第7話 証明(下)
そんなラジを見て、フェリアは頭を抱える。
ラジは至極まともな答えを返したつもりであるが、フェリアはそれを冗談の類と受け取ったらしい。
会話に齟齬が生まれるが、ラジがすぐにそれを修正していく。
隠せるのであれば最後まで隠し通したかったのだが、そこまでして知られたくない秘密というわけでもない。それに、相手はフェリアなのだ。情報を悪用することもないだろう。とラジは結論付けて、これまでの行動を洗いざらい告げる。
迷宮で死にかけたこと。スライムを食べたこと。食べたことによってスキルポイントが付与されたこと。全てフェリアに伝える。迷宮内のモンスターも、空気を読んでなのかラジを恐れてなのか、恐らく後者だろうが、話している最中に出てくることはなかった。
フェリアはその端正な顔を真っ青に染め、ラジの言葉をなぞる。
「モンスターを食べたって、本当?」
「ええ、本当ですよ。生って言い方もおかしいですけど、そのまま食べるより焼いて食べたほうが良いですね。そのままは食べれるものじゃないです、あれは」
ラジはモンスターの美味しい食べ方についてレクチャーした筈なのだが、フェリアが食いついて来たのは別の部分だった。
「ラジくん。それ、今すぐやめたほうが良いわよ。なんでラジくんが今生きているのかは分からないけど、普通の人はモンスターを口にした瞬間死ぬのよ、拒否反応でね」
「え!?」
ラジは自分の体をべたべたと触る。しかしどこにも違和は無く、内傷も無かった。これから発症するのかもしれないが、少なくとも今は何もない。
そんなラジを見て、フェリアが言う。
「ステータス教えてくれない? 冒険者にこんなこと聞くのは御法度だってわかってるんだけど」
フェリアの言う通り、冒険者にステータスを聞くのは、この世界においてタブーとされている。何故なら、ステータスを広められてしまえばその人の冒険者としての生活が危ぶまれるからである。もし仮に弱ければ搾取の対象とされてしまうし、逆に強ければ良いように利用されてしまう恐れがある。その為、この世界においてステータスは開示してはいけないものとされている。ギルド職員が持つ鑑定スキルでさえ、検閲可能なのはレベルと名前のみだ。
しかしラジがそんな世界の常識を知るはずもなく、彼は流暢にステータスを告げる。フェリアはそれを、自分を信用してくれているからこそであると受け取り、ラジにばれないように頬を染めた。
『ラジ・リルルク レベル1
攻撃 330/999
防御 300/999
幸運 1/999
魔法 110/999
召還 1/999
耐性 999/999 』
これが今のラジのステータスである。美食家という自称は伊達ではなく、スライムを美味しく食せるようになってからは、その量も増加していた。その為、ラジは今、まだ使用していないスキルポイントも多量に所持している。
フェリアはラジのステータスを聞いて、なにかを納得したかのように頷く。
ラジはその頷きの意味が分からず、解説を促した。
「色々言いたいことはあるけれど、今は黙っておくことにするわ。……ラジくんのこの耐性って、元々あったもの? それとも後からスキルポイントを使って強制的に上げた?」
「いえ、この耐性だけは初めからこの数値でした」
「多分、ラジくんが死ななかった理由はそれね。モンスターに対する耐性が異常に高いから、死ななかった。モンスターが持つ毒を体内で解毒できた、って感じかな」
「……なるほど」
ラジは納得する。だから僕は魔物を食べてなお生きているのか、と。
フェリアの話を鵜呑みにするのならば、この方法で強くなれる人間は限られているということになる。フェリアがこれ程驚いているのだから、相当珍しいのだろう。
ラジはフェリアに向き直し、おおよそ迷宮内での会話とは思えないような口調で問う。
「色々言いたいことってなんですか?」
フェリアは一度逡巡し、ラジならば高慢に浸ることはないだろうと判断してから話を始めた。
「そもそも、一度のレベルアップで獲得できるスキルポイントって1なのよ」
「え? それだけ?」
あまりにも少ないその数値に驚いてしまう。1。その価値を馬鹿にしているわけではないが、レベルアップの対価としてならば些か少ない気がしないでもない。
「ラジくんは麻痺してるかもしれないけど、1って凄く大きいの。魔法を1上げたら一つ魔法習得できるし。ラジくんの攻撃力なんて、既にこのギルドだけなら上位数パーセントに入るわ。経験はさておきね」
「そんなに……」
実感が無い為、雲をつかむような話としてラジはそれを聞いていた。これまで最弱だった自身が上位数パーセントに入っているなど、想像すら不可能なのだ。
「でも、つい最近まで一番弱かったラジくんがこうも成長するなんてねえ……。嬉しいような、悲しいような」
フェリアは、ラジがこのまま遠くへと行ってしまう気がしていた。そもそもラジを気に入っていたのも、最弱冒険者であるが故に、当分はここから出て行かないだろう、だから情を持って接してもいいだろうと、そういった考えの元だったのだ。
そんなラジが急激に成長している。喜ばしいことではあるのだが、素直に受け入れられない自分もいる。
ラジはそんなこと気にする素振りもなく、もう全て伝えたから隠す必要などない、と言わんばかりの勢いでブルースライムを食していた。
思い出したかのようにラジは食事を中断し、フェリアを見る。
「次の迷宮探索、行ってもいいですか?」
ここまでの力を見せつけられて、今更断るわけにもいかず、フェリアは髪をかき上げて溜息を吐きながら、「いいよ」とラジの探索を許可した。
瞬間、ラジは食事へと戻る。
「というか、僕ってそんなに強かったんだなあ」
口いっぱいにブルースライムを頬張ったラジのそんな呟きは、迷宮の風に流されてかき消された。
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