復讐の魔女

KACLA −カクラ−

1. サナダイチカ(手記)1887年

 はじめに、これを読むあなたたちに私を知ってもらいたく記します。きっと、私に対して非情に思うことでしょう。けれどそれは、あなた方大多数の物差しでしかありません。

 どうか、これを読んだあなたは私に”普通”を押しつけないでください。


 この手紙を読んでいるあなたは、いつの時代を生きているのでしょうか。 

 私がこれを書いてから案外すぐに見つかっているかもしれませんし、100年。150年いや、その頃には読めなくなってそうですね。

 どちらにしても、この手紙が届いている頃には私は消えてしまっているでしょう。覚悟していましたし、受け入れるしかありませんよね。

 だから、これを読んだあなたの心で生き続けたいのです。あなたにだけは、私という存在を肯定してほしいのです。


 さて、この手紙を書いている人物は誰なのかを明かしましょう。それは私です。冗談です。それじゃあ分かりっこないですね。

 私は、1871年にとある領主の元に生まれました。いわゆる名家の娘です。そして、17歳でイギリスに渡り、歴史に残る大事件を起こしました。もちろん、今も未解決のままです。

 まあ、この話はまた後でするとして。小見出し通り1887年の日本での生活を書いていくことにしましょう。ということで、語りたいことは山々ながら今度はその2年前の話を聞いもらいたく綴ります。


 16歳になった私は、結婚をしなければなりませんでした。なぜなら私の家は、そこそこお金を持っていたからです。祖父は、とある領主でした。だから私には、身分という血統書がついています。けれど、いつまでもそれに縋っているわけにはいきません。時代に追いつけなくなります。

 そこで、両親は娘を華族、つまりは貴族階級の男性のもとに嫁がせようとしました。私は、周囲から容姿を褒められていたのと家柄に自信があります。だから、すぐに相手が見つかりました。彼とは歳が20歳ほど離れています。けれど、どんなに鳥肌が立っても、私に拒否権はありませんでした。しかし、私にはなぜか魔法が使えます。薔薇を咲かせる魔法です。

 これが私の人生を大きく変えることになるのです。私は一生懸命彼の魅力を見つけようと努力しました。だけど思うのです。華族なのに30半ばまで結婚できていないのは、魅力がなさすぎるからです。そんな人、私にふさわしいはずがありません。けれど、鑑賞物としての価値はあります。だから私は彼の喉元を掻っ切り、薔薇の噴水に仕立てました。

 血のついたナイフを利き手で握っていた彼は、自死として片付けられ、結婚は破綻となりました。魔法のカラクリは糸だったんですけどね。



 さて、想定外はここからです。なんとお葬式に行かなければならなかったのです。でも考えてみれば当然ですね。だって、婚約していたのですから。

 周りは泣いています。けれど私は、悲しいどころか何も感じないのです。むしろ美しさに感動を覚えた程です。

 きっと私は異常者なのでしょう。気づきたくなくても分かってしまいます。婚約者の喉を掻っ切って平気でいられるのです。普通なら実行できないですね。なにせ私と違い、普通の人には度胸がないのです。いつも通り何も知らないふりをしていれば疑われないというのにです。

 さて、話を戻しましょう。ここでは悲しむのが正解です。なぜなら、悲しまないと村八分にされてしまうからです。だから今は、彼を悼む演技が必要です。幸い涙もろかった私は、その薔薇を思い出して涙ぐむことができたのです。こうやって私は”普通”を演じていました。16年も演じていたらそろそろ飽きてくる頃合いです。そんなとき、教会の前で彼と出会いました。

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