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 この世には様々なものが存在している。人の世、動物の世、妖かしの世、虫の世、あの世――。それぞれは其処に存在していても、全てを視れるわけではない。妖かしを視れない人がいるように。人を視れないモノがいるように。隣り合い重なり合って存在している。俺には色の世が視える。

「色の世界…。それは人や妖かしには見えないんですか?」

「稀にいるだろうね。俺みたいに」

「なるほど。それでその、色の悪い虫?というが今回の事を引き起こしていると?」

「おそらくね」

 市役所、病院、学校、オススメの甘味処、図書館、スーパーに警察と村を順番に案内して貰う。学校や甘味処、警察では騒動になっていたようで、狐月よりもさらに大きく厳つい紺色の面が待ち構えていた。額には金色の桜紋がきらりと描かれている。

「狐月、非常事態だ。村の住人から文字が消えるという報告が何件もきている。すぐ準備しろ」

「はい!」

「署内の記録も確認したところ一部消えてるものがあった。全く一体何が起きてるんだ」

「その事で報告があります。こちら昨日越してきた香墨さんです。彼が今起きている事態を収束出来る可能性があります」

「ほう?」

「村を回ってみたら墨そのものの色が消えている、書いてあった文字が消えていた、書いたそばから文字が消えていくという事が起きています。この目で確認しました。これは色喰(いろばみ)という蟲の仕業です」

「色喰…? 初めて聞く名だな。どんな妖かしだ」

「香墨さんは色の世界が視えるそうです。色を喰うと書いて色喰。その名の通り、色を食べてしまいます」

「色喰は本来人や妖かしが使う色は食べず、自然界の色を食べて生きている蟲なんだけどねぇ。どういうわけか人の文字の味を覚えてしまったようだ」

「どうすればいい」

「文字が消えたところにはもう居ないよ。書いたそばから消えるという場所には卵があった」

「卵か。母体を叩く必要があるな」

 桜の面が腕組みをして思考し始めた。しかし考えたところで…。

「問題なのは、それが我々には見えないということです」

「なに?!」

「僕たちは人や妖かしは見えますが、色のものは見えません。実際今日の今日まで知りませんでした」

「ううむ」

「この騒動の原因、多分俺にあると思うんだよねぇ。きっと村に来た時連れてきちゃったんだね。だからこれは僕が責任持って退治させてもらえないかな?」

「しかし」

「うーん。ここに回収した色喰の卵があります。視えます?」

 うずらの卵程だろうか。香墨が何を掴んでいる仕草をしているが、大きな巡査にも狐月にも持つ真似をしているようにしか見えなかった。

「むむ…」

「でしょう?」

「サクラさん、僕が香墨さんを警護をします。僕にも見えないのでお役に立てるかわかりませんが、我々の監視下の元ご協力願うという形であれば問題ないですよね?」

「勝手にやっちゃダメなのかい? お役所さんは決まり事が多くて大変だねぇ」

「どの道後から事情を聞くことになる。狐月、頼んだぞ」

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