第6話 四の世界 その二
「それで、あなたはどうやって、女王を倒すつもり?」
「それは君のほうがよく理解してるんじゃないのか? 女王の塔の周囲の四つの塔が、女王を守っている。それをまず破壊する」
ルリムは、またニヤリと微笑する。
龍郎を試したようだ。
「人間のくせに、けっこうわかってるのね。おもしろい男」
「協力するんだろ? 君のほうも情報をくれないか?」
「四つの塔はそれぞれ、幽閉の塔、王女の塔、賢者の塔、子どもたちの塔と呼ばれている。幽閉の塔は別名、王子の塔とも言う。それぞれの塔の頂きに、女王を守護する魔法の媒体が飾られている」
「魔法の媒体……か。それは、どんなものだ?」
「見てのお楽しみじゃない?」
教えてくれる気はないらしい。
だがまあ、それだけでもわかればいい。
「媒体を守る天使がいるんじゃ?」
「いるわよ。もちろん。だから、わたしが手を焼いてるんじゃないの」
「なるほど」
龍郎は二の世界でのことを思いだした。龍郎の攻撃をはねかえし、撃ちかえしてきた戦闘天使。ひときわ体が大きく、背中に翼を有していた。
「翼のある戦闘天使は、どのくらいいるんだ?」
「サンダリンのことね。有翼の天使は奇形よ。彼一人しかいない」
「そうか。あいつだけなのか。ものすごく強いだろ?」
「強い。ものすごく」
それは気配からも感じた。
油断ならない殺気を放っていた。
ことによると女王より、やっかいかもしれない。
「奇形ってことは、ふつうの天使には羽がないのか。なんで、あいつだけ羽があるんだ?」
「彼は男のできそこない。ほんとは男に生まれるはずだった」
「ふうん?」
とにかく、強敵が一人しかいないというのは助かる。
「魔法の媒体を破壊したら、次の祭までに修復できるのかな?」
「ムリでしょうね。かわりの媒体が必要になる」
「じゃあ、今すぐ、この塔のてっぺんに行こう」
「いいけど。わたしは案内するだけだから」
それは、いたしかたあるまい。
この協定は信頼の上に成り立っているわけではない。たがいの利害が一致しているというだけだ。ルリムが危険を冒したくないのは当然だろう。
「いいよ。案内してくれ」
龍郎一人では女王を倒すことはできない。女王を倒すためにはアンドロマリウスの力が不可欠だ。だが、青蘭がさらわれてくるまでに、四つの塔をすべて破壊しておけば、女王を退魔するのがそのぶん楽になる。
ルリムの部屋は塔のなかほどにあった。その上にも十以上の同様の扉がある。
「このなかにも誰かいるの?」
「お姉さまたちがいるけど、無害ね。お姉さまたちは、とっくに女王に忠誠を誓ってる」
「女王に忠誠を誓うと無害になるのか?」
「夢につながれてるから」
「夢?」
ハッとした。
その状態は幽閉の塔に囚われていた青蘭の状況に似ている気がする。
だが、たずねる前に、頂上についた。
スロープのさきに、数段の階段がある。そこをあがりきると、塔の屋上に出た。ドームの屋根がついた屋上だ。中央に守護魔法の媒体になるものが安置されている。
七角形の奇妙な形の台の上に、媒体はあった。
「これが……媒体?」
「そうよ。これが、お母さまを守護する魔法の媒体」
それを見て、なんとも嫌な気分になる。魔法の媒体というから、水晶とか、剣とか、何かしらの物質だろうと予想していたのだが、そこに浮かんでいるのは、龍郎の想像とはまったく異なるものだ。
人間。それも、赤ん坊である。五、六メートルは身長のある巨大な赤ん坊。目を閉じて眠っているように見える。
「これは……女王の子どもなのか?」
「異界からお母さまに捧げられたものよ」
「異界から?」
「そう。だから、強い念が宿っている」
「ふうん?」
まあいい。人の形をしているが、どうやら人間ではない。この巨大さなら、邪神の仲間なのだろう。
「これを撃って」と、ルリムは龍郎のにぎったパイプを指し示した。
「ただし、媒体が傷つけられれば、すぐに戦闘天使がかけつけてくる」
「わかった」
こうして見るかぎり、魔法媒体が何かに守られているようすはない。
ただ、なぜか、その像が妙にブレる。つねに輪郭がゆらぎ、複数の像が重なっているかのように見えた。
「見えにくいな。なんで、こんなに揺れるんだ?」
「この媒体は七つの世界のすべてに同時に存在していると言われている。像が一つに重なった瞬間を狙うの。そうすれば、七つの世界すべてで、この媒体が破壊されたことになる」
なるほど。それなら、毎回、すべての世界で媒体を壊すところから、くりかえさなくてすむ。
言われてみれば、媒体の像がもっともブレている瞬間には、赤ん坊が七人いるように見える。しかし、それも一瞬で、マジシャンの手でシャッフルされるトランプのように流動的で、しっかりと見きわめることが難しい。
(ここは四の世界。ここを含めても四回しか、青蘭をとりもどすチャンスがない。四つの世界で、そのつど四つの塔の媒体のすべてを破壊して、その上、女王をも倒すことは、どう考えても不可能だ。せめて塔の媒体を一つずつでも、確実に七つの世界すべてで破壊しないと)
巨大な赤ん坊にパイプのさきを向け、狙いを定める。
龍郎の手はふるえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます