2. まほう
ここからは、私の過去について語りましょう。
開国の影響なのか西洋風の建物が増えてきた頃です。私は、今日咲かせる予定の薔薇を処分するために散歩をしていました。
私が無防備に街を眺めていた時、知らない人に背後から声をかけられました。
「こんにちは、お嬢さん」
私としたことが不覚です。背中を取られた上に、話しかけられるまで気がつかないなんて。だって私は多くの恨みを買っているのですから、次は刺されるかもしれません。反省は後ですることにしましょう。今は素早く的確な応答をすることが優先です。
驚いた顔をすると主導権を握られかねませんので、ここはポーカーフェイスで振り向くことにします。
振り向いた瞬間、私のポーカーフェイスは崩れました。そこには、日本人離れした美少年の姿があったからです。年は20歳前後くらいでしょうか? そしてなによりも印象的なのが、私と同じ藤色の目です。同じ眼をしている人がいたことに驚きを隠せません。私は、この眼のせいで幼い頃から虐げられてきました。だから、みんなから好かれるように立ち回りや世間体を気にするようになったのかもしれません。
「あ、驚かせちゃったかな?」
「失礼しました。私と同じ綺麗な藤色の目だなと見とれてしまっていました」
これは本心です。よく言うじゃないですか? 嘘は本心に混ぜればバレにくいって。だから、出来る限り嘘はつかないようにしているのです。
「ありがとう。僕の目、そんなに珍しいものかな?」
「私以外に藤色の目をしている人を見たことがなかったもので。綺麗な色で気に入っています」
私の返しに対し、彼はその綺麗な顔をクシャッとさせて、子供のように笑い出しました。馬鹿にされているのでしょうか? なんだか腹が立ちます。
「お嬢さん、自尊心相当高いでしょ」
「そうかもしれないですね。けれど、まずは私自身が愛さないと他人にも好かれないと思ってますので」
「その通りかも。ポジティブでいいね。僕の妹も同じようなことを言ってたな。よかったら名前を教えてくれない?」
どうやら馬鹿にされているようではなさそうです。どちらかというと、慈愛の眼差しを向けられているという方が正しいような気がしてきました。こう、兄が妹に接する時のような。
私には、家族から愛されるような経験はなかったので、悪い気はしません。足元を見られているような気もしますが。だから、答えてしまったのでしょう。
「真田...。私は、真田いちかです。この街の長のようなものを代々勤めている家の、一人娘です。時代も移り変わりましたので、実権はありませんがね。お見知りおきください」
「呼び方はイチカちゃんでいいかな? 僕は、テスラ・エクリエル。この街に学生として来たんだ。父はそこの牧師をしてる。真田さんね。ご令嬢さんと会えるなんて神のお示しかな」
「牧師さんといいますと、そこの教会のですか? 外観の華美な装飾が素敵です」
「よかったら入ってみる? あ、もちろん見ての通りまだ完成していないんだけどね」
当初の散歩の目的とは違いますがこんな日があっても良いでしょう。未完成の領域に入ることができる。これはそうそう出来る経験ではありません。
ルーティンのお花づくりよりも楽しそうです。
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