真白さんが二度とやってはいけないことリスト

「真白さん……それ、何ですか?」

「あら、遥ちゃんから話し掛けてくれるなんて珍しいわね」

いつもと同じ昼休み、のはずだったのですが、私は真白さんが読んでいたものに少し気を惹かれました。といっても、彼女が読んでいたのは無地の真っ黒なノートでしたが、なぜか気になってしまいました。


「これはねえ、兄さんが作った私が『二度とやってはいけないことリスト』、って所かな?」

「……ちょっと意味が分からないのですが」

真白さんはノートをこちらに渡し、

「まあ、文字通りの意味だね。読んでみる?」

私は提案どおりにノートに目を通し始めました。ノートに書かれている字はとても綺麗でかつ読みやすかったですが、書かれていることは少し、いや、かなり変わっていました。


『1.皆が急に黙るのは、‘‘何やってんだこいつ!?,,と思ったからであって、‘‘どうぞ続けてください,,と言う意味ではありません』

「はいっ!?」

「いやーねー、そのリスト私が小学生五年生の時から兄さんが作ってるんだけど、とりあえず空気は読めって意味だと思う」

こんな皆が薄々分かっていることまで事細かに書かなきゃ、真白さんは分からないんですか!?


『26.兄さんの制服を着て学校に行かないで下さい。また、あなたの制服は兄さんの制服の替わりになりません』

「真白さん何やっているんですか!?」

「中学の時にね一回だけ」


『53.兄さんの盗撮写真を使ってネットアイドルごっこをしないで下さい。連携されてあるメールに大量の女性の卑猥な画像が送られてきてとても大変でした』

「本当に真白さん何やってるんですか!?」

「兄さん、家族目で見ても結構カッコいいからねー、ちょっとやってみたかった」

真白さんは自分のことではないのに得意げな笑みを浮かべ、

「フォロワー数、6桁いったんだよねー、消されちゃったけど」

「凄いですけど!凄いですけどやめてあげてください!」

私が兄なら殴ってます!


そのすぐ後に続くように、このような文章が書かれていました

『53.2.ゲーム実況者なら良いというわけではありません』

「そしてその後、兄さんの顔写真アイコンにしてゲーム実況チャンネル作った」

「もうどう突っ込めばいいのやら!」

「ボイスチェンジャー使って私が実況動画上げてたんだー、ネットアイドルやってた効果で一週間で登録者数55000人!」

「もうそれ詐欺ですよね!?」


『68.痴漢されたとしてもメリケンサックでの攻撃は正当防衛になりません』

「兄さんを無理やり引っ張りだして映画を見に行った時、電車で痴漢にあったんだよね。少し触られた時に兄さんが気づいて痴漢の手を離してくれたんだけど、ポケットにメリケンサックがあったのが良くなかったなあ……」

「そもそもなんで女子高校生がメリケンサック持っているんですか!」


『81.‘‘事故,,と言う言葉を言い訳に使ってはいけません』

「これなんでだろうねー、遥ちゃんの胸をつつくのも全部事故なのに」

「何でもです!」


『85.あなたが風邪だとしても、兄さんが出来る身の回りの世話は限りがあります。

あなたが要求したことの内、以下にあげることは出来ません』

『85.1.身代わり出席』

『85.2.座薬の注入』

『85.3.18禁同人誌の代理購入』

『85.4.入浴の手伝い、蒸しタオルで体を拭く』

ここまで読んで私はノートを机に叩きつけました。

「あなたは!自分の兄さんに!何を頼んでいるんですか!」

「まって!これ実際にやってもらったわけじゃないから!」

当たり前です!


「しかもこれ!この後20個ぐらい続いているじゃないですか!」

「困ったことにねーー、頼んだうちのほとんどは断られちゃったのよ。食事の用意と洗濯と私の部屋の掃除、あとは私の宿題の代行とかマッサージとか、私が食べたいもの買って来てもらったり、ゲームの接待プレイとかだねー。その時兄さんに書いてもらったレポートの評価A+の最高評価だったんだよー」

「むしろそれ以上何を望むんですか!」

至れり尽くせりじゃないですか!




もはや肩で息をして何もいえなくなった私に真白さんが話しかけてきました。

「まあ、私には勿体無いぐらいいい兄さんね。90番、読んでみてよ」

真白さんが言ったとおり、90番の文章に目を通します。

『90.周囲の人間と合わないことを極端に気にするべきではありません』

『90.1.また、そのような悩みを一人で抱え込むことを一切禁止します』

『90.2.あなたの兄さんは血の繋がった家族であることを忘れないで下さい』


「……いい兄さん……持ちましたね」

「でしょー?愛されてるって感じるわ。まあ、でもシスコンではないと思うよ?

兄さん、いるみたいだし」

それを聞いた私は、強烈な違和感を覚えました。


「彼……氏……?」

「あっ……やべ、16番の違反したかも」

私は大急ぎで机に叩き付けたノートを開き、16番を確認しました。


『16.兄さんが同性愛者であることを気軽にカミングアウトしないで下さい。また、あなたもそうであることを公表するのは控えるべきです』

真白さんは私をじっと見て、


「あー、ばれちゃったかー」

と意地悪そうな顔でそう言いました。




「何か一緒に帰るって恋人同士みたいだねー」

「友達同士にしか見えてないと思うぞ」

「この後どうする?家に遊びにってもいいー?」

「いや、止めてくれ。……上手くいえないが俺の妹が何かしくじった気がする」


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