失恋、魔法使い、涙

野口マッハ剛(ごう)

魔法使いの女の子、ピンク色の水晶

 俺は目が覚めて、しばらくベッドの上でボーッとしていた。昨日はなんかあったっけ? 頭が段々とさえてきた。あー、そうだった。そういえば、そうだった。俺は昨日女の子に告白したけど失恋した。

 どれだけ勇気がいるかわかる? 俺は昨日、好きな女の子に告白をしてダメだった。そういえば、それから泣いていたっけ? なんでだよ、って。

 でも実はその子が俺のことを気遣って断ったらしいんだ。どういうわけかって? 俺は、それを聞いて女の子ってみんなそうなのかって思ったけど。

 他の女の子が俺のことを好きだという理由。それで俺は本命である好きな女の子から断られた。けれども、俺は納得がいかない。あー、なんでだよ?

 俺はどうすればいい? 好きな女の子に告白して失恋して、結果は他の女の子が俺を好きだということ。

 俺は学校に行く準備を始める。


 学校に着くと俺は体が重たく感じてきた。この校門がこれほどまでに俺の心をしんどく思わせるとは思いもしない。あー、なんでこんなに苦しいんだろう? なんでこうなったんだろう?

 廊下を歩いて教室に向かう途中だった。あの本命で好きな女の子とばったり会った。おはよう、そう挨拶をしてみるも、女の子は無反応で通り過ぎて行った。え? なんで?

 すると、クラスメイトのとある女の子が俺に挨拶をしてきた。あー、この女の子のことかなぁ? パッと見て可愛い女の子。でも俺はさっきの女の子の方がいいんだよね。適当にその女の子に挨拶をして教室に入った。

 その日の授業は、まるで聞き取れない、集中できなかった。ちょっと泣きたくなってくる。おはよう、それさえも言ってくれないなんて。もう本命の女の子は諦めた方がいいのかなぁ?

 それから俺は下校中。もう忘れようかな。あー、人生ってこんなことばっかりなのかなぁ? 俺はそう考えていた。

 すると誰かとぶつかってしまった。俺は急いで謝った。え? けっこう可愛い女の子だなぁ? 同い年ぐらいの女の子。でも、ちょっと様子がおかしかった。ニコニコしていて、相手は何も言わない。俺は警戒して通り過ぎた。しばらく歩かない内に、また誰かとぶつかってしまった。え? 俺は自分の目を疑った。さっきの女の子だった。またニコニコしている。

「あの、あなたは誰ですか?」

「私かなぁ? 私は魔法使いだよ?」

 あー、わかった! これはヤバい女の子だ。俺はさっさと通り過ぎた。しかし、ニコニコしている女の子が一瞬で目の前に現れた。え? どういうわけだ?

「これでわかったかなぁ? 私は魔法使いなの。あなたの片思いを助けてあげよう!」

 え? 魔法使い? え? 何が起こっているんだろう? え? というより、今なんて言ったの?

「あの、魔法使いさん? 俺の片思いを助けてくれるって本当になの?」

「うん、そうだよ? その代わりに、私に恋をしてはダメだよ? あ、ルールを破っても大したことはないよ?」

 いや、ちょっと待って? 魔法使いなわけがないよね? だとしたら、このニコニコしている女の子はいったいなんなのだろうか?

「それじゃあ、また明日のこのぐらいの時間に会おうね!」

 すると、ニコニコしている女の子はボンッと音を立てて消えた。え? 今のなんなの? 俺は何も考えずに家に帰った。


 今日も学校に行く。本命の女の子に挨拶してもなんの反応もない。それでもって、別の女の子から挨拶をされる。なんなの? なんだか泣きたくなる。

 挨拶をしてほしいのは、本命の女の子からだ。それなのに、本命の女の子は俺に冷たい。今日の授業も集中できなかった。俺はさっさと下校することにした。

 あー、人生ってこんな感じなのかなぁ? しばらく考えて歩いていた。ドンッ、また誰かとぶつかってしまった。俺は謝った。そのあとに、ニコニコしている女の子を見て、昨日のことを思い出した俺。

「ねぇねぇ、今日も暗い顔をしているね?」

 うるさいな。しかし、この目の前に現れた女の子は魔法使いだと名乗っていた。うーん、本当に助けてくれるのだろうか?

「あのさ? 魔法で俺の片思いの女の子を振り向かせてくれるの?」

「うん! そうだよ? ただし、簡単には叶えないよ?」

 うーん、簡単には、かぁ。いや、でも、魔法使いの女の子らしいから、ここは助けてもらおうかな?

「それじゃあ、俺は何をしたらいいの?」

「そうだね? 私の家の手伝いをしてほしい」

 ふーん? 魔法使いの家ってどんなのかな? 想像してみる。お菓子の家かなぁ?

 俺は手伝いを引き受けた。そして、魔法使いの女の子について行く。ちょっと歩いて、すぐにその家に到着した。え? あれ? 意外と普通の家だなぁ。

「それじゃあ、私の家の掃除をお願いするね!」

 仕方がない、ここは素直に掃除をしよう。うーん、本当に魔法使いの女の子なのかなぁ? そもそも、魔法使いっていうより、俺を手伝わせたいだけじゃないかなぁ? いや、でもなぁ。うーん。


 魔法使いの女の子の普通の家の手伝いをさせられる俺。それも学校が終わった夕方に。手伝いと言っても、そんなに難しくなかった。というより、魔法使いの魔の字もないような手伝いばかりだった。ゴミ出しとか料理の味見とか、至って普通の家のすることだった。

「魔法で本命の片思いの女の子を振り向かせてみたいんでしょ?」

 ニコニコして魔法使いが俺をコキ使ってくる。あー、だまされているのかなぁ? しかし、そんなことよりも本命の片思いの女の子のことを考える俺。ちょっと我慢すれば、俺の人生が変わる!

「ねぇ? 何をニヤニヤしているの?」

「え? なんでもないよ!?」

 俺は慌てて魔法使いの女の子にそう言った。


 ある日の夕方。

「ねぇ! 魔法で片思いの女の子が振り向くようにしたよ?」

 俺は半信半疑でそのことを聞いた。うーん、本当にこの魔法使いの女の子は魔法使いなのだろうか?

「あ、ありがとう? それでは今日は帰るよ?」

「あ、ちょっと待って? このピンク色の水晶を受け取って!」

「何これ?」

 受け取ったピンク色の水晶は小さな玉だった。

「私が魔法を使うとピンク色の水晶が出てくるのだ!」

 えっへんと魔法使いの女の子はそう答えた。

 本当かなぁ?

「わかった! また来るよ!」

 俺は魔法使いの家を出た。あー、ちょっと暗くなってきたなぁ。とぼとぼと歩いて帰る。

 すると、目の前に本命の片思いの女の子が現れた。びっくりして俺は言葉が出なかった。本命の女の子は急にこう俺に言った。

「あの、好きです! 付き合ってください!」

 え?! どういうわけ? え、ということは、あの魔法使いの女の子は本当に魔法使いだったのか?

 俺はその場で逆告白に「うん、付き合おう!」と言った。信じられない、まさか魔法が本当にあるなんて。夢でも見ているんじゃなかろうか?


 デートは何回かした。いろんな場所へ行った。手を繋いでお互いに笑顔。本命の付き合っている女の子と何も不自由なくデートをした。

 でも、ある日に付き合っている女の子と些細なことで口げんかをしてしまった。俺はちょっと意地を張ってしまった。すると、女の子は「子どもっぽいから私の気持ちが冷めた」と言って別れることになってしまった。

 なんだよ? 魔法で女の子は俺のことが好きだったんじゃないのかよ? 俺は久しぶりに魔法使いの女の子を思い出した。そうだ、文句でも言いに行ってやろうかな?

 俺は久しぶりに魔法使いの女の子の家に行った。一部始終を魔法使いに話した。けれども、相手は謝るどころか、こう俺にニコニコしながら言った。

「そうなんだ! 元気を出しなよ!」

 俺はちょっとだけ、意地を張っていたのを改めた。そうだ、俺は魔法使いの女の子の魔法に頼りきっていたんだ。だから、失恋をした。

「また、これからもよろしくね?」

「うん、わかった」

 俺はそう答えた。

 あれ? ちょっとだけ、優しい魔法使いの女の子のことが好きになりそうだなぁ? でも、言っていたよなあ、私に恋をしてはいけない、って。でも、ルールを破っても大したことはないって言っていたような?

「それでは、家の手伝いをお願いするね?」


 俺は魔法使いの女の子と過ごす時間が増えた。学校が終わってから魔法使いの家に行った。手伝いをしながら魔法使いの女の子と楽しく話していた。ちょっとずつ、いつの間にか魔法使いの女の子のことが好きになっていった。

 それから、魔法使いの女の子に夢中になった俺。胸の中が彼女のことでいっぱいになった。とうとう俺は魔法使いの女の子に思いを伝えていた。

「バカだね、私に恋をするなんて」

 すると、魔法使いの女の子が消え始める。

「え、どうして?」

 俺はびっくりした。

 半透明の彼女は泣きながらこう言った。

「私に恋をしてはいけないって言ったでしょう? 人間と魔法使いは一緒にはなれないの。でも、楽しかったよ! ありがとう!」

 魔法使いの女の子は姿を消した。


 次の日の朝。

 俺は起きられずに、手の内にある魔法使いの女の子が渡してくれていたピンク色の水晶を見つめていた。

 そして、俺は涙をひとすじ流した。

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