると、特に、これと言って思い浮かばない。


「うーん、特にこれと言って、好きな子はいないなぁ」

「お前なぁ」

 翔太が、信じられない、という顔をする。


「しいて言えば、美波かなぁ」

「しいて言えばって……」


 海辺美波。俺の幼馴染で、保育園からの腐れ縁だ。今まで特に意識したことがなかったが、クラスでは結構人気がある。幼馴染に、自分でも気づいていない恋心を抱いていたというのは、よくある話だ。


「同級生に振られたってのは、けっこう厳しいな。毎日、嫌でも顔を合わせるからな」

 翔太が、腕組みをする。


 確かに毎日顔を合わせる。なのに、振られたことを覚えていないというのは、さすがにやばい気がする。


「ちょっと確かめてくる」

「大丈夫か?」

 俺は意を決して、美波が友達と話している席に向かった。


「美波、ちょっといいか?」

 付き合いが長いせいか、美波とは、女子と話すというよりも、男と話すときと同じ用な感じで気楽に話せる。

「なに?」

 美波もまた、俺に対して、気安い態度をとる。


「昨日のことなんだけどさ」

 俺が話し始めると、クラス全体が、シーンと静まり返った。おいおい、俺が振られたって、みんな知ってるのか? 翔太のやつめ!


 俺は思い切って尋ねた。

「もしかして、俺、お前のこと、好きだったのかな?」

「はぁっ?」

「幼馴染って、いつの間にか、好きになってることってあるだろう?」

「ふ、ふざけんな!」

 美波の顔が、今まで見たことのない怒りに染まる。


「振られたからって、次の日に、別の女の子の告白するとか、何考えてんのよ! もしかして、幼馴染の私だったら簡単になびくとか思ってる? 幼馴染を、いつの間にか好きになる? あんた、二次元と三次元の区別付いてないんじゃないの! 悪いけど、私、あんたのこと、そういう目で見てないから」

 あれっ? 美波じゃなかったのかな?


「やっぱ、そうだよな。俺もおかしいって思ってたんだ」

「はぁ?」

「うん。やっぱ、付き合いが長いと、そういう目で見れないよな。俺も、そう思うわ」


 グワシ!

 美波の右ストレートが、俺の顔面に命中した。


 振られた相手が、美波ではないことは、わかった。

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