第10話 架け橋 その三
あきらかに、サンダリンは龍郎と青蘭の存在を認めた。そして、害するために捕まえようとしている。
それはそうだ。サンダリンにとっては、龍郎も青蘭も憎い敵だ。彼の翼を片方ずつ、もぎとっていった相手なのだから。
龍郎は青蘭の前に立ち、神剣をかまえた。今度こそ守ってみせる。目の前で恋人を喰われるなんてこと、もう二度とゴメンだ。
だが、そのときだ。
中央の塔近くから、もう一つの巨大な何かが現れた。
見ているうちに大きくなって、サンダリンに突進していく。
女王だ。
巨体のサンダリンをひきとめることは、もはや普通の戦闘天使にはできない。この巣のなかでそれができるのは、同じ体格の女王しかいない。
「女王がサンダリンをなだめにきたかな」
「なだめるなんて生やさしいものじゃなさそうだけど?」
青蘭の言うとおりだ。
女王はいきなり、しがみつくと、その勢いで、サンダリンの首にかみついた。緑色の血がしぶいて、あふれる。サンダリンの口から悲鳴があがる。
女王はサンダリンをひきとめに来たわけじゃない。殺しにきたのだ。
サンダリンの肉を食いちぎると、両手で首をしめる。
サンダリンは抵抗した。
女王の手をはらいのけ、つきとばす。
しかし、サンダリンは昨日から大量の血を流し、傷ついている。急激な身体の変化も彼から体力を奪っているようだ。動きが鈍い。力も思うように入らないふうだ。
それを見て、龍郎は言った。
「サンダリンに加勢しよう」
「サンダリンは敵だよ。女王がいなくなったら、今度はこっちを襲ってくる」
「そうだけど、女王を倒せるかもしれない。チャンスは利用しないと」
話していると、サンダリンが女王になげとばされた。巨体が子どもたちの塔に、まともに衝突する。塔がゆれて、上半分が傾いた。どこかにヒビが入ったらしい。
龍郎と青蘭はななめになった床の上を、ズルズルとすべる。
「青蘭!」
「龍郎さん——」
ここまで来て、こんなところで、青蘭を失うわけにはいかない。
すべり落ちながら、龍郎は青蘭の腕をつかんだ。
女王は怒りに目がくらんでいるのか、塔が破壊されても、サンダリンへの攻撃をやめない。
倒れているサンダリンの首をつかみ、何度も塔の外壁に頭を打ちつけた。
そのたびに塔はグラグラと揺れる。
ついに、何度めかの振動で、塔が崩れた。二つに折れ、上部が暗闇のなかへ落下していく。
塔の屋上にいた龍郎たちは、とうぜん、それにともなって空中になげだされた。抱きあいながら落ちていく。
いくら霊体でも、数十メートルの高さから落下すれば、追突の衝撃で失神してしまうだろうか?
いや、それよりも青蘭は生身だ。
この高さから落ちて、無事ではいられない。
(くそッ。せっかく、ここまで来たのに……)
龍郎が視線を送ると、青蘭は微笑む。
龍郎といっしょなら、死んでもいい——瞳がそう語っている。
悲しい気持ちで、青蘭の体を抱きしめる腕に力をこめたときだ。
急に落下の速度がゆるくなった。ふわりと体が軽くなる。
「手を焼かせないで。今がチャンスよ。早く、わたしとの約束を果たしてちょうだい」
ルリムだ。
ルリムは大きく羽ばたき、龍郎と青蘭を地面におろした。龍郎は精神体だから、重さは見ためほどないのだろう。
「ありがとう」
「お礼なんていいから、早く」
まだ子どもたちの塔の魔法媒体を壊していなかったが、しかたない。媒体の乗った台座は、サンダリンと女王が組みあう、ちょうど、まっただなかの床の上に落ちてしまった。位置的に龍郎たちの場所からは、女王とサンダリンの奥だ。あれでは近寄れない。
「一の世界で、おれの攻撃はわずかだけど、女王に効いた。魔法媒体が半分になった今なら、以前よりも与えるダメージが強いかもしれない」
サンダリンが女王の気をひきつけてくれている今なら、すきをうかがって近づくことができる。
さらに運がよければ、そのまま女王とサンダリンのあいだを通りぬけ、落ちた魔法媒体のところへ行けるだろう。
「よし。行くよ。青蘭は——」
「もちろん、いっしょに行く」
「……わかった」
ルリムは肩をすくめる。
「わたしは遠くから見てるわ」
「ああ。いいよ。それにしても、なんでサンダリンは暴れてるんだ?」
「さあ。知らない。あなたたちの感覚で一時間くらい前。わたしと手を組まないかって話を持ちかけてみたの。でも断って、どっかへ行ってしまった。たぶん、あのあと、女王の塔へ行ったんだと思うのよね」
「なるほど」
女王と仲たがいしたということだろうか?
とにかく行ってみる。
青蘭とともに、物陰を利用しながら女王たちに近づいていった。あたりには戦闘天使の死体がゴロゴロ転がっている。龍郎も青蘭もパイプの武器をひろう。
「これで攻撃手段が確保できた。青蘭は、もしできそうなら、女王たちのあいだをすりぬけて、魔法媒体を壊しに行ってくれないか」
「龍郎さんは?」
「サンダリンに加勢する」
「……わかった。でも、龍郎さん。気をつけて」
「もちろんだ。青蘭もムチャはするな」
「うん」
二手にわかれて、龍郎たちは走りだした。
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